6月は日銀の金融政策決定会合(6月15〜16日)とFOMC(6月16〜17日)が連続して開催される、為替市場にとって最大の山場です。ドル円はどう動くのか。2025年3月まで日銀審議委員を務めた安達誠司氏へのインタビューをもとに、両中央銀行の政策見通しとその後のドル円シナリオを予測します。
【必見!】安達誠司氏のドル円見通し動画
日銀会合(6月15〜16日):政策金利1%への利上げ
政策金利は0.75%→1.0%へ

安達氏は「事前報道通り、利上げの路線で行く」と明言しています。前回会合で現状維持に反対した審議委員3名に加え、その後の講演で利上げ支持を表明した委員が2名います。合計5名が利上げ支持とみられ、採決を通過する公算が大きいと予測しています。
なぜ今1%なのか
安達氏の推計では、日本の基調的インフレ率は2025年3月時点で2%に到達しました。政策金利1.0%は日銀が推計する中立金利のほぼ下限に相当する水準です。「インフレ目標の到達に対応する金利がちょうど1%」という整合性が、今回の利上げを後押しすると分析しています。
内田副総裁の会見:ドル円を動かすのは会見内容次第
植田総裁が入院のため欠席し、会見は内田副総裁が担当します。安達氏は「内田副総裁は極めて冷静で、中立的なスタンスで話すだろう」と予測しています。ただし市場の反応はメディアの切り取り方にも左右されます。緩和継続を強調すれば円安、利上げを強調すれば円高と解釈される可能性があり、会見のトーンがドル円の方向性を決めると予想しています。
国債買い入れ減額の「停止」:円安シナリオに要注意

今会合のもう一つの焦点が、国債買い入れ減額の継続か停止かです。利上げとは異なり「審議委員の意見が割れている」と安達氏は見ています。
安達氏の長期金利上昇の要因分解によれば、日銀の国債購入は現状で約1%の金利押し下げ効果を持ちます。減額を継続すれば金利上昇→円高方向、停止すれば金利低下→円安方向が基本的なシナリオです。ただし停止した場合、「財政規律が緩む」というナラティブが広がれば財政プレミアムが膨らみ、逆に金利が上昇する可能性もあります。安達氏は「最近のドル円相場には、日本の財政要因が色濃く反映されている」と指摘しています。仮に国債買い入れ減額を停止した場合、財政悪化への懸念から円安圧力が強まるシナリオも十分に想定されます。
FOMC(6月16〜17日):据え置きが既定路線、年内利上げも遠のくと予想
FRBは焦って動かないと予測
FOMCの政策金利据え置きは既定路線です。安達氏が注目するのはブレークイーブンインフレ率(市場が織り込む予想インフレ率)で、現在は約2.4%で安定的に推移しています。「FRBにとってインフレはコントロール可能な水準にあり、焦って動く必要はない」という判断です。
新議長はCPIやPCEデフレーターの信頼性に疑問を示し、刈り込み平均などトレンド重視の指標への移行を示唆しています。トリム平均を採用すれば実質的なインフレ率は現行指標より低く算出される可能性が高く、「年内利上げのコンセンサスも、意外と実現しないのではないか」と安達氏は予測しています。
ドル円を動かす会見の焦点:タカ派か、ハト派か

新体制初のFOMC会見で市場が注視するのは、新議長がどちらの懸念に軸足を置くかです。インフレへの言及が多ければタカ派と解釈されドル高・円安、雇用・景気に軸足を置けばハト派と解釈されドル安・円高へ振れると予測されます。
雇用指標は現在「良くもなく悪くもない均衡状態」にあり、AI関連設備投資と個人消費は底堅い状況です。新議長の発言次第でドル円が数円単位で動く可能性があり、日銀会見と並ぶ今週最大のイベントになるでしょう。
ドル円見通し:円安トレンドは継続、ただし上値は重いと予想
メインシナリオ:155〜160円レンジでの円安推移を予測
日米の金融政策スタンスの非対称性が円安バイアスの根拠です。日銀は緩和スタンスを維持しながら段階的に利上げを進める一方、FRBは据え置き継続で利上げが遠のくと予測しています。この構図から「金融政策のバランスはやや円安方向」と安達氏は分析しており、当局の口先介入が上値を断続的に抑えながら緩やかな円安が続くとみています。162〜164円台への上昇については「そこをチャレンジするには勇気がいる水準」と語っています。節目を突破できれば水準を切り上げる展開も予想されますが、政府側からの牽制が一段と強まると考えられるため、慎重姿勢が基本シナリオとなります。
円高リスクシナリオ:米国株急落=AIバブル崩壊に要警戒

メインシナリオを覆す最大のリスクは、米国株の急落です。AI関連銘柄への過度な集中投資がドットコムバブル崩壊型の調整局面に発展した場合、積み上がった円ショートポジションが一気に巻き戻され、急速な円高が進行するリスクがあります。AIバブルの崩壊が、ドル円相場の最大のリスク要因といえるでしょう。
まとめ
安達誠治氏の見解を総括すると、ドル円は円安基調が続くものの、162〜164円台では政府・日銀による牽制が強まり、上値は限定的になると予測されます。最大のリスクは米国株急落による円高への反転です。今週は以下の5つのポイントを軸に相場と向き合う必要があると言えます。
・日銀会合(6/15〜16):1%利上げ、反対票数が少ないほど円高圧力
・内田副総裁会見(6/16):緩和トーンなら円安、利上げ継続を強調するなら円高へ
・国債買い入れ(6/16):買い入れ減額の停止+財政への懸念が広がれば円安方向に
・FOMC(6/16〜17):据え置きが既定路線、ハト派トーンならドル安・円高
・新議長会見(6/17):利上げへの示唆があればドル高・円安が進む可能性
東京大学経済学部卒業。一橋大学大学院修士課程修了。 大和総研、富士投信投資顧問、クレディ・スイスファーストボストン証券会社、ドイツ証券等を経て、2020年日銀政策委員会審議委員に就任。2025年3月任期満了により退任。 著書に『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社、2004年日経・経済図書文化賞受賞)、『脱デフレの歴史分析―「政策レジーム」転換でたどる近代日本』(藤原書店、2006年河上肇賞受賞)、『恐慌脱出―危機克服は歴史に学べ』(東洋経済新報社、09年政策分析ネットワーク賞受賞)ほか多数。
外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
本サイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。また本サービスは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであって、投資勧誘を目的として提供するものではありません。投資方針や時期選択等の最終決定はご自身で判断されますようお願いいたします。なお、本サービスの閲覧によって生じたいかなる損害につきましても、株式会社外為どっとコムは一切の責任を負いかねますことをご了承ください。

