2019年のマーケットの主役は、ポンドであった。2020年も引き続き、主役を引き渡すつもりはなさそうである。
そこで早速、最新のポンドを取り巻く注意点をまとめてみたい。
▼最重要注目点①:マイナス金利導入観測
▼注目点②:国債利回りのマイナス化
▼注目点③:Brexit交渉
▼注目点④:財政事情の悪化
▼ポンド見通し
最重要注目点①:マイナス金利導入観測
5月に入りにわかに注目を浴びているのは、英中銀マイナス金利導入観測である。ブロードベント副総裁、ベイリー総裁、ホールデン英中銀主席エコノミスト、ハスケル外部理事、テンレイロ外部理事、ラムズデン副総裁。この順番で5月中旬の1週間という短期間で「マイナス金利導入は、選択肢のひとつ」と発言したのだから大騒ぎだ。
今まで頑なにマイナス金利には反対の意を示してのに、180度態度が変わった裏側には、英国債利回りのマイナス化が大きく影響していると、私は考えている。
注意すべき点:
ベイリー総裁は、現時点ではマイナス金利導入は考えていないが、選択肢として何度も話し合いに出ていることを認めている。5月理事会では「9対0」で据え置決定となったが、6月18日次期理事会では、どのような投票配分となるのか?注意が必要である。
コンセンサスは、次回理事会では、800億~1000億ポンドの量的緩和策の増額が予想されており、マイナス金利導入は先送りとなりそうだ。
注目点②:国債利回りのマイナス化
①のマイナス金利導入観測と重複するが、5月2週目に、3年物国債がはじめてマイナス金利で入札決定となった。ザラ場でのマイナス化は経験済みであるが、入札時でのマイナス化は史上初めての事であり、その日のマーケットではこの話題で持ちきりとなったことは言うまでもない。
こちらのチャートは、5年物国債利回りであるが、5月3週に入ると3年物だけでなく、5年物国債もマイナス化してきている。
出典: 英債務管理局(DMO)
https://dmo.gov.uk/data/ExportReport?reportCode=D4H
注意すべき点:
英中銀のマイナス金利導入観測と長期金利のマイナス化。どちらもポンドにとっては、売り材料となりやすい。ただし、マーケットでは、マイナス金利導入観測はかなり織り込まれているが、10年国債にもマイナス化が及んでくると、政策金利マイナス化の時期が前倒しされるリスクもあり、注意が必要である。
注目点③:Brexit交渉
6月1日から始まるEU/英貿易交渉第3弾に先駆け、英国とEUとの不協和音が表面化してきた。双方が文書で「公開抗議」を始めており、かなり険悪なムードとなっている。
英国では、交渉期間延長をする雰囲気はなく、最後の最後はボリス・ジョンソン首相の決断を仰ぐことになるのは間違いない。
注意すべき点:
6月の第3弾交渉内容を元に、6月中旬のEUサミットでEU側の態度が決まるだろう。交渉延長は英国/EUどちらからでも要請可能であるが、6月末までなければ、合意なき離脱に向けた動きが加速するだろう。
注目点④:財政事情の悪化
5月22日に英国統計局(ONS)から英国政府の4月分・公的部門純借入額(PSNB)が発表された。
4月単月での借り入れ額は、621億ポンド。この額は、1983年統計開始以来、最悪。2019年度1年間の借り入れ額とほぼ同額となり、前年同月借り入れ額の6倍となった。
注意すべき点:
政府の借り入れがこれだけ増えてくると、心配のタネは格下げリスクである。4月下旬に格付け大手:S&Pは、「パンデミック対策で英国の財政事情は相当苦しくなる。しかし、英中銀と連帯し早急に経済対策を実施したことは、評価に値する。よって、格付け変更は、なし。」と発表した。これは、その前月に同じく格付け大手:フィッチが「パンデミック対策において、財政基盤の大幅な悪化を懸念する。」という理由で、AAからAA-に格下げした判断とは対象的であった。
どれだけ贔屓目に見ても英国の財政事情は良くない。突発的な格下げには、要注意である。
ポンド見通し
政策金利のマイナス化は、英国に限った話しではない。アメリカでは、米FOXニュースが5月14日に行ったトランプ大統領へのインタビューで、「他の国が金利をマイナスにしているのであれば、アメリカもそうすべき。私はアメリカがマイナス金利にする必要性を強く感じている。」と大統領は発言した。パウエルFRB議長をはじめとするFOMCメンバーはマイナス金利の可能性を否定しているが、パンデミックによる経済ショックが予想以上に深かったり、復興がスムーズに行かず金融政策による刺激策がさらに必要となれば、アメリカでもマイナス金利導入観測がもっと出回るかもしれない。
https://twitter.com/mariabartiromo/status/1260873554691854337?s=21
そういう事情もあり、今後のドルの方向性がイマひとつ、うまく掴めないため、ポンドの方向性についても頭を抱えている。
チャートを見る限り、ポンド/ドルやポンド・クロスは、ポンド高に行きそうな形に見えるが、上述のようにポンドに対するネガティブ要因が6月に一気に噴出してくることもあり、あまり楽観視していない。
もしBrexit交渉期間が延長となったり、6月の英中銀理事会で9対0で政策金利が据え置かれたりすれば、ポンドは一度上昇すると考えている。
これは、ポンド円の週足チャートであるが、黄色くハイライトを入れた127/129円は今でも買い場として考えている。127円割れに損切りを置きたい。
元外銀ディーラー
松崎 美子(まつざき・よしこ)氏
1988年に渡英、ロンドンを拠点にスイス銀行・バークレイズ銀行・メリルリンチ証券で外国為替トレーダーとセールスを担当。現在は個人投資家として為替と株式指数を取引。ブログやセミナーを通して、”ロンドン直送”の情報を発信中。