
ドル/円の7月見通し 「40年ぶり高値更新で上昇余地拡大」
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト 神田卓也
ドル/円 の基調と予想レンジ
基調
上値模索
予想レンジ
159.500~165.000円
ドル/円6月の推移
6月のドル/円相場は159.297~162.669円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約2.1%上昇した(ドル高・円安)。米国とイランが和平に向けた覚書を取り交わしたことで、中東情勢をめぐる過度な懸念が後退する中、原油価格はほぼ戦争前の水準まで下落したが、ドル高・円安の流れは止まることがなかった。米5月雇用統計で雇用情勢の改善が確認された一方、米5月消費者物価指数(CPI)でインフレ再燃の兆しが見られたことから、利上げ期待を背景にドルが上昇。また、新たに米連邦準備制度理事会(FRB)議長に就任したウォーシュ氏がインフレ抑制に向けた決意を示したこともドルの押し上げにつながった。一方で円は、日銀が利上げ継続の姿勢を示したものの、高市政権が次回以降の利上げを容認しないとの見方が広がる中で下落した。ドル/円は18日に161.80円台へと上昇したことで、4月30日以降に政府・日銀が行った円買い介入の効果が消滅。その後も、月末にかけて緩やかにドル高・円安が進むと30日には162円台に乗せ、1986年12月以来の高値となる162.67円前後まで上昇した。
ドル/円 日足チャート

ドル/円6月の四本値
始値 159.327 高値 162.669 安値 159.297 終値 162.579
6月振り返り
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 1日 | 米5月ISM製造業景況指数は54.0と市場予想(53.0)以上に前月(52.7)から上昇し、2022年5月以来の大幅な拡大となった。構成指数では新規受注が56.8と前月(54.1)から大幅に上昇。雇用は48.6と前月(48.4)から小幅ながら改善した。 |
| 2日 | 米4月JOLTS求人件数は761.8万件と市場予想(686.6万件)を上回り、2024年5月以来の水準に増加した。解雇率が前月の1.2%から1.1%に低下するとともに採用率も3.5%から3.2%に低下した。 |
| 3日 | 米5月ADP全国雇用者数は12.2万人増と市場予想(12.0万人増)を上回り、2025年1月以来となる大幅な伸びだった。前回4月分は10.5万人増へ10.9万人増から下方修正された。 |
| 5日 | 米5月雇用統計は非農業部門雇用者数が17.2万人増と市場予想(8.8万人増)を上回った。前2カ月分が合計9.3万人上方修正されたこともあって、3カ月平均の増加幅は4月時点の7.9万人から18.8万人に拡大した。5月失業率は予想通りに4月から横ばいの4.3%で、労働参加率も横ばいの61.8%だった。同平均時給は前年比+3.4%と予想通りに4月の+3.6%から伸びが鈍化した。 |
| 10日 | 米5月消費者物価指数(CPI)は前年比+4.2%と市場予想通りに前月(+3.8%)から伸びが加速し、2023年4月以来の高い伸び率となった。食品とエネルギーを除いたコアCPIも前年比+2.9%と市場予想通りに前月(+2.8%)から伸びが加速した。 |
| 11日 | 米国のトランプ大統領は、戦闘終結に向けたイランとの協議内容について「イラン指導部の最高レベルに持ち込まれ、承認された」とSNSで発表。これを受けて「本日の夕方に予定されていたイランに対する攻撃と空爆を大統領として中止した」と投稿した。また、イスラエルやサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、トルコなどの国名を挙げ「関係者全員によって承認されている」と強調。「署名の時間と場所はすぐに発表される」としてイランとの合意が近いことを示唆した。 |
| 15日 | 米国とイランの仲介国を担うパキスタンのシャリフ首相は「米国とイランの間で和平合意が成立し、19日にスイスで署名される見通しだ」と発表。その後、トランプ米大統領は「イランとの合意が完了した。ここにホルムズ海峡の通行料無料化を全面的に承認し、同時に米国海軍による海上封鎖の即時解除を承認する」と自身のSNSに投稿した。また、イランの外務次官は「必要となれば協議の延長もあり得る」としつつ、米国との合意と正式な調印が19日に行われることを認めた。 |
| 16日 | 日銀は政策金利を0.75%程度から1.0%程度へと引き上げた。声明では「政策金利の変更後も緩和的な金融環境は維持されるため、引き続き経済活動をしっかりとサポートしていくと考えている」と表明。今後については「経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」「調整のタイミングやペースは、中心的な見通しが実現する確度やリスクを点検しながら検討する」とした。浅田委員は生産・雇用の下振れリスクの方が大きく金融市場調節方針を据え置くことが望ましいとして反対したが、その他7人の賛成で利上げが決定した。また、長期国債の買入れ計画については2027年4月以降に減額を停止し、月間2兆円程度の買い入れとすることを決めた。内田副総裁は、病気療養中の植田総裁に代わって会見を行い「基調的な物価上昇率が2%の物価安定目標を超えて上振れていくリスクがある」として、今後も利上げを継続する姿勢を示した。一方で、利上げのペースや最終的な到達点についての明言は避けた。また、「為替相場は我々のターゲット・目標ではないが、経済・物価に影響を及ぼす重要な要因の一つだ」として、円安が物価に及ぼす押し上げ効果が従来より大きくなっているとの認識を改めて示した。 |
| 17日 | 米連邦公開市場委員会(FOMC)は政策金利を3.50-3.75%に据え置いた。据え置きは4会合連続で、全会一致の決定だった。ウォーシュ連邦準備制度理事会(FRB)議長就任後初のFOMCでは、声明文が大幅に簡素化され、フォワードガイダンスが廃止された。同時に公表した経済・金利見通しでは、2026年末の個人消費支出物価指数(PCEデフレーター)見通しを、前回(3月時点)の前年比+2.7%から+3.6%へ上方修正した一方で、国内総生産(GDP)成長率見通しを2.4%から2.2%へ引き下げた。また、政策金利予測(ドットチャート)では、18名中9名が2026年末までに1回以上の利上げが必要になると予想し、3月時点の1回利下げ予測から上方修正された。ウォーシュFRB議長は会見で「2%のインフレはFRBの長年の目標で、目標まで見直す理由はない」として、「インフレ2%目標へのコミットメントは強く、全会一致かつ明確」と語った。このほか、「金融政策に関し、5分野の作業部会(タスクフォース)を設置する」として、コミュニケーション、バランスシート、データソース、生産性と雇用、FRBのインフレ枠組みの5分野について検証することを明らかにした。 |
