こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、日本ではまだまだ情報の少ない中国経済や人民元について、報道や公表データ、現地の報告などをもとに、相場の見通しを立てていきます。中国の金融経済が世界の金融市場に与える影響は年々大きくなっていますので、人民元や他通貨の売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第11回は「ファンダメンタルズもセンチメントも弱い人民元」といたしまして、相場見通しをお伝えいたします。
結論から申し上げますと、対ドルはドル高・人民元安が継続する目線、対円もやや弱含む展開を想定しています。
順に見ていきましょう。
目次
1.人民元相場の定点観測
2.ファンダメンタルズはドル高・人民元安を示唆
3.上海など大都市のロックダウン懸念が渦巻く
4.対ドルはトレンドフォロー、対円は6ヵ月移動平均を目安に押し目買い
1.人民元相場の定点観測
まず簡単に足元の人民元相場を振り返ります。
人民元相場の変化
USD/CNH(ドル/人民元)相場ですが、前回の寄稿時(4月18日)と比べて4245Pipsも上昇しました。USD/CNHがここまで大きく変動するのはかなり珍しいですが、長らく拮抗していた6.40レベルを上抜けてからは、ほぼ一本調子でドル高、人民元安が進んでいます。このように急に動いて、しばらくトレンドを形成するのが人民元の特徴ですので覚えておきましょう。
USD/CNH 日足
CNH/JPYは0.86円下落しています。ドル/円は今回の観測期間において上昇していますので、まさに人民元が主導した下落と言えます。背景には急激な米中金利差の縮小や、上海など中国主要都市のロックダウン、市場全体に漂うリスクオフムードなどが挙げられます
CNH/JPY 日足
2.ファンダメンタルズはドル高・人民元安を示唆
まずは人民元相場を占う上で重要な物価・金利動向について見ていきます。
中国とアメリカの金利と物価の比較表
ポイントは3点です。
1点目が短期の3ヵ月物金利が急速に縮まっており、その差が0.72%程度しかなくなっていることです。短期の金利はスワップポイントなどに直接的に影響するので、為替への感応度は高いです。米短期金利が急速に上昇する中で、人民元金利のレベルに迫ってきており、これが人民元売りの大きな要因になっています。
2点目が国債の利回りはすでに米金利の方が高くなってきてしまっていることです。投資家の視点で考えれば同じ利回りであれば中国の国債よりも米国債の方が安心して持てるので、中国の国債よりも米国債、すなわち人民元よりも米ドルに資金が流れている可能性が高いです。
3点目がインフレ圧力です。中国は物価コントロールが割と効いているのですが、米国はかなり強いインフレ圧力に悩まされており、金融政策の差が意識されています。
例えば先週、中国人民銀行の陳雨露副総裁は「市場の貸出金利をさらに引き下げて、企業などの資金調達コストを減らし、資金需要を刺激する」と述べました。一方でアメリカは毎FOMC会合における0.50%程度の利上げを想定しており、この点が強く意識されていると考えます。
3.上海など大都市のロックダウン懸念が渦巻く
中国のゼロコロナ政策を実施するため、大都市、上海でロックダウンが長期化しています。またその他の都市においてもコロナウイルス抑え込みのため、経済活動に支障をきたしています。
これが経済活動の下押し圧力へと繋がっており、例えば5月16日に発表となった中国の4月小売売上高は前年比で▲11.1%、前月比で▲13.9%、それから絶対値としても非常に弱い数値が出てきました。内容を確認すると衣類、嗜好品、車などの販売が大きく落ち込んでおり、外出の機会が減っていることが窺えます。
中国の4月小売売上高
新型コロナウイルスの新規感染者数そのものは減少に転じており、6月には都市封鎖を解除するとの報が伝わっていますが、これは感染状況によって変わると思いますので、新型コロナウイルスが少しでも蔓延すると再びロックダウンとなることも想定されるため、このあたりは投資家のセンチメントを著しく悪化させていると感じています。
中国の一日あたり感染者数の推移
4.対ドルはトレンドフォロー、対円は6ヵ月移動平均を目安に押し目買い
想定しているシナリオは以下の通りです。
来月の人民元相場の目安
まず対ドルですが、6.80~6.98をコアレンジと想定しています。6月にロックダウンが解除されるといった報道や、アメリカの対中国関税が和らぐと言った報道も出ていますが、目先はファンダメンタルズを反映し人民元が売られドルが買われやすいと思います。6.98は割と強めのレジスタンスになると思いますので、この辺りを一つのターゲットにドル買いで攻めていくのがよいと考えます。
急ピッチの上げですので下がりだすと怖いですが、そこは損切りを行いながら、上昇の流れについていきたいと考えています。損切りの目安としては人民元は1000pips単位で節目になっていますので、まずは6.80、次に6.70と意識しておけばよいです。6.60を割ってきたら一旦は材料が変わっている可能性に留意しておきましょう。
先週、ドル/円(USD/JPY)の上昇が10週ぶりに止まりましたので、特に対円の下押しには十分警戒しておきたいところです。
単純移動平均線を4つ載せていまして、それぞれ上から1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月、1年ですが、今は3ヵ月~6ヵ月くらいの間で推移しています。上昇基調を維持すると仮定すれば、6ヵ月の移動平均(ピンク色)あたりで押し目買いと言うのも考えていけます。
USD/JPYとUSD/CNHをそれぞれ見ながら、この姿勢が適切な判断ができると思いますが、あくまで一つの目安として上昇トレンドが継続するという仮定の下、拾っていくのも中長期的な戦略ではワークするかも知れません。
以上が私の現時点における人民元相場との対峙方法になります。ご参考にして頂ければ幸いです。
引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
戸田裕大
<参考文献・ご留意事項>
各種為替データ:
CNH/JPY:外貨ネクストネオ
USD/CNH:https://investing.com
米国の3ヵ月物金利:iborate.com
中国の3ヵ月物金利:Investing.com
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【インタビュー記事】

代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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