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ドル/円の8月見通し 「円買い介入の影響残るもカギはドルの動き」

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ドル/円の8月見通し 「円買い介入の影響残るもカギはドルの動き」

執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト 神田卓也

 

ドル/円 の基調と予想レンジ

基調
不安定

予想レンジ
153.500~159.500円

ドル/円7月の推移

7月のドル/円相場は157.654~163.988円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約3.0%下落(ドル安・円高)。上中旬は、日本政府・日銀による円買い介入への警戒感などを背景に162円台で伸び悩んだが、米国とイランの対立が再び激化する中でドルが堅調だったため下値も堅く、約40年ぶりの高値圏でもみ合った。その後、原油高などを背景に米連邦準備制度理事会(FRB)の早期利上げ観測が台頭したほか、高市政権の拡張的な財政政策や日銀の独立性をめぐる懸念が広がる中でドル買い・円売りが強まると、3週間にわたり上値を抑えられていた162円台後半を21日に突破。23日には163.99円前後まで上伸して1986年11月以来の高値を更新した。下旬は、27日に米軍がイランへの攻撃を一時停止したことや29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて米国の早期利上げ期待がやや後退したことからドルがいくぶん軟化したが、円安の流れは変わらず163円台で高止まりした。しかし、30日には不自然な形で円買いが強まり、翌31日も同様に円が急伸すると5月14日以来の157.51円前後まで急落。政府・日銀による円買い介入に加え、米当局も協調的に円買い介入を実施したと見られる。

