
【前編】8月は円高になりやすい? ドル円含む15通貨の過去データを検証
為替相場では、「この月は上がりやすい」「この時期は円高になりやすい」といった季節的な傾向が語られます。こうした値動きの偏りは「アノマリー」と呼ばれます。
なかでも8月は、欧米の夏休みで市場参加者が減り、相場が不安定になりやすい時期とよく言われます。では実際に、8月はほかの月より円高になりやすく、対円通貨が下落しやすいのでしょうか。
今回は、外為どっとコム「外貨ネクストネオ」の月足データを使い、ドル円を含む15通貨ペアの月間騰落率を集計しました。
平均騰落率を比べるだけでなく、確認された差が偶然のばらつきなのか、一定の傾向と考えられるのかについても、複数の統計的な手法で検証しています。
先に結論を示すと、「8月は資源国通貨・新興国通貨を対円で保有するうえで不利な月」というアノマリーには、一定の統計的根拠が見られました。
前編では、ドル円と15通貨の月別データから、8月にどのような特徴が見られたのかを確認します。
月間騰落率をどのように調べたのか
今回の分析では、外為どっとコム「外貨ネクストネオ」の月足データを使い、各月の終値から月間騰落率を計算しました。
月間騰落率とは、当月の終値が前月の終値から何%上昇、または下落したかを示す数値です。例えば、前月末が100円、当月末が102円なら、月間騰落率はプラス2%となります。
分析対象は、次の15通貨ペアです。
米ドル/円
ユーロ/円
英ポンド/円
豪ドル/円
NZドル/円
カナダドル/円
スイスフラン/円
メキシコペソ/円
南アフリカランド/円
トルコリラ/円
ノルウェークローネ/円
スウェーデンクローナ/円
ハンガリーフォリント/円
ポーランドズロチ/円
チェココルナ/円
2026年7月は月途中のため、分析対象から除外しています。
各通貨の月別傾向には利用できる全期間のデータを使い、複数通貨の比較では期間をそろえるため、主に2009年以降のデータを使用しました。
ドル円は7月と8月に弱い傾向
まず、ドル円の月別平均騰落率を見てみましょう。
| 月 | 平均騰落率 | 上昇した割合 |
|---|---|---|
| 1月 | -0.45% | 37.5% |
| 2月 | +0.48% | 45.8% |
| 3月 | +0.66% | 54.2% |
| 4月 | +0.29% | 50.0% |
| 5月 | +0.20% | 52.0% |
| 6月 | +0.34% | 60.0% |
| 7月 | -0.68% | 45.8% |
| 8月 | -0.52% | 37.5% |
| 9月 | +0.43% | 58.3% |
| 10月 | +0.56% | 66.7% |
| 11月 | +0.24% | 41.7% |
| 12月 | -0.15% | 45.8% |
ドル円は、7月の平均騰落率がマイナス0.68%、8月がマイナス0.52%となりました。
8月にドル円が上昇した割合も37.5%にとどまります。裏返せば、過去の8月は6割以上の確率でドル安・円高方向に動いたことになります。
ただし、12カ月をまとめて比較すると、月ごとの違いが統計的に明確であるとは確認できませんでした。
ドル円には「7月や8月はやや弱い」という傾向があるものの、「8月は必ず円高になる」と判断できるほど強い規則性ではありません。
15通貨を並べると8月の弱さが目立つ
ドル円以外にも対象を広げると、8月の特徴がより鮮明になります。
今回調べた15通貨ペアでは、すべての通貨で8月の平均騰落率がマイナスとなりました。
特に下落率が大きかったのは、次の通貨です。
| 通貨ペア | 8月の平均騰落率 |
|---|---|
| トルコリラ/円 | -3%台 |
| 南アフリカランド/円 | -2%台 |
| メキシコペソ/円 | -2%前後 |
| NZドル/円 | -1%台 |
| 豪ドル/円 | -1%前後 |
| カナダドル/円 | -1%前後 |
トルコリラ、南アフリカランド、メキシコペソといった新興国通貨に加え、豪ドル、NZドル、カナダドルなどの資源国通貨にも、8月に弱い傾向が見られました。
