戸田です。
本シリーズでは「負けないFXトレーダーを育てる」をコンセプトに、新人トレーダー(個人投資家)にありがちな落とし穴と、その対策を通じて、読者のみなさまの実力UPに役立つ内容をご報告します。
第21回目は「ナンピンは本当に悪いことなのか?」です。
目次
1. ナンピンはやってはいけないのか?
2. ナンピンの活用方法とは?
3. まとめ
1.ナンピンはやってはいけないのか?
インターネットで記事を閲覧していると、ナンピンはやってはいけない投資手法として名高いようで驚きました。
ナンピンとは、エントリーのコストを平準化する手法のことです。例えば140.50円の時にドル/円が上昇すると思って買い持ちしていたと仮定し、結果として下落してしまい、140.00円、139.50円と買い下がっていくことで、持ち値を140.00円で平準化することを指します。
もちろん139.50円まで下落することがあらかじめ分かっていれば、139.50円に到達した時点で買えば良いのですが、事前にどこまで下落するかは分からないです。そのため概ねこの辺りで買えば良い勝負になるだろうというところでは追加で買いを入れていき、買い下がっていくことを戦術的に行うのがナンピンです。
この時にさらに下に突き抜けてしまうと損が大きくなってしまいますが、反対にどこかで食い止められて反発すると利が乗ってくるのが特徴です。
これ何か問題があると思いますか?私は何も問題ないと思います。
しいて言うならば金額が大きくなりがちになること、かも知れませんが、ナンピンの回数や、取引金額に上限を設けることでリスクをコントロールすることが可能です。また先進国間の外国為替市場(例えばドル/円など)はある程度、上下運動を繰り返す特性を有していると思っているので、むしろ優位性は高いと思います。
職業でディーラーを担当していた時も、凄腕の方々はナンピン、分割利食いを駆使していましたし、そもそも金額が大きくなってくると1トレードのスプレッドが開きますので、そういう意味でも分割エントリー、ナンピン(用語は様々ですが、複数回に分けてエントリーする投資行動)は有効な手法になってくると思います。むしろ私はトレードの上手い方はナンピンを駆使しているくらいに思っているのが本音のところです。
2.ナンピンの活用方法とは?
ではナンピンを有効に活用できるのはどういった局面でしょうか?私はナンピン単体と言うよりは、ナンピン+精度の高い相場観があるとワークしやすいと思っています。
例えばドル/円は上に行くはずだという相場観があったとします。この時にドル/円に調整が入り、下落した場合はナンピンのチャンスです。
2022年7月末~8月初旬のドル/円調整局面における日足チャートを用いて例示します。丸で囲んだ箇所では大きな調整が入り、一時130.38円まで下落しましたが、現在(2022年9月5日)のドル/円相場は140円台まで上昇していますので、結果的にみてここは非常に大きなドル買いのチャンスでした。
ドル/円日足チャート 外貨ネクストネオ
この局面を振り返ってみれば、何かファンダメンタルズ的に大きな変化があったわけではなく、市場が過度に米金利低下を織り込みすぎたことと、溜まっていたドル/円ロングに利食いが入ったことで発生した一時的な調整だったと思います。したがってその後のドルの買戻しは非常に強烈なものとなりました。
この局面においては下押し圧力が強かったのでロットが大きいと、拾っても切らされる展開でした。ですがロットを抑えて133円台あたりから、1円ごとに拾っていれば、スイング軸の中でかなり大きくワークした局面でもありますので、ナンピンが有効だったと言えます。
続いてドル/円の時間足をみていきましょう。こちらは見やすさに重点を置いたため日付が表示されていませんが、8月26日~27日にかけてのチャートです。
ドル円/時間足チャート 外貨ネクストネオ
この局面では一時的にストップを巻き込み直近安値の136.318を下抜けて136.166まで下落していますが、結果的にドル買いの好機となっています。このように、ストップが掃き出した局面というのも、ナンピン買い、買い増し、分割エントリーなどの検討タイミングとなります。さらに言えば追加で買った分は、早期に利食いを入れてもよいため(必ずしも長期保有しなくても良いので)、ポジションの保有戦略の幅が広がるはずです。
これら2つの事例に共通しているのは、単なる調整局面であったからナンピンがワークしたということです。したがって単なる調整であると判断した場合には、安いコストでドルを買う大きなチャンスとなるわけですから、ある程度下落が落ち着いた、または落ち着くであろうと判断される水準に達したら、ナンピン買いを仕込んでいきます。こうすることで、ドル/円を安い水準で買うことが可能で、想定通りに反発上昇した場合に大きな利益に繋がります。
ここで気をつけなければならないことは、自分の相場観は本当に正しいのか?ということです。例えば今年(2022年)のドル/円の上昇局面において、個人投資家でドル/円を売りからエントリーしてしまい、それで含み損を抱えてしまい、さらにナンピンで売り上がって、大きな負けを計上した方も少なくないと思います。これは結果的には、相場観が間違えていたということです。
ドル/円が上にいくか、下にいくかを精度高く判断するには、体系だった分析に基づく相場観の形成が必要となります。また熟練されたプロの投資家でも相場観を見誤ることは多々あります。したがって、相場観の形成トレーニングを継続的に行うことに加えて、リスク管理を徹底することが重要となります。ようは相場観もなく無限にナンピンをしていてはそのうち破産してしまうので、きちんと一つの投資戦略として捉え、徐々に熟練させていこうということです。
3.まとめ
最近のネット上の情報発信を見ていると、これはやっちゃいけないとか、これはやるべきだとか、論が2極化するのが特徴と思います。ですがどのような手法にも互いにメリット、デメリットがありますので、あまり鵜呑みにせず、そんな考え方もあるのだなと、軽く捉えた方が良いです。そもそも情報発信している人の単なる感想だったりすることが多く、ようは事実に基づかないケースも大変多く散見されますので、あまり真剣に見てもかえって疲れるだけと思います。
かといって分析に基づく論文を読みなさいと言っても、なかなか分かりづらく読みにくいということも事実としてあります。長年、外国為替市場に身を置いている私から見ても、時間を掛けて読まなくては分からないものもあります。
ではどのように自分なりの正解に落とし込んでいけばよいのか?ということですが、これはやはり実践あるのみではないでしょうか。実践であれば、難しい文章を読む必要はありませんし、一方で身銭を切っている分、緊張感もありますので、素早く身体に教え込むことができます。金額は自分が痛いと思える程度で、且つ負けたとしても生活に支障がない程度が望ましいと思います。
ぜひ聞いた情報や見た情報を鵜呑みにするのではなく、それを自分で試してみると言うことを心掛けてみてください。きっと飛躍的に成長できるはずです。
それでは本日はここまでとなります。
最後までご覧いただきありがとうございました。
戸田裕大
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