ドル/円 日足チャート

ドル/円7月の四本値

始値 162.553 高値 163.988 安値 157.511 終値 157.654

日付  
1日 米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長は「過去4週間でインフレ期待は低下し、インフレリスクは後退した」と発言。その上で、「米国の物価安定を実現する。それがFRBに課せられた使命であり、われわれの目標でもある」として「インフレ率を2%の目標に押し下げることに引き続きコミットしている」と語った。
2日 ロイター通信は関係者の話として「今後介入が行われる場合には、4月30日のような(事前の)強い警告は発出されない可能性がある」と報じた。続いて韓国財政経済省は、為替の安定について「我々は常に日本やその他の関係国と緊密に連携し、情報を綿密に交換している」との見解を示した。これらを受けて不意打ち介入や日韓協調介入への警戒感が高まった。その後に発表された米6月雇用統計は非農業部門雇用者数が5.7万人増にとどまり市場予想(11.3万人増)を下回った一方、失業率は市場予想および前月の4.3%より低い4.2%に低下した。
7日 米財務省は、イラン産原油の購入を一時的に認める制裁緩和措置を撤回すると発表。その後、米中央軍は「国際水路で無実の民間人が乗り組む商船を標的として攻撃したことに大きな代償を課すため、イランに対して一連の強力な攻撃を開始した」と発表した。
8日 FRBは6月の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公表。「参加者全員が政策金利の据え置きを支持した」とした上で、「物価安定に対する上振れリスクは依然として高い一方、最大雇用達成に対する下振れリスクはやや緩和したとの見解から、一部の参加者は政策金利を引き上げる余地がある」と主張した。また「参加者の多くは、安定した労働市場環境下で、AI関連の強い需要、中東紛争、または関税の影響によりインフレ率が高止まりする場合、インフレ率を2%に戻すために何らかの政策引き締めが必要になる可能性が高いと指摘した」ことも明らかになった。
10日 片山財務相は閣議後の会見で「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめとする年金基金に、日本の金融資産にさらに投資してもらう方向で後押しする方策を追求したいと考えている」と発言。世界最大級の年金基金であるGPIFが海外資産の一部を取り崩して日本の株式や債券への投資配分を増やす可能性があるとの見方から、東京市場は株高・債券高(長期金利低下)・円高のトリプル高となった。
14日 米6月消費者物価指数(CPI)は、前年比+3.5%と市場予想(+3.8%)を下回り、前月(+4.2%)から伸びが鈍化した。食品とエネルギーを除いたコアCPIも前年比+2.6%に減速した(予想+2.8%、前月+2.9%)。6月は中東情勢がいったん落ち着いていたことから、ガソリン価格が前月比で9.7%下落するなど、エネルギー価格の低下が目立った。その後、ウォーシュFRB議長は就任後初の議会証言で、近年の物価高に関して「米国の家計や企業にとって過度な負担になってきた」と指摘。その上で「インフレの高止まりを容認しない」と強調した。自身のFRB改革を支える5つのタスクフォース(作業部会)については、その狙いが物価の安定にあると説明。「(タスクフォースを通じて)より良い金融政策を決定できるようにし、ここ数年の高インフレに終止符を打つ」と表明した。6月CPIが大幅に鈍化したことについても言及し、「これでミッション完了ではなく、やるべきことはたくさんある」と語った。
16日 米6月小売売上高は前月比+0.2%と予想に一致。自動車を除いた売上高は前月比-0.2%だった(予想-0.1%)。GDPの算出に用いられるコア売上高(自動車、ガソリン、建材、食品サービスを除く)は前月比+0.5%と予想通りの堅調な伸びだった。
21日 高市政権は経済財政運営の指針(骨太の方針)を閣議決定。首相は「行き過ぎた緊縮志向と未来への投資不足の流れを断ち切り、国内投資を徹底的にてこ入れする」と改めて表明した。6月末に公表された骨太の方針の原案では、「強い経済の実現に向けては、適切な金融政策運営が行われることも非常に重要」、「日銀法第4条及び政府・日本銀行の共同声明の趣旨に沿って政府と緊密に連携」と明記したことが日銀の利上げをけん制する内容と市場に受け止められたが、決定稿では脚注に「日本銀行法第3条に基づき、金融政策の具体的な手法については日銀に委ねられる」との文言が加筆された。
22日 「日本銀行の関係者によると、基調的な物価上昇率が、2%の物価安定目標にかなり近づいていると日銀は認識しており、上振れリスクを一段と精査することが重要な局面にある」「日銀は、利上げペースを半年に1回程度の市場見通しよりも加速させることに柔軟な姿勢だ」とブルームバーグが報じた。
27日 前週末に米軍がイランへの攻撃を一旦停止。イランも報復攻撃を停止した。トランプ米大統領は「交渉の可能性を試すためにイランへの攻撃を停止した」と語った。その後、「イランとは良好な協議を行っており、何かが起こる可能性が高い」との見解を示した。
29日 FOMCは政策金利を3.50-3.75%に据え置いた。据え置きは5会合連続となったものの、3名の地区連銀総裁が25bp(0.25%ポイント)の利上げを主張し反対票を投じた。同時に公表された声明では、「経済活動は堅調に拡大」、「失業率はほとんど変化していない」、「インフレ率は目標とする2%に対し依然として高い水準である」と米経済の現状を評価。前回会合(6月17日)の声明から内容にほとんど変化はなかった。ウォーシュFRB議長はその後の会見で、インフレ抑制に向けた姿勢をあらためて強調したものの、具体的な利上げ方針や実現手段を示さなかった。利上げについては、「インフレ率が見通し期間を通じて高止まりするようであれば、金利はその対応策の一つになり得るが、それだけが手段というわけではない」との見解を示した。金融政策運営やインフレ加速をめぐる不透明感が広がり、米国市場は株安・債券安(長期金利上昇)・ドル安のトリプル安となった。
30日 ロンドンタイムに続いてNYタイムでも円が不自然に急伸。東京タイムに163円台で推移していたドル/円が157.94円まで6円近く下落したほか、クロス円も大幅に下落した。その後、日本経済新聞は「政府・日銀が円買い・ドル売りの為替介入に動いたほか、米通貨当局(NY連銀)が介入の前段階である『レートチェック』をしたことが市場関係者の話で分かった」と報じた。
31日 日銀は予想通りに政策金利を1.00%に据え置いた。高田委員が1.25%への利上げを提案したが反対多数で否決された。同時に公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、一時的な要因を除く基調的な物価が「2%の物価安定目標を超えて上振れしていくリスクがある」と強調。植田総裁もその後の会見で「これまで以上に物価の上振れリスクを意識する必要がある」と強調しつつ、利上げについては「次回以降、しっかり議論する」と述べた。「金融環境が緩和的すぎると判断すれば、利上げのペースを速めることもあり得る」と従来よりも踏み込んだ見解を示す場面もあったが、「(利上げペースを速めるかどうかは)リスクが顕現化しそうかどうかを判断しつつ、決めるということに帰着する」として慎重な姿勢もにじませた。また、この日も海外市場で円相場が急騰。NYクローズ後には、英FT紙が事情に詳しい関係者の話として、米財務省が円相場に介入したと報じた。FTによれば、NY連銀を通してユーロ売り・円買いを実施したとのこと。日経新聞も「31日は日本側が介入を断続的に実施したほか、米国側も『側面支援』を積極化した」と報じた。また、ロイターは、ベッセント米財務長官がトランプ大統領主催の閣議で示した「やること⁠リスト」に、50億-100億ドル相当の日本円購入を検討していることを示す記述があったと、リストの写真入りで報じた。

