
作成日 2026年7月22日
【後編】8月の資源国・新興国通貨安はなぜ起きる? 円高との関係と投資への生かし方
前編では、外為どっとコム「外貨ネクストネオ」の月足データを使い、ドル円を含む15通貨ペアの月間騰落率を検証しました。
ドル円には8月に下落しやすい傾向が見られました。さらに、資源国通貨や新興国通貨をグループで分析すると、8月の平均騰落率はほかの月より1〜2ポイント程度低く、統計的にも一定の差が確認されました。
ただし、前編で調べたのは、すべて円との組み合わせです。対円通貨の下落には、資源国通貨や新興国通貨が売られたことだけでなく、円が買われたことも影響している可能性があります。
後編では、8月の弱さと円高の関係を整理し、この季節性を投資判断にどう生かせるのかを考えます。
8月の弱さには円高も影響している
例えば豪ドル/円が下落しても、必ずしも豪ドルそのものが大きく売られたとは限りません。豪ドルが横ばいでも、円が強く買われれば豪ドル/円は下落します。
そこで、各通貨の対円騰落率からドル円の値動きを差し引き、円の影響を弱めた状態でも分析しました。
その結果、資源国通貨や新興国通貨は、円の影響を差し引いた後も8月に弱い傾向を示しました。ただし、8月とほかの月との差は小さくなり、統計的な明確さも弱まりました。
つまり、8月の対円通貨の下落には、次の二つの要因が重なっている可能性があります。
資源国通貨や新興国通貨が売られやすい
円が買われやすい
8月の弱さを、資源国通貨や新興国通貨だけの問題と捉えるのは適切ではありません。
市場全体でリスクを避ける動きが強まり、円が買われることで、対円通貨の下落幅が広がっている可能性があります。
なぜ8月は円高になりやすいのか
統計データからは、8月に対円通貨が弱くなりやすい傾向が確認できました。ただし、データだけで原因を一つに決めることはできません。
考えられる背景は、主に三つあります。
夏休みで市場参加者が少なくなる
8月は、欧米の市場参加者が夏休みを取る時期です。
市場での取引が少なくなると、通常なら相場を大きく動かさない程度の売買でも、為替レートが急に変動することがあります。
市場参加者が少なければ必ず大きく動くわけではありませんが、予想外のニュースが出た際に、売買の偏りを吸収しにくくなることがあります。
市場が不安定になると円が買われやすい
株価が下落したり、世界景気への不安が強まったりすると、投資家はリスクを減らすため、保有ポジションを縮小することがあります。
こうした局面では、資源国通貨や新興国通貨、高金利通貨が売られる一方、円や米ドルなどに資金が向かう場合があります。
資源国通貨や新興国通貨の下落と円高が重なれば、対円で見た下落幅は大きくなります。
世界景気への不安が資源価格を押し下げる
豪ドル、カナダドル、ノルウェークローネ、南アフリカランド、メキシコペソなどは、原油や金属といった資源価格の影響を受けやすい通貨です。
世界経済への不安から資源価格が下落すると、資源国の輸出や景気への懸念が強まり、通貨の重しとなることがあります。
もっとも、これらは考えられる背景にすぎません。
今回の分析は、8月に弱い傾向があったことを示すもので、個々の年に何が下落を引き起こしたかまで特定するものではない点には注意が必要です。
8月に高金利通貨を保有してはいけないのか
今回の結果は、8月に資源国通貨や新興国通貨、高金利通貨を保有してはいけないことを意味しません。
月間騰落率がマイナスでも、スワップポイントを含めた実際の損益は異なる場合があります。また、過去に弱かった月でも、金融政策や経済環境によって上昇する年はあります。
見方を変えれば、8月に円高傾向が表れ、その後、過去のデータで比較的強かった4月に向けて円安が進むのであれば、8月の下落局面を長期的な「仕込み時」と捉える考え方もできます。
ただし、「8月だから」という理由だけで買い場と判断するのは早計です。
下落の途中で買えば、その後さらに円高が進み、評価損が膨らむ可能性があります。スワップポイントを受け取っても、為替差損がそれを上回ることもあります。
大切なのは、季節性だけで売買を決めず、現在の市場環境と組み合わせて判断することです。
8月に確認したい五つのポイント
資源国通貨や新興国通貨を対円で保有する場合は、次の点を確認しておきたいところです。
世界の株式市場が下落していないか
原油や金属価格が弱含んでいないか
市場の変動率が高まっていないか
円高方向への動きが強まっていないか
保有ポジションが大きくなりすぎていないか
株安、資源安、円高が同時に進んでいる場合は、8月の季節性と市場環境が同じ方向を向いている可能性があります。
反対に、株価や資源価格が上昇し、円安も進んでいるのであれば、過去のアノマリーだけを理由に弱気になる必要はありません。
アノマリーは相場の方向を断定するものではなく、いつもより注意を高めるための材料として使うのが適切です。
8月のアノマリーを投資判断にどう生かすか
今回の分析では、ドル円は過去の8月に平均で下落し、上昇した割合も4割を下回りました。ただし、ドル円単独では、月ごとの差が統計的に明確とまではいえません。
一方、資源国通貨と新興国通貨をまとめると、8月の平均騰落率はほかの月より1〜2ポイント程度低く、複数の統計的な検定でも差が確認されました。
この結果から、「8月は資源国・新興国通貨を対円で保有するうえで不利な月」というアノマリーには、一定の統計的根拠があると考えられます。
ただし、円の値動きを差し引くと差は小さくなります。8月の弱さには、資源国通貨や新興国通貨が売られやすいことに加え、円高になりやすい市場環境も影響している可能性があります。
そのため、「8月だから売る」「過去に安かったから買う」と単純に判断するのは適切ではありません。
すでにポジションを保有している場合は、相場が大きく動いても耐えられる取引量かを確認する必要があります。これから買う場合は、一度に資金を投入せず、時期や価格を分ける方法も考えられます。
繰り返しになりますが、アノマリーは、将来の値動きを予言するものではなく、いつもより注意を高めるための材料です。
過去の傾向を踏まえつつ、株価、資源価格、円相場、各国の金融政策、保有期間、許容できる損失額と組み合わせて判断することが重要です。
※本記事の分析には、外為どっとコム「外貨ネクストネオ」の月足データを使用しています。月間騰落率は、前月終値と当月終値から算出しています。2026年7月は月途中のため、分析対象から除外しました。過去のデータや統計的な傾向は、将来の相場変動や投資成果を保証するものではありません。
