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大統領選挙が加速する米中対立の構図 カギを握るAAPIとは? 吉崎達彦(双日総研チーフエコノミスト) 米大統領選2020

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大統領選挙が加速する米中対立の構図

 米中関係で緊張が高まっている。3カ月遅れで開催された全国人民代表者会議は、最終日となった5月28日に香港国家安全法を可決した。翌日、トランプ大統領は、「これは一国二制度を一国一制度に置き換えるもの」だと反発、これまで関税やビザ発行で認めてきた香港に対する優遇措置を停止すると宣言した。
 トランプ大統領の口から「制裁」という言葉が飛び出すと、市場関係者は「すわ、追加関税か?」と身構えるのが近年の習い性である。しかし、今回はそこまで踏み込むことはなかった。トランプ大統領は過去3年間、習近平国家主席と良好な関係を構築してきたし、今年1月15日には「第1次合意」も締結している。これらの対中政策の「成果」を、一気に捨て去ることはさすがに避けたようである。
 それというのもトランプ大統領は、株価を気にしなければならない。新型コロナウイルスの感染拡大により、アメリカは直近わずか3カ月間で10万人の死者と2000万人の失業者を出してしまった。「再選戦略」は根本から再考を迫られる情勢である。そこで責任転嫁のために中国を叩いているわけだが、輸出規制、投資制限、留学生規制などのさまざまな手口がある。今回の香港国家安全法などは、絶好のチャンス到来ということになる。
 ただし、今の不思議と高い株価は文字通りトランプ大統領の生命線だ。中国を叩くにしても、実体経済に影響を与えないようにしなければならない。WHOからの脱退宣言、というのも派手なゼスチュアだが、この辺はいつもながら「プロレスの達人」である。
 こうした動きは、世論も是認するところである。アメリカの対中感情は、かつてないくらいに悪化している。ピューリサーチセンターの調査によれば 、中国に好意的な米国民は今や26%に過ぎず、66%がネガティブな感情を抱いている。ちなみに2017年には、この数値は44%対47%とほぼ拮抗していた。
 さらにコロナウイルスについて、中国政府が言っていることは「全く信用しない(Not at all)」が49%と半分を占め、「あまり信用しない(Not too much)」が35%、「まあ信じる(A fair amount)」は13%、「非常に信じる」(A great deal)は2%に過ぎない。
 5月20日には、ホワイトハウスが「中華人民共和国に対する戦略アプローチ」という文書を公表している 。これはアメリカの安全保障コミュニティが、とかくブレがちな大統領はさておいて、対中方針を固めるためにまとめた文書と言える。いわく、中国は経済、価値、安保の3点でアメリカの国益に挑戦しており、過去20年間の「対中関与政策」を抜本的に見直さなければならないと。たぶん、NSC(国家安全保障会議)のマット・ポッティンジャー大統領副補佐官がまとめたものだろう。元ウォール・ストリート・ジャーナル紙の北京特派員として、中国の内情を知り尽くした男である。仮に来年、民主党政権が誕生したとしても、ここに書かれているような対中強硬路線が超党派で継続されるに違いない。
 こうした中で、出方が難しいのが民主党のジョー・バイデン候補である。オバマ政権下の8年間で副大統領を務めていたこともあり、「中国に弱腰」と見られがち。そこで「先んずれば人を制す」とばかりに、「トランプ政権の対中政策は、口ばっかりで行動が伴わない」(Tough talk and weak action)だと攻勢に出た。新型コロナウイルスについても、当初のトランプ大統領が「たいしたことはない」と言っていた映像を流すなどして、政府の失敗を強調する選挙CMを流している
 トランプ陣営も遠慮なく個人攻撃に出ている。「中国に弱いバイデンはアメリカにとって危険だ」「彼は過去40年にわたって対中政策を誤ってきた」「次男のハンター・バイデンは対中ビジネスで巨万の富を得ている」などといったCMを流している。
 2大政党の大統領候補者が対中強硬策を競う中にあって、これから注目を集めそうなのがAAPIと呼ばれるグループである。”Asian American and Pacific Islanders”(アジア系及び太平洋諸島系アメリカ人)の人口は約2000万人と数はそれほどでもないが、この20年ほどで倍増しており、人口増加率ではヒスパニック系を上回る。中国系、フィリピン系、インド系、ベトナム系、韓国系、そして日系人など多種多様な構成から成り立っている。
 AAPIは、2016年選挙では65%対27%という大差でヒラリー・クリントン候補を支持していた。しかしトランプ陣営は、このAAPIの切り崩しを狙っている。激戦州を制する上で、重要な要素になると見込んでいるからだ。
 普通に考えれば、「中国ウイルス」「武漢ウイルス」などと口走る大統領は、アジア系移民から見たら勘弁願いたいところであろう。ただしアジア系移民の中には、香港情勢に関心の強い民主化支持者も多く含まれている。いつの時代も外交は内政の反映だ。中国叩きの裏側には、大統領選挙におけるAAPI対策というファクターもあることをお忘れなく。

yoshizaki.jpg吉崎達彦氏
1960年富山県生まれ。1984年一橋大学卒、日商岩井㈱入社。米ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会代表幹事秘書・調査役などを経て企業エコノミストに。日商岩井とニチメンの合併を機に2004年から現職。 著書に『アメリカの論理』『1985年』(新潮新書)、『オバマは世界を救えるか』(新潮社)、『溜池通信 いかにもこれが経済』など。ウェブサイト『溜池通信』(http://tameike.net )を主宰。テレビ東京『モーニングサテライト』、BS-TBS『Biz Street』などでコメンテーターを務める。フジサンケイグループから第14回正論新風賞受賞。