
作成日時:2026年9月28日
執筆:テクニカルアナリスト・岩田仙吉氏
米連邦準備制度理事会(FRB)が2026年9月、およそ3年ぶりに利上げに踏み切ったにもかかわらず、金(ゴールド)は4,000ドル台の価格をしっかりと保っています。「利上げが行われると金が売られる」と単純に決めつけてしまうと、価格が下落したところで入る「買い支え」の動きを見落としかねません。逆に「中央銀行が金(ゴールド)を買うから価格は下がらない」と安心して、金利上昇という強い逆風を軽く見ていると、痛い目にあう恐れがあります。
金(ゴールド)相場は9月28日時点で、4,300ドル近辺に位置しています。強気と弱気の材料が交錯する今、私たちが取るべきスタンスは「様子見」という状況です。意識しておきたい価格帯ですが、「上は4,400ドル近辺」「下は4,200ドル台半ば」と私はみています。なぜこの価格帯が重要になるのか、後ほど週足・日足チャートを使って詳しく説明します。
「綱引き」の方向性を見極める
そして、その価格帯のどちらに抜けるかは、「金利上昇」という逆風と、中央銀行や ETF(上場投資信託)による「買い支え」の「綱引き」で決まります。10月に米雇用統計、消費者物価指数(CPI)、そして米連邦公開市場委員会(FOMC)と、連続する重要なイベントが続いて、その「綱」をそれぞれの方向に引き合うことになります。
どのような内容になると、どちらに金(ゴールド)相場が動きやすくなるのかを知っておけば、相場が乱高下しても、落ち着いて対処できるはずです。まず、その出発点となる9月の利上げを分析したうえで、10月の追加利上げの可能性について探ってみましょう。
FRB による利上げ再開と10月のFOMC
FRB による9月の利上げは、市場にとって突然の出来事ではありませんでした。さかのぼると、7月のFOMCでは、政策金利は据え置かれたものの、3人のメンバーが利上げを主張し、反対票を投じています。これが9月の利上げの前ぶれでした。そして、9月15日〜16日で開催されたFOMCで、FRBはフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を 0.25%引き上げて3.75〜4.00%にしました。今回は全会一致の決定で、およそ3年ぶりの利上げです。

今回発表されたFRBの声明では「インフレは高止まりしている」との見解が示され、地政学的な問題などを背景に、「不確実性が高い状態にある」と説明されました。
ウォーシュFRB議長は会見で、インフレ率上昇の可能性の高さを説明しています。同時に公表されたFOMCの経済見通しでも、2026年末の政策金利の中央値は4.1%でした。これは現在の水準から0.25%の引き上げを見込んでいることになります。
あくまで FOMC メンバーの見通しの中央値であって、FRBが公約した数字ではありません。しかし、金融市場でFRB による10月追加利上げの観測がくすぶる要因となりました。
追加利上げ観測は金(ゴールド)の上値を重くする
こうした追加利上げの観測が市場に広がっている限り、金(ゴールド)の上値は重い展開になりそうです。金(ゴールド)は「利息」を生まない資産です。政策金利が引き上げられ、「利息」がつく預金や債券の利回りが高くなると、どうしても見劣りしてしまうので、金(ゴールド)を売って、預金や債券に資金が動きやすくなります。
一般に金利が上昇局面では、金(ゴールド)価格が下落しやすくなります。逆に、10月以降に発表される雇用統計やインフレ率などの重要指標で、その勢いが鈍っていることが確認され、10月利上げの見送り観測が広がると、金(ゴールド)相場の景色は変わるでしょう。再び金(ゴールド)が4,400ドル近辺を試す可能性が出てきます。
10月のFOMCの声明や議長会見で、「追加利上げ」を匂わせる言い回しが残るかどうかを確かめたいところです。FOMCの声明や議長会見の直後は相場が荒れやすくなるため、値動きに釣られて、慌てて飛びつくことがないようにしてください。FRBの金融引き締めに対する姿勢は、金(ゴールド)相場に波及する前に、国債の利回りとドル相場に表れます。