各市場 7月の推移

8月の注目イベント(日・米)

8月の注目イベント(日・米)
1日   17日
日本4-6月期GDP・一次速報
2日   18日
米7月住宅着工件数
米7月鉱工業生産
3日
米7月ISM製造業景況指数
19日
FOMC議事要旨
4日
米6月貿易収支
米6月JOLTS求人件数
20日
日本7月貿易収支
5日
日本6月毎月勤労統計
米7月ADP全国雇用者数
米7月ISM非製造業景況指数
21日
日本7月消費者物価指数
米8月製造業/サービス業PMI
6日
米4-6月期単位人件費
22日  
7日
米7月雇用統計
23日  
8日   24日  
9日   25日
米8月消費者信頼感指数
10日
日本6月経常収支/貿易収支
26日
米7月PCEデフレーター
米4-6月期GDP・改定値
米7月耐久財受注
11日
日本祝日
米7月中古住宅販売件数
27日
ジャクソンホール会議(~29日)
12日
米7月消費者物価指数
28日
日本8月東京都区部消費者物価指数
13日
米7月生産者物価指数
29日  
14日
米7月小売売上高
米7月ミシガン大消費者信頼感指数
30日  
15日   31日  
16日      

ドル/円の8月見通し

7月末に行われた日米協調による円相場の押し上げ介入が、当面はドル/円の上値を抑えそうだ。今年1月の「日米協調レートチェック」の効果はおよそ2カ月持続。4-5月の「日本単独実弾介入」は1カ月半程度持続した。7月末の介入が「日米協調実弾」であったことが事実であれば、その効果はさらに長期化する公算が大きい。もっとも、円安要因として市場で材料視されてきた高市政権の拡張的な財政政策や日銀の独立性をめぐる懸念が為替介入によって解消されたわけではない。したがって、介入警戒感で円が支えられている間にドルが下落基調となるかが8月のドル/円相場の焦点だろう。その意味では、中東情勢や米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測が、今後どのように変化していくかがカギとなる。なお、8月16日前後は、事実上無効化したとの見方は強いが米国とイランによる一応の停戦合意期限だ。仮に戦争終結に向けた動きが強まればドルが下落する公算が大きいものの、これまでの経緯を考えると過度な期待は禁物だろう。また、8月7日に発表される米7月雇用統計や12日の米7月消費者物価指数(CPI)が下振れするようならFRBの9月利上げ期待(市場の織り込みは7月31日時点で67%)が後退しドルが下落する可能性はある。ただ、米新規失業保険申請件数は7月に入り明確に減少しており、4週平均で見ても6月末時点よりほぼ2万件減少している。米7月消費者信頼感指数の調査に「職探しが困難」と回答した割合も小幅ながら低下しており、米国の労働市場が6月より軟化しているようには見えない。米7月雇用統計も6月から悪化することは考えにくい。また、6月に一時1ガロン3.0ドルを割り込んでいた米国のガソリン価格(RBOB先物)は7月17日に3.4ドルに達した。7月末時点でも3.11ドルと6月末の3.01ドルより3%以上高い。米7月CPIが下振れする公算は小さいだろう。以上の点から、8月は円が堅調に推移する一方でドルも底堅さを維持すると予想。ドル/円は160円に近付けば円売りの動きが鈍る半面、節目の155円台を割り込めばドルの押し目買いが入ると予想している。

kanda.jpg 外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。