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図表で見る米国株コインベース(Coinbase)の2025年3月期(1Q)決算と株価動向分析

(画像=iStock)

 トランプ政権による規制緩和への期待から、大きな成長が見込まれている暗号資産業界。中でも暗号資産取引所の最大手「コインベース」は、米国株の中でも注目の的です。そこで今回はコインベース(Coinbase)の財務状況を分析してみましょう。

 コインベース(Coinbase)のFY2021~FY2024の通期データと、2025年3月期(FY 1Q)の最新データを用いて、「P/L(損益計算書)」のデータから「売上高や営業利益の増減、利益率の変動」を示し、「B/S(貸借対照表)」で「流動・固定資産や負債構成、自己資本比率の推移」、「C/F(キャッシュフロー計算書)」で「営業・投資・財務キャッシュフローと現預金残高の変化」について、グラフなどを使いながら解説してみます。

コインベース(Coinbase)の損益計算書

 まず2021年から2024年までの通期と2025年3月期(FY25 1Q)の損益計算書から分析してみます。

(※1) 成長率は前期損益がマイナス場合、数学的に計算できないため「―」を入れています

売上高・営業利益と暗号資産市場の動向

 コインベース(Coinbase)の売上高はFY2021の7,839百万ドルからFY2022の3,194百万ドルへと急落しました。FY2023は3,108百万ドルで停滞したものの、FY2024には6,564百万ドルへと大幅に回復しました。同期間の営業利益率39.3%→△84.8%→△5.2%→35.1%と激しく変動しましたが、FY2024には営業利益が2,307百万ドルの黒字化に成功、V字回復を果たしました。

 このようなコインベース(Coinbase)の売上や利益の変動は、これまで暗号資産市場を揺るがしてきた重要イベントと連動しています。そこで各年の主要なトピックを整理してみました。

暗号資産市場の主要トピックス(2021年〜2024年)

(※2)FTXは暗号通貨業界第2位の大手取引所と暗号ヘッジファンドの運営会社。2022年11月に破綻した。同社の創業者フリード被告にNY地裁は禁錮25年、資産110億ドル没収の判決を下した

(1)売上高の動向

・FY25 1Q(3月期)
 売上高は2,034百万ドル(前年同期比+24.2%)と、FY2024の通期売上6,564百万ドルの約31%を第1四半期で既に確保しています。前年から続く高い収益力が維持できていることがうかがえます。

・FY2021~FY2024 通期
 売上高の推移 2021年:7,839 → 2022年:3,194(–59.3%)→ 2023年:3,108(–2.7%)→ 2024年:6,564(+111.2%)

 2022~23年にかけて大幅に落ち込んだ後、2024年に再び倍増しました。暗号資産市場の回復や手数料体系の改定が大きく寄与しました。

(2)営業利益の動向

※3 営業損益成長率のグラフは、FY23、FY24は前期の損益がマイナスの場合、数学的に計算できません。ただし、 FY24通期とFY25 1Qの回復状況を分かりやすくするために筆者が線描しました

 

・FY25 1Q
 営業利益は706百万ドル(営業利益率34.7%、前年同期比–7.1%)。四半期単独で7億ドル超を計上しました。FY2024に引き続き高収益性を維持しています。

・FY2021~FY2024 通期
 営業利益の推移 2021年:3,077 → 2022年:△2,710→ 2023年:△162 → 2024年:2,307

 2022~23年は2年連続で赤字となりましたが、2024年に再び黒字化を達成しました。コスト構造の見直しと取引量増加が利益改善を後押ししました。

 

(3)当期利益(純利益)の成長

・FY25 1Q

 当期純利益は66百万ドル(前年同期比–94.4%)です。前年同期(FY2024 1Q)の1.17億ドルと比較すると大幅に落ち込んでいます。

・FY2021~FY2024 通期
 純損益の推移 2021年:3,624 → 2022年:△2,625→ 2023年:95 → 2024年:2,579

 負の税効果や一過性損失で赤字を計上した後、2023年の微益を経て2024年に25億ドルを超える純利益を回復しています。これを成長率でみると、2024年には約2,614%というあり得ないような数値を記録しました。これは実業における成長というよりも、税制メリットやコスト管理の効果が大きく寄与しており、「ハイリスク・ハイリターン」という暗号資産ビジネスの特徴をよく示していると思います。

(4)株主価値指標の動き(FY2021~FY2024)

