
※登壇者の発言は収録時点の情報に基づいた見解となります。
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2026年3月に公開した前回インタビューで、経済アナリストの朝倉慶氏は「ドル円170円」のシナリオを示し、株高・円安・インフレが同時に進む時代に備えるべきだと警告しました。
それから約3カ月。円安の進行、物価高、日銀の金融政策、日本株の急騰は、いずれも前回以上に重要なテーマとなっています。今回の記事では、前回の見方がどう維持され、どの部分がより具体化されたのかを比較しながら、2026年後半のドル円相場を読み解くうえでのポイントを整理します。
朝倉慶氏|前回(2026年3月公開)の見解
●ドル円170円は「保守的な予想」
前回インタビューで朝倉氏が強く打ち出したのは、2026年のドル円が170円方向へ進む可能性です。
その根拠は、単なる日米金利差だけではありません。日本ではインフレ率に対して金利が低い状態が続き、円を持つこと自体が実質的な資産の目減りにつながりやすい。さらに、財政拡張や輸入に伴う強いドル買い需要も、円安圧力を強める要因になるという見方でした。
朝倉氏は、160円から165円付近で為替介入が入る可能性には触れつつも、介入はあくまで一時的な円高要因にとどまり、大きな円安トレンドを変えるものではないと指摘しました。
●高圧経済政策は、今の日本には合わない

前回の大きな論点のひとつが、高市政権の経済政策として意識される「高圧経済」への警鐘でした。
高圧経済は、デフレや需要不足の局面では有効な考え方です。しかし朝倉氏は、現在の日本が直面している問題は需要不足ではなく、供給不足だと見ています。
建設資材の不足、人手不足、米価格の上昇、介護・建設などの現場での人材不足。こうした供給制約がある中で財政支出によって需要を増やしても、供給力が向上しなければ、物価をさらに押し上げるだけになりかねません。
つまり前回の朝倉氏の主張は、「景気を刺激すれば解決する」という単純な話ではなく、供給力が追いつかない中で「バラマキ政策」を実施すると、円安・インフレが進みやすいというものでした。
●「幸せな株高」ではなく、通貨価値低下の裏返し
前回、朝倉氏は日本株の上昇についても独自の見方を示しました。
日経平均株価が大きく上昇している一方で、多くの人が生活の豊かさを実感できていない。その理由は、株や不動産、金などの資産価格が上がっているように見えても、実際には現金の価値が下がっている面が大きいからだという説明です。
朝倉氏は、これを「インフレタックス」、つまり見えない増税として捉えました。預金口座の残高は減っていなくても、同じ金額で買えるものが少なくなれば、実質的には資産が減っているのと同じです。
前回のメッセージは明確でした。デフレ時代の感覚で現金を持ち続けることは、インフレ時代にはリスクになり得るということです。
●前回のまとめ
前回の朝倉氏の見解は、次のように整理できます。
・ドル円は170円方向へ進む可能性がある
・為替介入は一時的な円高要因にしかならない可能性
・現在の日本経済の問題は需要不足ではなく供給不足
・財政拡張は円安とインフレを強めるリスクがある
・株高やゴールド高は、通貨価値低下の裏返しでもある
・インフレ時代は「動かないこと」自体がリスクになる
朝倉慶氏|今回(2026年5月公開)の最新見解
●インフレ長期化の本質は、供給不足にある
今回のインタビューで、朝倉氏の見方は前回から大きく変わったわけではありません。むしろ、前回示した問題意識がより具体的に整理された印象です。
今回、特に強調されたのは、インフレが一時的な需要増だけで起きているのではなく、日本経済の供給制約によって長期化しやすいという点です。
建設資材、労働力、物流など、供給面の制約は簡単には解消しません。少子高齢化と人口減少が進む中では、物価上昇圧力が高まりやすいという見立てです。
●日銀の利上げは、インフレに追いついていない