長期金利の高止まりとドル高は金(ゴールド)の逆風
金(ゴールド)相場の行方を予測する際、FRBの政策金利よりも、むしろ、市場で毎日取引される長期国債の金利とドル相場の動きを観察することのほうが有効です。金利に関するニュースを見るときは、「何」の金利についてなのかを、きちんと把握しておくと混乱しません。
FRBがコントロールするのは短期の政策金利です。ところが実際に市場が一番意識しているのは、10年などの長期間でお金を貸し借りする際の長期金利(米10年債利回り)です。そして、そこから物価上昇の見込みを差し引いた実質金利です。
また、主要通貨に対する米ドルの総合的な強さを示す「ドル指数」も金(ゴールド)に大きな影響を与えます。9月下旬の時点で、米長期金利は高水準で推移しています。そして米ドルも底堅い動きを見せています。
金(ゴールド)は「米ドル建て」で取引されています。だから「ドル高」になると、ドル以外の通貨を持つ投資家にとって、金(ゴールド)は「割高」になります。そのため「金(ゴールド)買い」が手控えられやすくなります。一般に長期金利上昇やドル高は、金(ゴールド)に対して下押し圧力になります。
こうした米長期金利の高止まりとドル高の環境が続くとなると、金(ゴールド)が上昇しようとしても、「4,400ドル近辺までの戻りまでで、上値を抑えられやすい」と見ています。
とはいえ、金利上昇の局面でも、金(ゴールド)が下げ渋ることがあります。金利上昇が行き過ぎて、景気後退や企業業績に対する懸念が強まり、株安などのリスクが発生すると、それを回避するために金(ゴールド)が買われるからです。市場に不安が広がると、安全資産として金(ゴールド)が買われます。つまり、「金利高」と「金(ゴールド)高」が同時に起きる場面があるのです。
だから、FOMCの結果だけでなく、その後、米長期国債の利回りとドル相場がどう反応したかを確かめることが、金(ゴールド)相場の行方を読むカギになります。
各国中銀と ETF の需要から「押し目買い」が入りやすい
それでは、金利上昇という「逆風」が吹いているにもかかわらず、金(ゴールド)の価格は大きく崩れず、なぜ4,000ドル台を保っているのか。その理由は需要側にありました。
現在、金(ゴールド)を買って価格を下支えしているのは各国の中央銀行です。中央銀行は特定の通貨や国に資産が集中するリスクを避けるため、金(ゴールド)を買い集めています。宝飾品などの金(ゴールド)需要とは性格が異なる「準備資産」としての需要です。
また、各国の投資家の動向を示す世界の「金(ゴールド)ETF」も、4月から6月にかけては資金流出が続きましたが、8月に入って保有量が大きく増えました。その理由のひとつは、中東情勢の緊張と原油高が意識されたからです。
こうした需要が底流にあるため、「金利高」の局面でも、金(ゴールド)の下落は4,200ドル台から4,000ドル台前半で止まりやすいという見方が少なくありません。
中銀は価格が下がると長期的視点から金(ゴールド)を買い増す傾向があります。こうした「大口」の買い手の「押し目買い」が金(ゴールド)相場を下支えしています。なお、ETFに集まる資金は短期目線で動くことも多く、相場の雰囲気が悪化すると流出に転じる可能性があります。中東情勢などの地政学的緊張が和らぐと、安全資産としての金(ゴールド)需要もしぼみます。中銀の「押し目買い」があるからといって価格が下がらないわけではありません。状況次第では下値を追うリスクは残ります。
月次でETFの資金動向や中銀の購入統計をチェックすると、金(ゴールド)相場の動向が確かめられます。金利上昇という「逆風」、準備資産や安全資産としての「需要」の両者の均衡に揺さぶりをかけるのが、10月の米経済指標とFOMCなのです。
雇用統計・CPIが強ければ下落警戒
