
高金利時代のトルコでは、街を歩いていると銀行窓口に長い列ができている光景をよく目にします。人々の関心は「高金利がいつまで続くのか」という一点に集まっています。しかしその「高金利の恩恵」の裏側では、国際的な短期投機資金が大量に流れ込むという、当局にとって頭の痛い問題が進行しています。当初は「検討中」と報じられていたこの問題への対応策は、その後実際に実施に移されました。
世界最高水準の高金利が生んだ副作用
トルコの政策金利は37%という世界でも極めて高い水準にあります。これはインフレを抑制するために、メフメト・シムシェキ財務大臣率いる経済チームが2023年以降推進してきた正統派経済政策の柱の一つです。高金利はトルコリラを安定させ、外貨準備の回復を助けた一方で、思わぬ副作用も生みました。海外の投資家が低金利の自国通貨で資金を調達し、それをトルコリラに換えて高金利の金融商品で運用するキャリートレードと呼ばれる手法が急拡大したのです。
街を歩いていると、両替商の前に立ち止まって長い時間レートを眺める人の姿をよく見かけます。以前はドルや金に換えて資産を守ろうとする人が多かったのですが、中央銀行の報告によると、最近はトルコリラ建て定期預金への資金回帰が進んでいます。ただし「高金利でも物価の上がり方の方が速い」という声も根強く、市民の間でも判断が分かれています。
キャリートレードとは簡単に言えば「金利の安い国からお金を借りて、金利の高い国で運用する」という投資手法です。37%という高金利は、外国の機関投資家にとって非常に魅力的な運用先となりました。しかし筆者の周囲では「外国人ばかりが高金利の恩恵を享受している」という不満の声も聞かれます。近所の40代の女性は「私たちも定期預金の金利は高いけれど、物価も上がっているから実感はあまりない。外国人投資家の方が稼いでいるのではないか」とこぼしていました。
750億ドルの「熱い資金」
Karar紙などトルコの経済メディアの報道によると、こうした短期投機資金の総額は750億ドル規模に達したとされています。内訳はマネーマーケットファンドに約100億ドル、残りの650億ドルは為替先物取引で運用されているとQNB銀行の主任エコノミスト、エルキン・ウシュク氏は推計しています。
この資金は外貨準備の回復やトルコリラ相場の安定に一定の役割を果たしてきました。しかしキャリートレードの本質は「高金利の間だけいる」短期資金です。金利が下がる、あるいは別の市場でより高い利益が見込めると判断された瞬間、資金は一斉に逃げ出す可能性があります。急激な資金流出はトルコリラの急落を招き、市民生活を直撃するインフレに直結します。
当局が踏み切った課税
こうした事態を防ぐため、当局はついに動きました。9月4日付の大統領令により、マネーマーケットファンドの法人向け収益に対する源泉徴収税率がこれまでの0%から10%に引き上げられ、翌5日に官報公示され即日発効しました。
重要なのは、この課税が個人投資家には適用されない点です。対象は国内外の法人投資家に限られており、一般市民が銀行に預けた定期預金や個人名義のファンド投資には影響しません。当局のねらいは短期的な投機資金の魅力を削ぎ、より安定した長期資産への資金誘導を促すことにあります。Sözcü紙の経済コラムニスト、デニズ・ジャンカヤ氏は「この措置はキャリートレード全体に10%の税を課すものではない。マネーマーケットファンドという一つの運用チャンネルの魅力を下げることで、資金の分散と長期化を促すのが目的だ」と解説しています。
課税は「根本的な解決策」ではない
一方で懸念の声もあります。課税によってマネーマーケットファンドの魅力が下がれば、外国人投資家がファンドから別の短期運用商品(国債・スワップ・レポなど)に移るだけで、トルコ市場から出ていくとは限らないという見方もあります。Karar紙の報道では「課税が行われても、外国人投資家が一斉に撤退するシナリオは考えにくい。彼らが留まる理由は37%という政策金利そのものだからだ」という専門家の声も紹介されています。
知人の一人は「外国人が来て高金利で稼いで去っていく。その間は助かるが、去った後が怖い」と話していました。大量の資金が一斉に流出すれば、トルコリラが急落し、輸入品の価格が跳ね上がる。すでに高いインフレがさらに加速しかねないという懸念が、この言葉の背景にあります。この感覚こそ、当局が今回の措置を講じた背景にある根本的な懸念でもあります。
テレビの経済番組では「外国人の投機資金に依存する経済の脆弱性」をテーマにした特集が組まれており、視聴者から「政府はなぜもっと早く手を打たなかったのか」という声が寄せられていました。
当局は高金利によるインフレ抑制を維持しながらキャリートレードという両刃の剣をどう扱うかという難しい選択を迫られています。資金を引き寄せすぎれば流出リスクが高まり、規制を強めすぎれば資金が逃げてトルコリラが下落する。今回の課税措置は、その綱引きの中で打てる手の一つを試みたものと言えます。Dünya紙のエコノミスト、マフフィ・エイルメズ氏は「高金利と安定した為替相場の組み合わせは短期的には有効だが、長期的には生産や投資への悪影響を免れない。今回の課税はその矛盾を一時的に和らげるための処置に過ぎない」と論じており、構造的な問題の解決にはなっていないと指摘しています。
筆者が街で見かける普通の市民はこうした金融政策の複雑な議論とは無縁のまま、「高金利がいつまで続くのか」と気にかけることしかできません。高金利という恩恵と、それが生み出す不安定さ。トルコ経済が抱えるこの構造的な矛盾は、政策金利が下がり始めるまで当面続くことになりそうです。
トルコ在住。トルコの大学および国営機関での勤務経験を持つ。翻訳・通訳や机上調査(リサーチ)にも従事しながら、 現地メディアの情報や生活者目線をもとにトルコの政治・社会情勢を伝えている。