(※)PERは最終損益が赤字の場合、算出することができないため、グラフは非表示にしました

・EPS:14.26 → △11.83 → 0.37 → 9.48

・PBR:8.6倍 → 1.5倍 → 6.7倍 → 6.1倍

 EPSは業績に合わせて大きく変動。PBRは2024年に株価が純資産・利益拡大を織り込みつつ適正化された水準に戻り、FY25 1Qも6倍台で推移しています。

 FY25 1Qは売上・営業利益ともに前年同期比で減速したものの、高い営業利益率を維持、FY2024から引き続き収益性の高い四半期でした。一方、通期ベースでは2022~23年の調整期を経て2024年に大幅回復を果たし、株主価値指標も安定化傾向にあります。今後は市場環境の変動を注視しつつ、取引量拡大とコスト最適化で成長が継続できるかどうかがカギとなるでしょう。

コインベース(Coinbase)の貸借対照表

 続いて貸借対照表を分析します。

(5)資産の動向 

・FY2021–FY2024流動資産の推移 2021年:18,374→2022年:86,448→2023年:11,357→2024年:18,113

 FY2022の大幅な増加は、2022年に適用が開始された米国証券取引委員会(SEC)の「スタッフ会計公報第121号(SAB121)」により、顧客から預かっている暗号資産を貸借対照表に資産として計上することが求められたためです(これにともない同額の負債も計上されました)。

 続くFY2023の急減は、2025年1月23日にSAB121で示された会計指針を取り消して、代わりに適用されたSAB122に基づき、顧客預かり暗号資産を貸借対照表から原則として除外(オフバランス化)したことによるものです。これは2023年の財務諸表にまで遡って適用することが義務付けられました。

 その結果、FY2023およびFY2024の流動資産は、SAB121による会計方針変更の影響が剥落したため、FY2024をみると18,113百万ドルと、SAB121適用前のFY2021の水準に近い値に戻っています。これらの会計方針変更の影響を除いた期間における流動資産の変動は、暗号資産の時価評価や取引残高の増減、キャッシュ管理方針などが影響していると考えられます。

 固定資産の推移 2021年:2,901 → 2022年:3,277 → 2023年:3,397 → 2024年4,429

 このように固定資産は毎年着実に増加しました。これはインフラ整備やシステム投資を継続していることを示しています。

・FY25 1Q
 流動資産は 18,113百万ドル(FY2024末)→17,454百万ドル(FY25 1Q末)と、わずかに減少(–659百万ドル)したものの、概ねSAB122適用後の水準で堅調に推移しています。固定資産は4,429百万ドル (FY2024末) → 4,277百万ドル (FY25 1Q末) とやや減少(–152百万ドル)していますが、四半期ごとの減価償却や資産組替の影響と考えられます。

(6)負債の動向

・FY2021–FY2024

 流動負債の推移 2021年:11,419 → 2022年:80,815 → 2023年:5,485 → 2024年:7,941

 FY2022の流動負債の急増は、主にSAB121の適用により、顧客預かり暗号資産に対応する同額の負債を計上したためです。FY2023の大幅な減少は、SAB122の適用に伴い、これらの負債の認識を中止したことが主因です。

 FY2024は7,941百万ドルでした。会計方針変更の影響を除いた水準となりました。SAB121/122の影響以外の短期負債の変動は、取引所運営にともなう通常の顧客預かり金(法定通貨等)やデリバティブ関連の短期ポジションの増減が反映されたものと推察されます。固定負債の推移 2021年:3,474 → 2022年:3,455 → 2023年:2,987 → 2024年:4,324

 多少の増減はあるものの、概ね4,000百万ドル前後で毎年推移しています。

・FY25 1Q
 流動負債は7,941(FY2024末)→ 6,933(FY25 1Q末)と減少(–1,008百万ドル)しました。運転資金の一部がキャッシュ化された様子がうかがえます。固定負債は4,324(FY2024末)→ 4,329(FY25 1Q末)とほぼ横ばい(+5百万ドル)で、長期借入や社債の大きな動きは見られません。

(7)純資産の動向

・FY2021–FY2024
純資産の推移 2021年:6,382 → 2022年:5,455 → 2023年:6,282 → 2024年:10,277

 純資産はFY2022に一時減少した後、FY2023で回復、FY2024に大幅に積み増しされました。2024年の約4,000百万ドル増加は、利益剰余金の蓄積や新規株式発行による資本増強が要因と考えられます。

・FY25 1Q
 純資産は10,277(FY2024末)→10,468(FY25 1Q末)と着実に増加(+191百万ドル)しています。四半期毎の利益剰余金が蓄積されたことが主因です。コインベース(Coinbase)の自己資本充実は続いています。

 

(8)流動比率の動向

・FY2021–FY2024
 流動比率(流動資産÷流動負債)の推移 2021年:160.9% → 2022年:107.0%→ 2023年:207.1% → 2024年:228.1%