一方、4月は多くの対円通貨で平均騰落率がプラスとなっています。この結果だけなら、春は上昇しやすく、夏場は下落しやすい季節性があるように見えます。
もっとも、為替相場を動かす材料は毎年異なります。金融危機、感染症、金融政策の転換、地政学リスクなど、特定の年の大きな出来事が平均値を押し下げた可能性も否定できません。
そこで、平均値だけでなく、その差に統計的な意味があるかも調べました。
資源国通貨と新興国通貨をグループで検証
資源国通貨のグループには、豪ドル、NZドル、カナダドル、ノルウェークローネを含めました。
さらに、資源価格の影響を受けやすい南アフリカランドとメキシコペソを加えた「広義の資源国通貨」も確認しています。
新興国通貨は、メキシコペソ、南アフリカランド、トルコリラ、ハンガリーフォリント、ポーランドズロチ、チェココルナの6通貨です。
メキシコペソと南アフリカランドは、資源国通貨と新興国通貨の両方の性格を持つため、一部のグループで重複しています。
2009年以降の共通期間を使い、8月とそれ以外の月を比較した結果は次の通りです。
| 通貨グループ | 8月平均 | 8月以外 | 8月の差 |
|---|---|---|---|
| 資源国通貨 | -0.97% | +0.39% | -1.36ポイント |
| 資源国通貨・広義 | -1.39% | +0.39% | -1.78ポイント |
| 新興国通貨 | -1.57% | +0.10% | -1.68ポイント |
| 資源国・新興国通貨全体 | -1.33% | +0.22% | -1.55ポイント |
資源国通貨は、8月以外の月には平均でプラスでしたが、8月はマイナスとなっています。
南アフリカランドとメキシコペソを含む広義の資源国通貨では、8月の平均騰落率がマイナス1.39%となり、それ以外の月より1.78ポイント低い結果でした。
新興国通貨も8月はマイナス1.57%で、それ以外の月より平均1.68ポイント低くなっています。
さらに、特定の年だけが結果を左右していないかを確認するため、各年の8月と、その年のほかの月の平均も比較しました。
この方法でも、資源国通貨と新興国通貨の8月の弱さには、統計的に意味のある差が確認されました。
「統計的に意味がある」とはどういうことか
今回の分析では、平均騰落率の差が偶然生じただけではないかを確かめるため、複数の統計的な検定を行いました。
簡単にいえば、過去の値動きには上昇した年も下落した年もあるため、そのばらつきを考慮しても、8月とほかの月に違いがあるかを調べています。
検定方法によって結果には多少の違いがありますが、資源国通貨と新興国通貨をまとめた分析では、8月の弱さが複数の方法で確認されました。
したがって、単に平均値が低かっただけではなく、8月はほかの月より下落しやすかった可能性が高いと判断できます。
個別通貨では、南アフリカランド/円の8月の弱さが比較的明確でした。豪ドル/円、NZドル/円、メキシコペソ/円なども平均騰落率は低かったものの、単独では統計的に十分な差が確認できないケースがあります。
一つの通貨だけでは見えにくい傾向が、複数通貨をまとめることで浮かび上がった形です。
前編のまとめ
ドル円は、過去の8月に平均で下落し、上昇した割合も4割を下回りました。ただし、ドル円単独では、月ごとの差が統計的に明確とまではいえませんでした。
一方、資源国通貨と新興国通貨をまとめると、8月の平均騰落率はほかの月より1〜2ポイント程度低く、複数の検定でも差が確認されました。
では、この弱さは資源国通貨や新興国通貨そのものによるものなのでしょうか。それとも、8月に円が買われやすいことが影響しているのでしょうか。
後編では、円高の影響を差し引いた分析を確認し、8月特有の市場環境と、このアノマリーを投資判断にどう生かすかを考えます。
※本記事の分析には、外為どっとコム「外貨ネクストネオ」の月足データを使用しています。月間騰落率は、前月終値と当月終値から算出しています。2026年7月は月途中のため、分析対象から除外しました。過去のデータや統計的な傾向は、将来の相場変動や投資成果を保証するものではありません。
