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【トルコリラ見通し】トルコ大統領選の展望と為替相場への影響 2026年9月3日

 

はじめに:正統派路線への回帰と政治リスクの再燃

現職のエルドアン大統領は、2023年5月の大統領選で決選投票を制して再選(得票率約52.14%)を果たしました。選挙前に行われていた異例の利下げ路線から一転、選挙後は「正統派の金融引き締め(大幅利上げ・歳出削減)」へ舵を切りました。これにより、インフレの鈍化や経常赤字の縮小が進み、主要格付会社による国債の格上げなど、市場の信認を回復しつつありました。

そうした中、2028年に予定される次期大統領選に向け、野党の有力対抗馬であるイスタンブール市長のエクレム・イマモール氏が汚職容疑等で拘束・逮捕され、大規模な抗議デモへと発展しました。政治リスクの顕在化を受けて、トルコ市場では「株式・国債・通貨リラ」が揃って大幅安となるトリプル安が発生しています。

野党有力候補の排除を巡る混乱

次期大統領選に向けて、野党側の最有力候補と目されていたのが最大野党・共和人民党(CHP)のエクレム・イマモール氏です。しかし、同氏を巡っては、トルコ憲法上で大統領出馬の必須要件とされる「大卒資格」について、母校である大学が学位を取り消したほか、汚職やテロ関与などの容疑で検察当局に拘束・逮捕される事態となりました。

イマモール氏の拘束報道を受け、金融市場では株・国債・通貨リラが急落。中央銀行はリラ急落を防ぐため翌日物貸出金利を引き上げたほか、金融当局も株式の空売り禁止や自社株買い規制の緩和など、矢継ぎ早に市場防衛策を打ち出しました。

エルドアン大統領の3期目への道筋

(1)前倒し選挙(憲法第116条の例外規定)

トルコ憲法上、大統領任期は「原則2期10年まで」と定められています。2018年の大統領制移行後に2選を果たしている現職のエルドアン大統領は、2028年の任期満了まで務めた場合、現行規定では次期選挙に出馬できません。

しかし、憲法第116条には「議会の議決によって前倒し解散・総選挙を行う場合、任期途中となるため現職の再出馬を認める」という例外規定が存在します。したがって、エルドアン大統領が続投を目指す場合、前倒し選挙の実施が法的に最も現実的なルートとなります。

●前倒し解散の条件

議会(定数600)で前倒し選挙を決定するには、全体の5分の3(360議席)以上の賛成が必要です。エルドアン氏率いる与党・公正発展党(AKP)と民族主義者行動党(MHP)の連立勢力は約320〜330議席前後にとどまり、単独では360議席に届きません。

一方、野党第1党のCHPも早期の選挙実施を求めており、解散条件や実施時期次第では野党側が同調する余地を残しています。与野党ともに早期選挙自体は否定していないため、議会合意が成立する可能性は十分にあります。

●想定される実施時期

直ちに解散するのではなく、引き締め政策によるインフレ鈍化や景気回復の兆しを見定めた上で、任期満了(2028年5月)の数カ月〜1年前に解散するシナリオ(2027年秋〜2028年春頃)が与党側で有力視されています。

ただし、イマモール氏の身柄拘束に伴う抗議デモや社会的不安定化が収拾不能となった場合、政権側が局面打開を目的に前倒しを急ぐ可能性も排除できません。

(2)憲法改正シナリオの現実性

エルドアン大統領が再出馬を可能にするもう一つのシナリオとして「憲法改正(任期制限の撤廃・緩和)」があります。政権内で構想や言及は見られるものの、法的手続き(議会3分の2以上の賛成、または5分の3以上+国民投票での承認)や野党の強い反発を考慮するとハードルは極めて高く、現時点での実現可能性は低いとみられています。

為替相場(トルコリラ)への影響と今後のリスク

選挙が近づくにつれ、政権側が票田確保を目的に賃上げ、年金引き上げ、各種補助金の給付といった「選挙経済(バラマキ政策)」へ傾斜するリスクが意識されます。これにより中央銀行への利下げ圧力が高まり、定着しつつある正統派の金融引き締め路線が後退するとの警戒感から、トルコリラには強い下押し圧力がかかりやすくなります。

また、今回の動きのようにエルドアン大統領の続投(3期目)を主目的とした強引な政局主導や司法介入と受け止められた場合、カントリーリスクの台頭から海外資本の逃避が加速し、再び「株式・国債・通貨リラ」のトリプル安が進行するリスクに留意が必要です。

 

kurokawa.jpg 外為どっとコム総合研究所
黒川健(くろかわ・たける)
米国Capital Market Services LLCニューヨーク本社および上田ハーロー株式会社でカバーディーラー、プロップディーラーを約20年間務める。2021年9月(株)外為どっとコム総合研究所入社後は、テクニカル分析、ファンダメンタル情報を配信している。