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「ドル円160円」もう戻らない? 日米協調介入後に変わったこと、変わらないこと

少し前まで、テレビやネットのニュースは「歴史的な円安」の話題で持ちきりでした。それが今では一転して、急激な円高が連日のように報じられています。

ドル円が160円台から大きく下落した今の状況を見て、「そろそろドル円を買って、160円への戻りを待つのもありかな」と考え始めている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

結論から言えば、再び160円に戻る可能性は十分にあります。

ただし、「円高になったらドル円を買っておけば、そのうち利益が出るだろう」という投資の成功率は、以前よりも下がったと見るべきかもしれません。

円安を生んできた根本的な理由は残っています。一方で、ヘッジファンドやCTAなどの大口投資家にとって、無視できないリスクが増えたのも事実です。

ベッセント米財務長官「私は胴元だ」発言が意味する為替市場への影響

ベッセント米財務長官は2026年9月8日、「私は非対称な情報を持っている。今や私が胴元だ」と発言しました。

これは、未来のドル円相場を知っているという意味ではありません。

かつて市場を予想する側だった元ヘッジファンド運用者が、いまや市場を動かす政策に関与する側にいる。その優位性を誇示した発言と考えれば分かりやすいでしょう。

実際、2026年7月31日には日米が協調して円買い介入を実施しました。

日米協調介入だけでは円安トレンドが止まらなかった理由

しかし、実際の相場を振り返ると少し見え方が変わってきます。

2026年7月末から8月にかけて巨額の円買い介入が行われたにもかかわらず、ドル円はその後160円台まで戻りました。

ドル円チャート日足2026年7月~ 出所:外為どっとコムFX口座「外貨ネクストネオ」

つまり、「日米が協調介入したから、もう円安にはならない」と、そのまま言い切れる状況ではないと言えそうです。

日米金利差や実需の円売りといった要因が残る限り、介入だけでは相場の大きな方向性を変えられないことを、8月の相場はむしろ証明しました。

日銀の利上げと米国の圧力で、大口投資家の「円売り」はどう変わったか

今回の円高局面で市場が強く意識したのは、日銀の利上げペースが速まる可能性と、米国からの円安是正圧力です。

大手金融ベンダーも、足元では介入リスクや日銀の政策転換を警戒し、大きな円売りポジションの再構築に慎重な市場参加者が増えていると報じています。

これまで、ヘッジファンドやCTAなどの大口投資家にとって、円売りには極めて分かりやすい状態にありました。

「日米金利差が大きいから、円を売れば金利差を得られる。介入でドル円が下がっても、金利差が変わらなければまた戻る」

だからこそ、介入による急落さえも、彼らにとっては次のドル買いの絶好の機会になり得たのです。

しかし今後は、以下の連鎖を考慮しなければなりません。

・円安が進む
→ 日本が介入する
→ 米国も同調するかもしれない
→ 日銀の利上げが前倒しされるかもしれない

円を売ることで得られるリターンは残るものの、以前よりも突然大きな損失を被るリスクが高まった…、大口投資家にとって重要なのは、まさにこの点です。

期待リターンが同じであれば、以前ほど巨大な円売りポジションを持つ必要はありません。少し上昇すれば早めに利益を確定し、政策リスクが高まる前にポジションを落とすようになります。

それだけでも、ドル円は以前のように一方向へ上昇しにくくなります。

日米金利差や米金利上昇など、ドル円が160円に戻る理由

一方で、円安を生み出してきた構造そのものは消えていません。

日米金利差は依然として大きく、日本企業の海外投資や、個人・機関投資家による外貨資産への投資も続いています。

特に重要なのは米国の金利動向です。

米国でインフレが再加速し、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が強まれば、米金利上昇に伴って再びドル高・円安が進む可能性があります。実際、足元でも米国の利上げ観測がドルを支える場面が見られます。

そして、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が巨大な円買い勢力になるという期待も、今のところは割り引いて考えた方がよさそうです。

GPIFの基本ポートフォリオは、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式を25%ずつとする構成であり、政府も現時点で大幅な配分変更を予定していません。また、GPIFには受益者の利益を最優先するという制約もあります。

実際、足元でもGPIFによる目立った国内資産へのシフトは確認されていません。ここも、円安を止める決定打には至っていないのが現状です。

現在の円高はドル円の買い場(仕込み時)と言えるのか?

今の円高局面でドル円を買うべきかどうかについては、二つの視点に分けて考える必要がありそうです。

「ドル円はまた反発するか?」と問われれば、十分あり得ます。
8月にも実際、介入後の円高のかなりの部分を取り戻す局面がありました。

しかし、
「また160円になるのだから、今から買って放置しておけばよい」
となると、以前のようにスムーズにはいかないかもしれません。

今までと変わったのは「160円」という数字そのものではなく、そこへ向かってポジションを積み上げる大口投資家の損益計算(リスク・リターン)だと言えます。

これから私たちが注視すべきなのも、160円という為替水準ではありません。

・米金利が上昇したとき、以前と同じ勢いでドル円が上がるのか。

・現在の円ショート解消が一巡したあと、ヘッジファンドやCTAが再び巨大な円売りポジションを積み上げるのか。

IMMポジション

出所:IMMポジション│はじめてのFXなら外為どっとコム

ドル高材料があるのにドル円が上がりにくい。円売りポジションも以前ほど増えない。
もしそうなれば、大口投資家の行動が明確に変わり始めたサインと言えます。

2012年のアベノミクス前夜に見る、大口投資家のポジション変化と今後のドル円

実は2012年にも、今回と似た動きがありました。

CFTCのデータを見ると、レバレッジドファンドは2012年10月9日時点では円を約1万4000枚買い越していました。ところが2012年10月30日には、約1万3000枚の円売り越しへと急反転しています。

当時の野田首相が衆院解散を表明したのは2012年11月14日。その後の選挙で安倍政権が誕生し、翌2013年4月に日銀の異次元緩和が始まりました。

つまり、一部の大口投資家は、実際の政策が大きく変わる前から、すでに円売り方向へ動き出していたことになります。

その後、大きく変化したのは、単なる「ドル円70円台」という為替水準ではありませんでした。
「円を買っていれば、そのうち儲かる」という市場の成功体験が壊れたのです。

今回は、その逆が起きるのでしょうか。

日米当局が本当に変えたいのは、ドル円160円という数字ではなく、
「円は売っていれば、そのうち儲かる」という大口投資家の成功体験
なのかもしれません。

とはいえ、2026年8月の相場を見ても円安に向かう力はまだ根強く残っています。そのため、ドル円160円という水準が二度と来ないとは限りません。

ただし、今回明確に変わったのは、
「ドル円160円に戻る可能性がある」ことと、「ドル円160円まで安心してドル円を買い続けられる」ことが、イコールではなくなった
ということです。

今の円高をドル円の買い場と考える場合でも、2012年の事例から「相場が転換点にあるかもしれない」ということを、頭の片隅に置いておくとよいかもしれません。