
執筆日時:2026年8月6日 16時00分
執筆者 :株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
2026年8月7日 21時30分に7月分の米雇用統計が発表されます。9月の利上げが市場コンセンサスとなりつつあるなか、労働市場の需給動向が確認されます。
筆者のメインシナリオでは、雇用者数の増加は続くものの、その幅は限られたものにとどまります。米連邦準備制度理事会(FRB)が9月の利上げに踏み切るのを後押しするほど強くもなく、かといって景気の悪化を警戒するほど弱くもない、という姿です。
今回は、NFPが10万人を超えるか、平均時給が前月比0.4%へ加速するか、そして失業率の変化を労働参加率がどう説明するか。この3点が、相場の方向を読むうえでの手がかりになりそうです。
米7月雇用統計の注目点、労働参加率で失業率の中身を見極める
労働市場の緩みが米利上げの時期を左右する可能性
FRBは7月28〜29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利を3.50〜3.75%に5会合連続で据え置きました。ただ、3名の地区連銀総裁が利上げを主張して反対票を投じており、9月会合での利上げ議論が意識されています。CMEのFedWatchによれば、原油価格の下落で9月FOMC(9月15〜16日)での0.25%利上げ確率は8月5日時点で54.8%、据え置きは45.2%です。7月29日時点の利上げ72.3%、据え置きは26.6%からは低下していますが、それでもまだ9月利上げは市場コンセンサスです。
もっとも、今回の雇用統計だけで9月の利上げが決まるわけではありません。8月12日には7月の米消費者物価指数(CPI)、9月4日には8月分の雇用統計が控えており、その都度織り込みが揺れる展開が想定されます。
市場予想は8.5万人増、予想レンジは広い
エコノミストらの予想では、非農業部門雇用者数(NFP)の中央値が前月比8.5万人増、平均値が約8.69万人増となっています。予想レンジは4.0万〜15.7万人増と広めですが、見方は7万〜10万人増付近に集中しています。
失業率は4.2%と横ばい、平均時給は0.3%上昇と見通されており、春先の雇用加速は一時的だったとの見方のようです。筆者のメインシナリオは、NFPが7.5万人前後、失業率が4.3%へ小幅上昇、平均時給が前月比0.3%上昇です。
図表1 雇用者数変化に関連するデータ
| 項目 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 |
|---|---|---|---|---|---|
| NFP 万人 | 21.4 | 14.8 | 12.9 | 5.7 | - |
| 失業率 % | 4.3 | 4.3 | 4.3 | 4.2 | - |
| 労働参加率% | 61.9 | 61.8 | 61.8 | 61.5 | - |
| 時間給/前月比 % | 0.2 | 0.2 | 0.3 | 0.3 | - |
| ADP民間雇用者数 万人 | 6.1 | 10.5 | 12.2 | 9.5 | 4.4 |
| Indeed Job Postings Index | 103.9 | 102.7 | 101.9 | 100.8 | 101.4 |
| 新規失業保険申請件数 万件 | 20.5 | 21.4 | 21.0 | 22.7 | 18.8 |
| 失業保険継続受給者数 万人 | 181.6 | 180.8 | 178.5 | 182.1 | 178.2 |
出所:各種公表データを基に外為総研が作成
※データは最新値
※Indeed job postings Indexは月平均
※失業保険データは、雇用統計調査週の分
前回6月分は下方修正で雇用の勢いが後退
前回の6月分は5.7万人増でした。雇用者数そのものは増え続けているものの、4月が17.9万人増から14.8万人増へ、5月が17.2万人増から12.9万人増へと合計7.4万人下方修正されており、これまで見えていたほど雇用の勢いは強くなかったことが明らかになっています。失業率は4.3%から4.2%へ低下しましたが、労働参加率が61.8%から61.5%へ下がった分とみられ、内容としては素直に評価しにくいものでした。
発表当日、ドル円は160.628円まで下落したものの、米利上げ観測が大きく後退しなかったことから終盤には161円台へ戻す展開となりました。弱いNFPが素直にドル安につながらなかった点は、今回を考えるうえでも押さえておきたいところです。
前回の詳しい振り返りは、こちらの記事にまとめています。
米6月雇用統計ふりかえり|ドル円160円半ばへ下落|弱いNFPでも利上げ観測が残った理由
一方、新規失業保険申請件数は低水準にとどまっており、企業が解雇に動き出したわけではなさそうです。7月は6月より増加幅が広がるとみられますが、力強い拡大局面に戻るところまではいかないとみています。
先行指標は製造業と非製造業で方向が逆
8月5日までに出そろった7月の先行指標は、一枚岩ではありません。
- ADP民間雇用者数:+4.4万人(予想+6.5万人、6月+9.5万人)。1月以来の低い伸び
- ISM製造業の雇用指数:52.8(予想50.0、6月49.7)。2022年8月以来の高水準
- ISM非製造業の雇用指数:47.4(予想51.2、6月51.2)。予想外に50を割り込み、3月以来の低水準
- 6月のJOLTS求人件数:735.9万件(5月753.7万件)。予想を下回り、3月以来の低水準
製造業の雇用は明確に持ち直した一方、米経済の7割を占める消費に近い非製造業の雇用は縮小圏へ落ち込みました。求人件数も頭打ちです。強弱の材料が同居しており、NFPの一つの数字で労働市場の全体像を判断するのは難しい状況です。
注目はNFPだけでなく平均時給・失業率・労働参加率
現状のメインテーマが米国のインフレ動向の行方となっているため、NFPが市場予想を上回るか、下回るかだけで為替相場の方向を判断するのは危険です。平均時給が前月比0.4%以上へ加速し、失業率も4.2%以下にとどまれば、労働需給の引き締まりが意識され、9月の利上げ観測が強まる可能性があります。反対に、平均時給が0.2%以下へ鈍化し、失業率が4.4%以上へ上昇すれば、利上げ観測は後退しそうです。