| 24日 | 日銀は15-16日に開催した金融政策決定会合における主な意見を公表。「急激・大幅な利上げを避けるには、政策金利を中立金利に早めに近づけるべき」など、追加利上げに前向きな意見が複数あった。 一方で、内閣府からは「今後の成長型経済への変化が重要であり、マクロの需給動向と物価の関係の慎重な確認が必要である」との意見があり、景気を冷やしかねない利上げへの警戒感をこれまでよりも強く示した。 |
| 25日 | 米5月個人消費支出物価指数(PCEデフレーター)は前年比+4.1%と予想通りに2023年4月以来の高い伸びとなった。食品とエネルギーを除いたコアPCEデフレーターも前年比+3.4%で予想通りに2023年10月以来の伸びだった。また、米1-3月期国内総生産(GDP)・確定値は前期比年率+2.1%に上方修正された(改定値:+1.6%)。 |
| 30日 | 米5月JOLTS求人件数は759.4万件と市場予想(729.6万件)を上回り、前月(758.5万件)とほぼ同水準だった。レイオフ(一時解雇)は170.8万件とやや増加したが、レイオフ率は1.1%で依然として低い水準だった。同時に発表された米6月消費者信頼感指数は91.2と市場予想(94.4)を下回った。調査に対し「職探しが困難」と答えた消費者の割合は19.8%から22.5%に増加し2021年1月以来の高水準となった。 |
各市場 6月の推移

7月の注目イベント(日・米)
| 1日 |
日銀短観
米6月ADP全国雇用者数
ウォーシュFRB議長講演
米6月ISM製造業景況指数
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17日 |
米6月住宅着工件数
米6月鉱工業生産
米7月ミシガン大消費者信頼感指数
|
| 2日 |
米6月雇用統計
|
18日 | |
| 3日 |
米国祝日(振替)
|
19日 | |
| 4日 | 20日 |
日本祝日
|
|
| 5日 | 21日 | ||
| 6日 |
米6月ISM非製造業景況指数
|
22日 |
日本6月貿易収支
|
| 7日 |
日本5月毎月勤労統計
米5月貿易収支
|
23日 | |
| 8日 |
日本5月経常収支/貿易収支
FOMC議事録
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24日 |
日本6月消費者物価指数
米7月PMI製造業/サービス業
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| 9日 |
米6月中古住宅販売件数
|
25日 | |
| 10日 | 26日 | ||
| 11日 | 27日 |
米6月耐久財受注
|
|
| 12日 | 28日 | ||
| 13日 | 29日 |
FOMC(28日~)
ウォーシュFRB議長会見
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|
| 14日 |
米6月消費者物価指数
ウォーシュFRB議長講演
|
30日 |
米6月PCEデフレーター
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| 15日 |
米6月生産者物価指数
|
31日 |
日本7月東京都区部消費者物価指数
日銀金融政策決定会合(30日~)
日銀展望レポート
植田日銀総裁会見
|
| 16日 |
米6月小売売上高
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ドル/円の7月見通し
ドル/円が6月に約40年ぶりの162円台に上伸するきっかけとなったのは、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げスタンスを撤回し利上げに転じる可能性が高まったことであり、一方で日本政府が7月中にも取りまとめる「骨太の方針」で日銀の追加利上げをけん制する見通しとなったことだった。市場の焦点は「中東情勢」から「金融政策」に移ったと見て良いだろう。7月も、後半に予定されている米連邦公開市場委員会(FOMC)と日銀金融政策決定会合に向けてドル高・円安が進みやすい地合いが続きそうだ。FRBの利上げをめぐり、2日の米6月雇用統計や14日に発表される米6月消費者物価指数(CPI)の結果が注目されよう。ウォーシュFRB議長が1日に欧州中銀(ECB)フォーラムで行う講演や、14日に米下院で行う議会証言も注目を集めそうだ。なお、米金利市場ではFRBが10月までに少なくとも1回の利上げを行うシナリオが100%織り込まれている。雇用統計やCPI、FRB議長の発言を受けてこのシナリオが維持されればドル高基調が続くだろう。 日銀の利上げについては、今月中旬にも政府が取りまとめる2026年の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に「強い経済の実現に向け、『適切な金融政策運営』が行われることも非常に重要」と明記される模様だ。素案には「政府は、引き続き、日銀と緊密に連携し、デフレに後戻りすることのない物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、一体となって取り組んでいく」との一文もあると報じられている。政府として、日銀の利上げを縛る姿勢を鮮明にするということだろう。市場は年内の利上げを90%以上織り込んでいるだけに、利上げ期待が後退すれば円安圧力が増すことになりそうだ。 ドル/円は約40年ぶりに162円台に上伸したことで、上値の目途が見当たらない「青天井」ともいえるチャートフェースとなっている。日本政府・日銀による円買い介入が入るリスクはあるが、ファンダメンタルズとテクニカルがいずれも一段高を示唆していることから、介入によってトレンドを変えることはできないだろう。
外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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