10月の最初の関門は、日本時間で 10月2日21時30分に発表される米雇用統計(9月分)です。雇用者数や失業率を確かめた後、10月8日未明には9月のFOMC議事要旨が公開されますFOMCの会合で、どのような議論があったのか判明します。
さらに10月14日21時30分には、米国のCPI(9月分)、翌15日21時30分に9月分のPPI(生産者物価指数)と、物価関連の指標の発表が続きます。そして、これらを踏まえた上で、10月27日・28日で開催されるFOMCの声明発表と、FRB議長の会見が日本時間29日未明に行われるのです。
8月のCPIは、「総合」で「高止まり」している一方で、エネルギーを除くと「落ち着き」がみられます。また、雇用統計は底堅さを保っています。これらの指標で物価や雇用の強さが示されれば、10月の追加利上げ観測が強まって、金(ゴールド)価格は4,200ドル台半ばを試す下押し圧力を受けるでしょう。
逆に、雇用が鈍化して、明確に物価の落ち着きが数字に表れた場合、「FRBは利上げを急がない」という見方が市場に広がります。そうなれば金利の重しが取れて、金(ゴールド)価格は4,400ドル近辺まで回復に向かうことも考えられます。
ここで気をつけたいのは、発表された数字そのものに一喜一憂せず、事前の市場予想と実際の結果の「ずれ」に注目することです。予想を上回ったか、それとも下回ったか、それで米金利がどう反応したかを見届けることが、相場の波に飲まれないコツです。そうした指標の結果を受けて金(ゴールド)価格がどちらへ動くかを考えるために、チャートを使って、金(ゴールド)が現在、どの位置にいるかを確認します。
金(ゴールド)相場のテクニカル分析
大きな流れから現在の地点を把握するため、月足チャートから見ていきます。
・月足と週足は中期の上昇を保つが、4,400ドルラインの下で調整中
金(ゴールド)の価格は、短期および中期移動平均線のはるか上を推移しています。長期的な上昇トレンドは崩れていません。

2026年1月に5,600ドル近辺の高値をつけましたが、2月から7月にかけて調整局面が続きました。8月に入って反発しましたが、9月はふたたび陰線を描いています。
ボリンジャーバンドはプラス1シグマ(4,500ドル台前半)を下回っており、相場の勢いを示すMACDはシグナルの上に位置しているものの、ヒストグラムは縮小傾向にあります。価格上昇の勢いが鈍っていることがはっきりと分かります。
続いて、週足チャートを見て、その勢いの鈍りが中期ではどのように表れているかを確認します。

短期移動平均線は4,400ドル近辺、中期移動平均線は4,100ドル台前半にあり、長期移動平均線は2,900ドル台半ばです。上から順に並ぶ上昇トレンドの形は維持されています。
しかし、足元の価格は短期線の下、中期線の上に挟まれて、ボリンジャーバンドの中心線とマイナス1シグマ(4,100ドル台半ば)の間で推移しています。MACDはシグナルの下にあるものの、マイナス幅は縮小しており、下落の勢いは弱まりつつあります。現在は中期的な上昇トレンドのなかで、息継ぎをしている調整局面と見ています。
このまま週足チャートの終値が短期線のある4,400ドル近辺を上回らないと、戻りが抑えられやすい展開が続くでしょう。下方圧力が強まり、直近の支えとなっている4,200ドル台半ばを割り込むと、次に見えてくるのは、週足の中期線がある4,100ドル台前半です。
上昇基調に戻るためには、まず週足チャートの終値で、短期線を回復できるかどうかが最初の条件です。この調整が「一休み」なのか、それとも「本格的な下落の始まり」なのか。さらに短期の流れを知るために日足チャートを使いましょう。
・日足チャートは短期・中期線が長期線の下で下降トレンドの兆しか
週足よりもさらに短期的な動きを見るために、日足チャートにフォーカスを当てると、月足や週足とは少し違った景色が見えてきます。

日足チャートでは、短期移動平均線と中期移動平均線がともに長期移動平均線の下で推移して、下降トレンドの兆しが現れています。