図表2 消費者信頼感指数(コンファレンスボード)
| 項目 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 消費者信頼感指数 | 92.2 | 93.8 | 90.6 | 92.2 | 90.8 |
| 現況 | 124.1 | 124.4 | 119.4 | 118.5 | 114.9 |
| 期待 | 71.0 | 73.4 | 71.4 | 74.7 | 74.7 |
| 雇用が十分 | 27.4 | 26.9 | 24.8 | 25.5 | 24.6 |
| 就職が困難 | 21.3 | 19.4 | 19.8 | 21.7 | 21.5 |
| 雇用が十分-就職が困難 | 6.1 | 7.5 | 5.1 | 3.8 | 3.1 |
出所:公表データを基に外為総研が作成
消費者側から見た労働市場の景色も、決して明るくはありません。「雇用が十分」と「就職が困難」の差は7月に3.1へ縮小し、6月の3.8からさらに悪化して2021年2月以来の低さとなりました。現況指数も114.9と3カ月連続で低下しています。FRB関係者や市場が想定するほどには、消費者は労働市場を強いとみていない可能性があります。
失業率が上がったときこそ労働参加率を見たい
ただし、失業率が上昇した場合には、労働参加率をあわせて確認したいところです。
- 参加率の上昇を伴う失業率の上昇:仕事を探し始めた人が増えた結果であり、雇用そのものが崩れているとは限りません
- 参加率が横ばい・低下するなかでの失業率の上昇:雇用情勢の弱まりを示している可能性が高まります
同じ数字でも、意味合いが変わってくるということです。6月は参加率の低下を伴う失業率の低下でしたので、今回は逆のパターンが出るかどうかにも目を向けたいところです。
米雇用統計後の市場の反応シナリオ|ドル円・米金利・金の想定
ドル円については、通常の金利差の物差しだけでは測りにくい状況にある点に注意が必要です。7月23日に一時163.988円と1986年11月以来の円安水準を付けたあと、7月末の本邦当局による円買い介入と、米国東部時間7月31日の日米協調介入を受けて、8月3日には155.218円まで急落する場面がありました。片山財務相は追加の協調介入も躊躇しないと述べ、ベッセント米財務長官も参加に躊躇しない姿勢を示しています。
図表3 雇用統計への反応
| 結果 | 市場の見方 | 想定される反応 |
|---|---|---|
| NFP10万人以上、平均時給0.4%以上、失業率4.2%以下 | 9月利上げ観測が一段と強まる | 米金利上昇、ドル円上昇、金下落。株式は金利上昇を警戒。ただしドル円は介入警戒から上値が重くなる可能性 |
| NFP6万〜10万人、平均時給0.3%、失業率4.2〜4.3% | おおむね予想通り | 初動後は方向感が定まりにくい。参加率や過去分の修正が焦点 |
| NFP6万人未満、平均時給0.2%以下、失業率4.4%以上 | 9月利上げ観測が後退 | 米金利低下、ドル円下落、金上昇。介入効果と重なれば4月30日以降の介入安値155.03円前後が意識される場面も |
図表4 ドル円チャート

ドル円 日足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
米雇用統計の実績・市場予想と関連経済指標データ
図表5 [雇用統計の実績と予想]
| 年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||
| 予想値 | 初回結果 | 予想値 | 初回結果 | |
| 2026年07月 | 8.5 | - | 4.2 | - |
| 2026年06月 | 11.3 | 5.7 | 4.3 | 4.2 |
| 2026年05月 | 8.5 | 17.2 | 4.3 | 4.3 |
| 2026年04月 | 6.2 | 17.5 | 4.3 | 4.3 |
| 2026年03月 | 6.5 | 17.8 | 4.4 | 4.3 |
| 2026年02月 | 5.5 | -13.3 | 4.3 | 4.4 |
| 年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
| 予想値 | 初回結果 | 初回結果 | |
| 2026年07月 | 0.3 | - | - |
| 2026年06月 | 0.3 | 0.3 | 61.5 |
| 2026年05月 | 0.3 | 0.3 | 61.8 |
| 2026年04月 | 0.3 | 0.2 | 61.8 |
| 2026年03月 | 0.3 | 0.2 | 61.9 |
| 2026年02月 | 0.3 | 0.4 | 62.0 |
◇関連の経済データ実績
| 年月 | ISM製造業雇用指数 | ISM非製造業雇用指数 |
| 2026年07月 | 52.8 | 47.4 |
| 2026年06月 | 49.7 | 51.2 |
| 2026年05月 | 46.6 | 47.9 |
| 2026年04月 | 46.4 | 48.0 |
| 2026年03月 | 48.7 | 45.2 |
| 2026年02月 | 48.8 | 51.8 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
市場予想は弊社経済カレンダーより、2026年8月6日 現在
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小野 直人
株式会社DZHフィナンシャルリサーチでの情報配信業務、上田ハーロー株式会社での調査・市場部門を経て、2021年より外為どっとコム総合研究所へ参画。ニュースベンダーとFX会社で培った「情報の目利き力」と「市場実務の経験」を武器に、個人投資家へ有益な情報を発信している。ドル円などの主要通貨に加え、トルコリラ・メキシコペソなどの新興国通貨、日経平均・NYダウといった株価指数(CFD)まで、幅広い金融商品の分析を得意とするマーケットアナリスト。