 FY2022に107%だった流動比率は、FY2023以降、200%超の高水準に改善しました。短期支払能力の大幅な向上がうかがえます。

・FY25 1Q
 流動比率は228.08%→251.74%とさらに上昇しました。短期的な債務返済余力は盤石な状態を維持しています。

(9)自己資本比率の動向

 FY2021–FY2024自己資本比率(純資産÷総資産)の推移:2021年:30.0% → 2022年:6.1% → 2023年:42.6% → 2024年:45.6%

 FY2022に6.1%まで低下した後、FY2023以降は40%台後半に改善しました。FY2022の落ち込みは、流動資産急増にともなう一時的な分母膨張の影響と推測されます。

・FY25 1Q
 自己資本比率は45.59%(FY2024末)→ 48.17%(FY25 1Q末)に上昇しました。資本充実が続く一方で、資産規模の増加を利益剰余金でしっかり支えていることがわかります。

コインベース(Coinbase)のキャッシュフロー計算書

 最後にキャッシュフロー計算書を確認します。

(10)営業キャッシュ・フロー(営業CF)の急拡大

 ・FY2021–FY2024
 営業CFの推移 2021年:+4,038 → 2022年:△1,585 → 2023年:+923 → 2024年:+2,557

 2021年の高水準から、2022年は暗号資産市場の環境悪化でマイナスに転落。その後は取引回復にともない、2023年、2024年ともにプラスに回復・拡大しています。

・FY25 1Q

 1Q(3月期):△183

 四半期ベースで183百ドルのマイナスです。年度末に向けたプロモーション、運転資本増加の影響で、一時的にキャッシュが減少したとみられます。

(11)投資キャッシュ・フロー(投資CF)の変化

・FY2021–FY2024
営業CFの推移 2021年:△1,125 → 2022年:△664 → 2023年:+5 → 2024年:△282

 2021~22年はプラットフォーム拡張やインフラ投資で大きく支出が増えました。2023年はほぼ”トントン”の状態。2024年は少しだけ投資額が増えました。

・FY25 1Q
 1Q(3月期):△232

 四半期だけで2.3億ドルを投資に回しています。年度初めに開発プロジェクトやインフラのメンテナンスが重なった模様です。

(12)財務キャッシュ・フロー(財務CF)の推移

・FY2021–FY2024

 財務CFの推移 2021年:+9,976 → 2022年:△5,839 → 2023年:△811 → 2024年:+2,829

 2021年のIPO・資金調達を経て、2022~23年は借入返済や株主還元で流出。2024年は再び増資や借入でプラスに転じました。

・FY25 1Q
 1Q(3月期):△894

 四半期で894百万ドルを自己株買い・借入返済などに充当、2025年度は財務調整を慎重に進めるフェーズに入っているようです。

 コインベース(Coinbase)はFY2021にIPO(新規株式公開)で巨額の資金調達を実施して以降、事業環境に応じて「稼ぐ」「投じる」「調達/還元」のバランスを柔軟にシフトさせてきました。最新1Qでは営業CFが一時マイナスとなりましたが、他方で投資CF・財務CFを通じた戦略的資金運用が継続しています。四半期ベースでも財務・投資の手綱を緩めず、事業を運営している様子がうかがえます。今後もキャッシュフローの動きに注視して、同社の成長と財務健全性の両立を見極めていく必要があります。

コインベース(Coinbase) 3月期決算の総括

 2021年から2024年にかけて暗号資産市場は大きく変動しました。コインベース(Coinbase)を筆頭に暗号資産ビジネス関連企業の業績も、これに連動しました。トランプ政権は暗号資産ビジネスの推進を標榜し、規制緩和への期待から暗号資産市場は活況となり、コインベース(Coinbase)のような暗号資産ビジネス関連会社の業績に大きな期待が寄せられています。しかし、トランプ関税のような「保護主義」的な経済政策の影響で、リスク回避の動きから、ビットコインの価格が急落するなど、不安定な要素も少なくありません。

 企業の財務諸表を分析すると、その企業の収益構造、リスク許容度、成長の可能性を客観的に評価するための情報が得られます。それは市場の短期的な動向に左右されることなく、企業価値を評価するための一助となります。暗号資産市場のような不確実性の高い業界で、合理的な投資決定を行うためには、財務分析は欠かせないツールです。ハイリターンが期待できるコインベース(Coinbase)に投資する際には、ハイリスクにも備えるようにしましょう。

(本文ここまで)

 
岩田仙吉(いわたせんきち)氏
株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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