今回、日銀の金融政策についても、朝倉氏は厳しい見方を示しています。
日銀は金融政策の正常化を進めていますが、朝倉氏は対応が後手に回っていると見ています。通常、利上げは景気を冷やし、需要を抑える政策です。しかしインフレ局面では、企業が在庫確保や設備投資、原材料調達のために資金を必要とするため、多少金利が上がっても資金需要が簡単には減らない可能性があると分析しています。
デフレ時代の「利上げすれば需要が減る」という常識が、そのまま通用しない局面に入っている。ここが今回の重要なアップデートです。
●円安が続く3つの理由
今回のドル円見通しでも、朝倉氏は円安継続シナリオを維持しています。
理由として挙げられるのは、主に3つです。
1つ目は、日米の金利差です。米国の金利水準が相対的に高い状態が続けば、資金はドルに向かいやすくなります。
2つ目は、財政拡張です。補助金や財政支出の拡大は短期的には家計支援になりますが、財源が赤字国債に依存すれば、長期的には円の価値を押し下げる要因になります。
3つ目は、実需のドル買いです。日本はエネルギーや資源を輸入に頼っているため、円を売ってドルを買う需要が構造的に発生し続けます。
この3つが重なる限り、為替介入で一時的に円高へ戻しても、円安トレンドそのものを転換させるのは難しいというのが朝倉氏の見方です。
●日本株上昇はAI需要とインフレが支える

今回のインタビューでは、日本株についても前回より具体的な説明がありました。
朝倉氏は、日本株の上昇を「インフレ時代の株高」と捉えています。物価が上がり、現金の価値が下がる局面では、株式、不動産、金などの実物資産に資金が向かいやすくなります。
加えて、今回はAI関連需要も重要な材料として挙げられました。半導体、電子部品、データセンターなどへの投資が拡大し、それらに関連する企業の利益が押し上げられているという見方です。
また、AI関連銘柄を多く含む日経平均株価がTOPIXを上回る展開、つまりNT倍率の上昇も注目点として語られました。今後は、AI関連から銀行・建設・不動産などへ物色が広がるかどうかも焦点になります。
ただし、株高がすべての人の豊かさにつながるわけではありません。資産を持つ人と持たない人の差が広がる可能性があり、インフレ時代の株高は、格差拡大という側面も持っていると朝倉氏は指摘しています。
前回から今回で変わったこと・変わらなかったこと
●変わらなかったこと
第一に、ドル円170円方向という大きな見通しは変わっていません。前回は「170円は保守的な予想」とされ、今回も円安継続シナリオが維持されています。
第二に、インフレの本質を供給不足と見る点も変わっていません。財政支出で需要を刺激しても、供給が増えなければ物価上昇を招きやすいという見方は一貫しています。
第三に、現金のみを保有することに伴うリスクについても、引き続き警鐘を鳴らしています。インフレによって購買力が低下する中では、預金が安全に見えても、実質的には目減りしている可能性があります。
●変わったこと
一方で、今回のインタビューでは、前回よりも論点が整理されました。
前回は「株高・円安・インフレが同時に進む時代への警告」という色合いが強く、インフレタックスや高圧経済への批判が中心でした。
今回では、なぜインフレが続くのか、なぜ日銀の利上げが効きにくいのか、なぜ為替介入だけでは円安を止めにくいのかが、より構造的に説明されています。
また、日本株についても、単に「インフレで資産価格が上がる」という話にとどまらず、AI需要やNT倍率の上昇、今後の物色の広がりといった、より具体的な市場テーマに踏み込んでいます。
つまり、前回は「時代が変わった」という警鐘、今回は「その変化がどのように進んでいるのか」という確認に近い内容です。
まとめ|個人投資家へのメッセージ
前回から今回にかけて、朝倉氏の見方の軸は大きく変わっていません。
円安は一時的な為替変動ではなく、金利差、財政拡張、実需のドル買い、供給制約によるインフレといった複数の要因が重なった構造的な動きとして捉えるべきだということです。
また、日本株の上昇についても、インフレによる名目値の上昇、強いAI需要、通貨価値の低下という複数の要因が絡んでいます。
個人投資家にとって重要なのは、なぜ円安が続いているのか、なぜ物価が下がりにくいのか、なぜ現金のままでは購買力が落ちるのかを理解することです。
デフレ時代には、何もしないことが安全に見えました。しかしインフレ時代には、何もしないこと自体がリスクになります。
朝倉氏の一貫したメッセージは、相場の短期的な変動を当てることではなく、時代の変化に適応することの重要性にあります。株高・円安・インフレが同時に進む環境では、株式や不動産、外貨などをの資産どう組み合わせて保有するかが、これまで以上に重要になっていくでしょう。
朝倉慶(あさくら・けい)
1954年、埼玉県生まれ。1977年、明治大学政治経済学部卒業後、証券会社に勤務するも3年で独立。顧客向けに発行するレポートが、この数年の経済予測をことごとく的中させる。船井幸雄氏が著書のなかで「経済予測の超プロ・K氏」として紹介し、一躍注目される。 2008年に初めて著書を出版し、以降、ベストセラーとなる本を次々と出版。
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