短期線は6月、中期線は7月に長期線を下抜けし、8月に相場が反発した場面でも長期線の上までは戻れませんでした。現在の価格は、4,200ドル台半ばにある中期線の上、4,400ドル近辺にある短期線の下と、中期線と短期線に挟まれています。
終値はボリンジャーバンドのマイナス1シグマ付近にとどまり、マイナス2シグマは 4,100 ドル台後半にあります。MACDはゼロ近辺でシグナルの下に位置しており、力強さに欠けています。ただ、9月に4,200ドル台半ばで、2回ほど下げ止まっている点は見逃せません。
この2回の下げ止まりと上値の重さを踏まえると、当面は4,200ドル台半ばと4,400ドル近辺のあいだで、方向感のないもみ合いが続きそうです。
日足の短期線を上抜けて、その位置に定着できれば、下降トレンドの懸念が薄らぎ、長期線や9月につけた高値の4,500ドル台前半を試す流れが見えてきます。
逆に、中期線と9月の安値 4,200ドル台半ばを明確に割り込むと、下げが加速しやすくなります。その場合は日足チャートのマイナス2シグマがある4,100ドル台後半や、週足チャートの中期線が通る4,100ドル台前半が次の目安になりそうです。
上と下のどちらに抜けていくのかが見えるまでは、大きなポジションを持つ必要はありません。方向感が定まらないと、相場に振り回されやすくなるため、ポジションサイズは小さくしておくと安心です。
10月は4,200ドル台半ばと4,400ドル近辺のどちらを抜けるかを見てから
さて、金(ゴールド)価格の上値を重くしているのは、FRBの追加利上げ観測と、それに伴う長期金利の高止まり、そしてドル高という逆風です。他方、相場を下支えするのは、各国中央銀行が外貨準備のリスク分散を目的とした「買い」需要や、投資家からの金ETFへの資金流入です。
この上値の重さと下値の堅さがぶつかり合った結果、チャートは4,200ドル台半ばから4,400ドル近辺というレンジで推移しています。
この価格帯から上振れするには、雇用統計やCPIなどの指標が鈍化して、追加利上げ観測が後退、米国の金利とドル相場が落ち着きを取り戻すことが必要です。そこに加えて、金(ゴールド)の価格が、日足チャートの短期線がある4,400ドル近辺を上抜けて定着すれば、金(ゴールド)買いに勢いがでます。
逆に下振れしやすいのは、雇用統計やCPIで強い数字が出て、10月の利上げ観測が一気に強まり、米国の金利とドル相場が上昇したときです。その流れで4,200ドル台半ばにある下値の支えを割り込むと、金(ゴールド)の「売り」が「売り」を呼び、下げ足が加速します。
10月の金(ゴールド)相場は急がない
10月は追加利上げをちらつかせるFRBの姿勢と、中央銀行やETFを通じた金(ゴールド)買いが正面からぶつかり合う展開で、様子見の相場が続きそうです。
雇用の鈍化、インフレの落ち着きが確認され、金利上昇圧力が弱まれば、金(ゴールド)の価格は4,400ドル近辺を上抜けて、再び上昇を目指すでしょう。逆に強い内容の重要指標が相次ぎ、利上げの現実味が増し、長期金利とドルがさらに上昇すると、下値をサポートしている4,200ドル台半ばを割り込み、調整が一段と深まる恐れがあります。
強気と弱気の材料が拮抗している状況で、トレンドを先回りしたポジションの持ち方はリスクが大きくなります。相場がどちらの方向に動き出すかを、連続するイベントで確認してから動いても遅くありません。
投資家が10月の金(ゴールド)相場でやるべきことは以下の4つです。
・雇用統計や CPI、FOMCといった重要イベントの前後はポジションを小さくする
・結果発表後の長期金利とドルの反応を確かめる
・重要指標の発表直後の値動きに飛び乗らない
・「利上げだから金(ゴールド)を売る」「中央銀行が買っているから下がらない」といった決めつけで判断しない
金(ゴールド)CFDはレバレッジがかけられる金融商品です。自分の予想が外れたときの損失も大きくなりやすいので、売買する際は十分に注意しましょう。
岩田仙吉(いわたせんきち)氏株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
