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トルコリラ見通し|トルコと欧米の間で揺れる外国直接投資 米イラン停戦後の企業進出の現状【海外特派員レポート】2026年9月30日

 

執筆:トルコ在住ライター・毛羽部チャイ子氏

停戦のニュースを受けて、トルコのビジネス界では「ようやく動き出せる」という期待の声が広がりました。2 月末から続く中東の地政学リスクに翻弄されてきたトルコのビジネス界にとって、停戦はまさに久しぶりの明るいニュースでした。しかしその恩恵が本当に外国直接投資の増加として実を結ぶかどうかは、まだ見えていません。トルコの立ち位置は、中東とヨーロッパを結ぶ地政学的な要衝です。その位置ゆえに、中東の混乱に最も敏感に反応しながらも、安定が戻れば最も早く恩恵を受ける国の一つとも言われています。今回の停戦は、まさにその両面をトルコに突きつけています。

欧州での存在感を高めるトルコ

停戦前の数字を振り返ると、トルコはすでに外国投資の呼び込みで健闘していました。国際投資家協会(YASED)のデータによると、2025 年のトルコへの外国直接投資総額は 130 億ドルに達し、前年比で増加しました。内訳は欧州連合(EU)からの投資が全体の 66%を占め、オランダ、ルクセンブルク、ドイツが上位に並びました。さらに国際会計コンサルティング会社 EY が発表した「欧州魅力度調査 2026」によると、2025 年のトルコへの外国直接投資プロジェクト数は 383 件と前年比 20%増加し、欧州全体でフランス、英国、ドイツに次ぐ第 4 位にランクインしました。欧州全体で外国直接投資が 7%減少する中での躍進です。レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が米国での講演で「過去 24 年間にトルコが呼び込んだ直接外国投資は 300 億ドルに迫る」と誇らしげに述べた背景には、こうした数字があります。

投資分野も変化しています。かつては製造業や不動産が主流でしたが、最近は人工知能、再生可能エネルギー、防衛産業への投資が増加しており、EY の調査でもこうした高成長分野への投資がトルコを欧州 4 位に押し上げた要因の一つと分析されています。国境を接する EU 加盟国との地理的な近さと、25 歳以下の人口が全体の 3 割を超える若い労働力は、製造拠点としてのトルコの魅力を高め続けています。

戦争が直撃したトルコ経済

しかし今年に入ると状況は一変しました。2 月 28 日に始まった米イランの軍事衝突はホルムズ海峡を封鎖し、原油価格を 1 バレル 110 ドル超まで押し上げました。エネルギーの大部分を輸入に頼るトルコにとって、原油価格の急騰は経済に大きな打撃を与えました。外国投資家の多くがリスク回避姿勢を強め、トルコへの資金流入が鈍化したと Hürriyet 紙のコラムニスト、ゼイネル・バルジュ氏は指摘しています。加えて YASED のデータでは、2026 年上半期のトルコへの純外国直接投資が歴史上初めてマイナスに転落したとも報告されています。これはトルコ企業の海外展開も一因とされていますが、外国投資の流入が弱まったことも事実です。製造業に携わる知人は「年初は欧州からの引き合いが増えていたのに、戦争が始まってから止まってしまった。キャンセルが相次いだ」と話していました。実際、テレビのニュースでも外国企業の駐在員が「リスク評価を見直す必要が出てきた」と話す場面が流れており、中東に近いというトルコの地理的優位性が、有事には逆風になるという現実を改めて突きつけた形となりました。

停戦後の期待と慎重論

停戦合意を受けてこの流れは変わるのでしょうか。Hürriyet 紙のバルジュ氏は「米イランの緊張緩和、トルコ中央銀行の金融政策への信頼、外国投資銀行からのポジティブな評価が重なり、市場のリスク選好が高まりつつある」と論じています。ロタ・ポートフォイのチーフエコノミスト、オズレム・バイラクタル・ギョクシェン氏は Haber7 紙に「戦争の影響が薄れ始めれば、トルコは他の新興国より大きく前面に出ることができ、流出した外国資本が何倍にもなって戻ってくる可能性がある」と述べています。また停戦によって原油価格が下落すれば、エネルギー輸入コストの削減を通じてトルコの経常赤字が改善し、それがさらなる投資環境の好転につながるという見方もあります。

一方で、今回の停戦は延長されているものの、依然として条件付きであり、長期的な地政学リスクが払拭されたわけではありません。Cumhuriyet 紙は「外国投資家が本格的に戻るためには、停戦の持続性と政治的安定が不可欠だ」と伝えており、エクレム・イマムオール(拘留中のイスタンブール広域市長)逮捕による政治的混乱がいまだ尾を引いていることも、投資家心理に影響を与えています。テレビの経済番組では、企業経営者たちが「停戦は歓迎だが、投資判断には慎重を要する。1〜2 四半期は様子を見たい」と口をそろえていました。

トルコが持つ潜在力と「三つの重し」

トルコが持つ地理的優位性、若い労働力、EU との関税同盟は、引き続き外国投資家にとって魅力的な条件です。2025 年時点でトルコ国内で事業を展開する外国資本参加企業は 88,771 社に達し、2002 年の 5,600 社から急増した事実は、トルコが長期的に投資先として選ばれ続けてきたことを示しています。しかし政治的不安定、高インフレ、そして中東の地政学リスクという「三つの重し」が完全に消えない限り、停戦がもたらす投資の波がどこまで広がるかは、今しばらく見守る必要がありそうです。停戦を機にトルコが再び外国投資の呼び込みで存在感を示せるかどうか、その答えはこれからの数か月が教えてくれるでしょう。

 
毛羽部チャイ子氏
トルコ在住。トルコの大学および国営機関での勤務経験を持つ。翻訳・通訳や机上調査(リサーチ)にも従事しながら、 現地メディアの情報や生活者目線をもとにトルコの政治・社会情勢を伝えている。