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ベッセント発言が揺らすドル円相場:日米協調介入の影とドル安シナリオの現実味 2026年9月10日

 

ドル円相場は、長らく強力な下値支持線として機能してきた「155円」の防衛線を下抜け、一時152.00円台後半まで急落しました。この背景には、日銀による早期利上げ思惑や国内機関投資家(GPIF等)による資金の本国回帰(レパトリエーション)に加え、ベッセント米財務長官による「円安・ドル高是正圧力」が市場心理を決定的に冷やした実態があります。

ベッセント発言の衝撃――「ドル高容認」からの明確な転換シグナル

市場が警戒を強めているのは、米財務省が過度なドル高・円安に対して是正姿勢を強めている点です。

・通商・製造業重視のドル高修正: 貿易赤字の縮小や米製造業の競争力強化を志向する米通商・財政方針において、一方的なドル高はマイナス要因となります。ベッセント氏のスタンスは、従来の「強いドルは国益」という原則論から、実質的なドル高牽制へと舵を切った可能性を示唆しています。

・口先介入以上の重み: 単なる市場への牽制にとどまらず、日米当局による暗黙の了解や協調姿勢への思惑を呼び、投機筋が抱えてきた膨大な円売り(ショート)ポジションの解消に拍車をかけています。

「日米協調」の影と、ステルス介入説の払拭

先週急激に円高が進んだ際、市場の一部では「日米協調介入やTWAPを用いたステルス介入」が噂されました。

・需給データが示した事実: 日銀当座預金増減要因の予想と民間短資会社の予想乖離は4600億〜7600億円にとどまり、誤差の範囲内でした。つまり、公的な市場介入は実施されていなかったことが確認されています。

・相場の本質: 介入という「実弾」なしに155円を割り込んだ事実は、実需筋とポジション調整による自然な円買い戻しが主導していることを示しています。日米当局が直接手を下さずとも、「米国の円安是正姿勢」というアナウンスメント効果だけで十分に円高トレンドを誘発できる環境が整っています。

ドル安シナリオの現実味――今後の焦点と下値メド

「155円割れ」をトリガーとして、テクニカル面でもドル高トレンドの修正局面が鮮明になっています。

・レジスタンス化する155円: かつてのサポートライン(支持線)だった155.00円付近は、今後は戻り売りが先行しやすい強固なレジスタンス(上値抵抗線)に変化しています。

・下値余地の拡大: 直近安値である152円ミドルレベルを下抜けると、ストップロスを巻き込んで151円台、さらには150円台半ばを目指す下落シナリオが現実味を帯びてきます。

イベント:米CPIから「日米中銀ウィーク(FOMC・日銀会合)」へ続く試練

米CPIでインフレ鈍化が示されれば、FOMCでの利下げ観測や今後の緩和ペース加速を織り込むドル売りが一気に強まります。さらに、その直後に控える日銀会合で追加利上げへの前向きなスタンス(タカ派姿勢)が示されれば、「米国の利下げ×日本の利上げ」による日米金利差の急速な縮小シナリオが現実味を帯びることになります。ベッセント発言による是正圧力と相まって、150円方向へのトレンド転換を決定づけるトリガーになり得るため、ここからの2週間は最大の警戒ゾーンとなります。

まとめ

これまでドル円相場の下値を支えてきた「介入がなければ155円は割れない」という市場の暗黙の防衛線は、完全に崩壊しました。

足元の相場を動かしているのは、公的介入という実弾ではなく、ベッセント米財務長官による「円安是正スタンス」と、それを契機とした投機筋の円ショート解消・実需の買い戻しです。介入警戒感が後退したにもかかわらず154円台へ沈んだ事実は、市場の潮目が構造的に変化し始めたことを物語っています。

ここから先は、155.00円が強固な上値抵抗線(レジスタンス)として意識される中、週末の米CPIから来週のFOMC・日銀会合へと続く「日米中銀ウィーク」が最大の正念場となります。米国の利下げ観測と日銀の追加利上げ観測が共鳴し、「日米金利差の縮小」が現実味を帯びるにつれ、相場は154円割れから153円台、さらには150円方向への本格的なドル安・円高トレンドを試す神経質な展開が続きそうです。目先の反発局面では戻り売り圧力が一段と強まりやすい地合いとみておく必要があります。

 
kurokawa.jpg 外為どっとコム総合研究所
黒川健(くろかわ・たける)
米国Capital Market Services LLCニューヨーク本社および上田ハーロー株式会社でカバーディーラー、プロップディーラーを約20年間務める。2021年9月(株)外為どっとコム総合研究所入社後は、テクニカル分析、ファンダメンタル情報を配信している。