昨日の海外市場でドル円は、米国株相場や日経平均先物が大幅に下落したことが重しとなり、一時154.13円まで下落。ただ、FRB高官から12月の利下げに慎重なコメントが相次いだことで154円半ばまで下げ幅を縮めた。ユーロドルは1.1656ドルまで上昇した。
本日の東京時間でのドル円は、引き続き高市政権の放漫財政への懸念から円安基調は変わらないが、米国の景気・政局不安などドル安に繋がる材料で上値も限られそうだ。また、現時点では口先介入に留まるだろうが、円安けん制発言で一時的ながら円買い戻しが入ることには警戒しておきたい。
本日まで行われる参院予算委員会では、昨日も高市首相は単年度のプライマリーバランス(PB)の黒字化を取り下げ、数年単位でバランスを確認する方針を示した。数年単位に関しても「確認する」にとどめ、PBの黒字化は顧みない姿勢だ。地域未来戦略本部が進める「大胆な投資促進策とインフラ整備」を背景に株高となっているが、放漫財政は円売りを強めやすい。
国家の財政問題は格付けの変更が伴うため、投資家の関心も高く、その国の通貨が大きく動意づく傾向にある。
例を挙げると、12日に南ア政府は日本と真逆な財政政策を示し、ランド高が進行した。ゴドンワナ南ア財務相が発表した中期予算声明(MTBPS=Medium-term Budget Policy Statement)では、政府債務が2025-26年度にGDPの77.9%で安定することを示した。これは2008年の金融危機以来初めて公的債務の比率が伸びないことを意味している。南ア財政赤字は、2025-26年度のGDP比4.5%から2028-29年度に2.7%まで縮小すると予想。赤字縮小により南アの通貨ランドは、対ドルでは昨日は2023年2月以来、対円では2018年以来の高水準を記録した。
このように財政健全化を示した国の通貨が買われ、放漫財政となる通貨(今回は日本=円)が売られるという傾向は避けられない。当面は放漫財政が円売り要因となるだろう。
なお、高市氏が当初掲げていた「食料品への消費税0%」は取り下げ、自民党が参院選前に提唱していた「国民一人当たり2万円の給付」も中止され、国民が期待していた物価高対策に関してはほぼゼロ回答に近い。よって、今後の高市政権の支持率の急降下も考えられ、為替相場への影響もあり得そうだ。
円売り地合いが強いなか、ユーロ円がユーロ導入以来の円の最安値を更新した。上述のランド円を含め、多くのクロス円も円安が大幅に進行している。一方でドルは昨日、対円以外では軟調な動きを示していることで、ドル円も円安の動きは緩やかになりそうだ。
昨日の日本時間正午過ぎに、過去最長となる43日間続いた米政府機関の閉鎖が解除されたが、市場は既に織り込み済みという反応だった。NY時間では、米連邦準備理事会(FRB)高官から12月の利下げに慎重な発言が相次いだが、米金利上昇によるドル買いには反応は鈍く、米株安によるドル売りへの反応が大きかった。
なお、米民主党は、財源法案の可決に同意する前に要求していた「医療費負担適正化法(ACA)に基づく医療保険補助金の延長」には、まだ踏み込んでいない。1月に再び政府閉鎖との懸念も、昨日の米国売りの一因だろう。
米国に対する懸念材料は他にも、ホワイトハウスが12日、10月消費者物価指数(CPI)や雇用統計を発表しない可能性があるとしたこと。両指標ともに米労働省統計局(Bureau of Labor Statistics=BLS)が公表する指標だ。今年9月にトランプ米大統領がBLS長官を解任し、統計の専門家が同局を去ったことで、政府閉鎖期間のデータが集約できないという不測の事態に陥っている。この人事についても政権を批判する声も上がっている。
また一部では、CPIが上昇し、雇用統計は悪化しているため、10月のデータをトランプ政権が隠したいのではないか、との憶測もある。米国ではトランプ氏のエプスタイン問題も社会的な反響が強まっており、トランプ政権が中間選挙の1年前にもかかわらず、レームダック化する可能性も出てきた。これらもドルの重しになりそうだ。
円安傾向が顕著な中、要人の口先介入発言にアルゴリズムトレードが反応し、一時的に円の買い戻しが進む場面もあるかもしれない。また、昨年の11月14日に米国の為替報告書が公表された。同報告書で日本が再び名指しされるようだと、一時的な円の買い戻しにも警戒したい。
(松井)
・提供 DZHフィナンシャルリサーチ
