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第2部 第3部

1部 「米国発金融危機と日本経済再生のシナリオ」

竹中平蔵氏

改革後退で期待成長率が低下している


私は、今の日本は本当に厳しい状況にあると思う。
1980年代の日本経済は、平均で4.5%の経済成長を遂げた。ところが1990年代は、10年間で累計130兆円の追加経済対策を行ったにもかかわらず、成長率は1%に過ぎない。不良債権処理を先延ばししたからだ。
しかし、2001年に小泉内閣が誕生し、不良債権処理を行った。02年に私が金融担当大臣に就任した当初、銀行全体に占める不良債権比率は8.4%だった。これを2年半で4%にする目標を立てた。
今、不良債権比率は1.5%に低下している。日本経済にはそれだけの力があったし、民間部門全体ががんばったからだ。不良債権比率が4%を切る頃から日本経済には“普通”の成長力が戻り、その後の4年間は、公共事業に頼らなくても2%強の成長ができるようになった。

ところが、この半年程、成長力に陰りが見え始めている。それはなぜか。私は3つの要因があると考えている。第1の要因は、改革が進まないことで、日本経済に対する期待成長率が下がったことだ。期待成長率の変化は、非常に敏感に株価に現れる。2007年には日経平均株価が11%下がっている。サブプライム問題の影響を一番強く受けた米国でも株価は6%上がったし、世界の平均株価も12%上がったことを考えると、日本独自の要因があると考えるべきだろう。

期待の低下は、経済状況にも現れている。日本では、投資も消費も伸びていない。内需が低いから、外需に頼らざるを得ない。そこに円高が来て、打撃を与えた。これが第2の要因だ。ちなみに、私は、円高圧力がこの先も相当続くと考えている。その理由は2つある。
ひとつは、実質為替レートが極端に円安になっていたことだ。1995年に1ドル=80円をつけたが、これは今の感覚だと実質為替レートで1ドル=58円になる。その意味では、1ドル=95円は、まだそれほど円高ではないとの見方ができる。
2つめは、世界中で対外不均衡が拡大し、世界の外貨準備高が積み上がっているものの、円建てで運用される資産の割合が低下していることがある。そのため円建て資産のウエイトを増やすところもある。円買いの潜在的な需要が、円高圧力につながるというわけだ。

そして、成長力に陰りが見え始めた第3の要因は、コンプライアンス不況が始まりつつあることだ。安全安心は重要だが、だからといって政治が強く規制をしたらどうなるか。耐震偽装問題で建築基準法の改正に伴い、住宅市場に混乱が起きた。これは官製不況と言える。これに類する話は他にもある。この規制が日本のビジネス活動をガチガチにしている。改革が進まないこと、外需依存と円高、コンプライアンス不況の3つが、日本に対する不信感を助長している。

竹中平蔵氏

日本経済をよくする戦略的アジェンダが必要


では、日本の経済をよくする方法とは、どのようなものだろうか。私は、日本経済にはキラリと光るものがたくさんあると思う。だから、政策議論のネジを巻き戻せば、日本経済に対する期待は十分高められると考えている。
なかには、日本の政策は目詰まりだという人もいるが、私はそんなことはないと思う。世界は今、グローバル化のなかで政策競争をしている。他国がやっていることで日本でやっていない政策がたくさんある。それを探し、日本がやるべきものを適切に選べば、必然的に政策が見えてくるはずだ。むしろ、リーダーがそれを引き出せるか、国民に納得させうる政策マーケティングができるかが問題なのだ。

日本経済をよくするには、「戦略的アジェンダ」が必要だ。アジェンダとは、ボーリングのセンターピンのようなものだと私は考えている。つまり、見えやすく、わかりやすい。そしてセンターピンが倒れると波及効果が及び、変化が起こる期待を持たせるものだ。たとえば、1980年代まで米国の潜在成長力は2%だと言われた。しかし、平和の配当を活用し、IT革命を活用し、3.2%の成長ができる国になった。このような具体的な政策がアジェンダである。今の日本では、これが示されていない。

ここで私が考える戦略的アジェンダの例をいくつか申しあげたい。
まず、私ならば、あえて法人税の引き下げに打って出る。ご存じのとおり、日本の法人税は世界一高い。その一方、各国はグローバルな経済競争に伴い法人税を引き下げている。このままでは工場などを法人税の安い海外に移転する企業が増え、日本に生活者の働く場がなくなりかねない。今すぐ引き下げられないのなら、法人税の引き下げができる特区を作ればいい。特区の設立は、地域経済の活性化にもつながるはずだ。
第2のアジェンダ候補は、東京大学の民営化である。経済を強くするには、技術開発に貢献し、優秀な人材を供給できる強い大学が必要だ。ところが、東京大学は、世界の大学ランキングでは17位に過ぎない。世界第2位の経済大国のトップの大学は、せめて世界のトップ5には入って欲しい。それには、東大を文部科学省の制約から開放する必要がある。大学への補助金である運営交付金を止め、他大学と競争し、プロジェクトへの研究開発資金を獲得する競争的研究資金方式にするのだ。いい研究をする大学には資金が集まるしくみができたら、各校が切磋琢磨をし、研究の質も高まっていくに違いない。
第3のアジェンダ候補は、徹底したオープンスカイ政策を取ることだ。そのためには、東京に本当のアジア太平洋地域のハブ空港を作る必要がある。確かに成田空港は、北米路線の便数からすればハブとしての役割を果たしてはいる。しかし、利用者にとってはあまりにも不便な場所にある。羽田空港もあるが、国際化していないし、24時間稼働もしていない。私は、空港は完全に自由化すべきだと思っている。その際、羽田空港を今の3倍程度に増強するナショナルプロジェクトを立ち上げるべきだろう。求心力を高めることはひとつの戦略になりうるからだ。このようなことをやっていけば、日本経済はきっと変わるだろう。

国民一人一人が今ある問題を真剣に捉えるべき

最後になるが、福沢諭吉の時代は、日本が列強に囲まれ、日本の独立が危ぶまれた時代だった。その時代に福沢は、「一個人の独立なくして一国の独立はない」と言った。一人一人がしっかりすべきだと訴えた。その集積が『学問のすすめ』だった。明治維新当時、日本国民の10人に1人が『学問のすすめ』を読んだとされる。福沢諭吉は立派な思想家だったが、それ以上に当時の日本国民の志が立派だったと言えよう。
しかし、今の日本では、福沢の言葉とは真逆の社会風潮がはびこっている。何かがあると人のせいにしたがる。そうではなく、一人一人が今ある問題をどれだけ真剣に捉えるかが重要ではないだろうか。

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