昨日の海外市場でドル円は、「自民党と日本維新の会は党首会談で、連立政権を見据えた政策協議を始めることで合意した」との報道や、10月米ニューヨーク連銀製造業景気指数が予想を上回ったことで一時151.74円付近まで値を上げた。ただ、高く始まったダウ平均が下げに転じたことなども相場の重しとなり、1時前に151.04円付近まで下押しした。ユーロドルは仏政治不安の後退や米利下げ観測の高まりを背景に、1.1648ドルまで上昇した。
本日の東京時間でのドル円は、引き続き上値が重い展開を予想する。今週に入り14日には日経平均株価が下げ幅を拡大すると、ドル円も連れて弱含んだ。一方昨日15日は日経平均株価が徐々に上げ幅を広げる場面でも、ドル円は上値が切り下がっていった。株高・株安ともにドル円が下げたことを鑑みると、ドル円の上値の重さが確認されているとも言えそうだ。
本日も本邦からは市場を動意づけるような経済指標の発表が予定されていないことで、注目となるのは政治状況になるだろう。昨日は首相指名選挙では、自民党と維新の会による高市自民党総裁への投票期待で市場はドル買い・円売りに動く場面があった。維新の会は、夏の参議院選挙では比例得票数が過去最低となるなど、関西の一部地域を除くと党の存続自体が危惧されているほどだ。衆議院では自民・立憲につづき維新は35の議席数があることで、党勢を保つために連立の道を選ぶ可能性は大いにあるだろう。ただ、自民党が「NHKから国民を守る党」の議員と参院会派を結成する動きがあるなど、自民党が下野を恐れてなり振りかまわない動きを見せていることで、今後政局が急転するリスクもありそうだ。
自民・維新の連立の可能性が報じられたのにもかかわらず、昨日のドル円の伸びが限られたのには高市トレードに陰りを見せているともいえる。26年にもわたった自民党と公明党の連立政権に終止符が打たれ、公明党の連立離脱をしたことに対して、自民党内では高市自民党総裁への責任論が強くなっている。一部では新たな連立の枠組みができるまでは、自民党が下野することを避けるために総総分離論まで出てきている。新たな連立ができ高市氏が首相に就いた場合でも、高市氏が主導権を握ることができず、陰で政権を導くのは麻生副総理や鈴木幹事長になり、12年超にわたって財務相となった麻生・鈴木兄弟が積極財政に対しても待ったをかける可能性すら浮上している。このような状況下では、これまでの「高市トレード」と呼ばれる円安に戻るのが難しそうだ。
一方で、野党が連合を組み政権交代になった場合も、不透明感が拭えない。どの政党も積極財政を進めることで、株高・円安に動くとの見方もある。しかし、政治的なイデオロギーが全く異なる政党による連立政権は不安定となり、今後政局がより混迷するリスクもあり株安・円高に動く可能性もありそうだ。
また、トランプ政権が中国に対する圧力を再び強めていることも、ドルの重しになる。昨日ウォールストリートジャーナル紙は中国の政策決定に近い関係者らの話として、習近平国家主席は「米国経済は中国との長期にわたる貿易摩擦を吸収できないと賭けている」と報じた。これに対してベッセント米財務長官は「株価が下落しているからといって交渉したり、その理由で北京に対して強硬な措置を取ることを躊躇したりするつもりはない」と反応。今後も米中の貿易摩擦再燃懸念がドル円を中心に、ドル売りを促しやすくなりそうだ。
ドル円以外では、本日は豪州から9月の雇用統計が発表されることで、豪ドルの動きに注目したい。先月末に行われた豪準備銀行(RBA)理事会では、雇用市場に関しては「ここ数カ月で概ね安定している」との見解が示された。失業率の予想は4.3%だが、市場予想よりも低い失業率となれば再利下げが遠ざかり、豪ドルは素直に買われるだろう。一方で、失業率が4%半ばに近づいたり、新規雇用者数が減少した場合は利下げ期待が高まり、豪ドル売りを動意づけることになりそうだ。なお、今週に入り中国政府が海上輸送に対する港湾料金の追加導入を発表したことを受け、中国への輸出に大きく依存している豪州経済に悪影響を及ぼすことが懸念され豪ドルが売られる場面があった。雇用統計だけではなく、米中の貿易摩擦再燃もしくは緩和となった場合にも豪ドルは動意づきそうだ。
(松井)
・提供 DZHフィナンシャルリサーチ
