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【ドル円見通し総まとめ】FRB利上げ観測で止まらない円安、今後の行方を2人のプロが徹底分析

※登壇者の発言は収録時点の情報に基づいた見解となります。

外為どっとコムでは、経済・金融の第一線で活躍されている有識者をお招きし、今後のマーケット展望についてお話を伺っています。今回は、名古屋商科大学大学院教授・大槻奈那氏(2026年6月12日公開)と元日銀審議委員・安達誠司氏(2026年6月16日公開)の最新見解をもとに、2026年後半のドル円相場・日銀の金融政策・財政リスクを整理します。

●この記事のサマリー

2人のプロに共通するのは「円安が続きやすい環境」という見立てです。ただし、その根拠は異なります。

・大槻氏は日米金利差投機筋の円売り円の信認低下の3点から円安継続を分析。AIバブル崩壊とプライベートクレジット市場の悪化を2026年後半の最大リスクと見ています
・安達氏は円安の主因を「日本の財政への不信」と分析。ターミナルレートを1.25%と見定め、フィスカル・ドミナンスへの警戒感も示しています

大槻奈那氏の見解|円安の3要因とAIバブル・プライベートクレジットリスク

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日銀が利上げしても円高にならない理由

2026年前半、市場の大方の予想に反して円高は実現しませんでした。大槻氏はその背景を「金利差だけでは説明できない」と指摘します。日銀が利上げを続ける一方、米国でもインフレ再燃による追加利上げ観測が浮上しており、日米金利差は思ったほど縮小していません。加えて先物市場では投機筋の円売りポジションが高水準に積み上がっており、利上げだけでは円高への転換は容易ではないというのが大槻氏の分析です。

円安が続く3つの要因

①日米金利差:日銀の利上げペースが緩やかである限り、米国との金利差は依然として大きいままです。

②投機筋の円売り:先物市場では投機筋による円売りポジションが積み上がっており、円安バイアスが持続しています。

③円の信認低下:日本の財政状況への不安や低い潜在成長率が、中長期的な円安圧力として作用し始めている可能性があります。

日本株のAI相場と過熱への警戒

情報通信セクターの比率が高い市場ほど株価上昇率が高い傾向があり、日本株・韓国株の上昇もAI・半導体関連への期待が主因です。ただし大槻氏は「市場が一部テーマに集中し過ぎている」と警戒感も示しています。複数の計量モデルが過熱シグナルを発しており、今後2〜3カ月以内に5〜10%程度の急落が起こり得るとも指摘しています。

日本の長期金利は3%時代へ

大槻氏は日本の長期金利が3%近辺まで上昇する可能性を指摘します。インフレ率の上昇と財政悪化への懸念が背景にあり、超低金利時代の終焉が近づいているとみています。6月の日銀会合の焦点は利上げ自体ではなく、植田総裁がターミナルレートについてどこまで言及するかです。ハト派的な発言があれば、円安圧力が再び強まるリスクがあります。

2026年後半の最大リスク:プライベートクレジット市場の緩やかな悪化

大槻氏が最も警戒するのがプライベートクレジット市場の問題です。AI関連企業やスタートアップが依存するこの市場は、金利上昇が続けば返済負担が増し、信用リスクが高まります。リーマンショックのような急激な危機ではなく、「じわじわ悪化する」形でマーケットに影響を与える可能性があると指摘しています。

個人投資家に必要なのは「機動性」

大槻氏は最後に、2026年前半は多くの専門家が予想を外したと指摘し、「予想して賭けること」より「何か起きた時に素早く対応する機動性」こそが重要だと語っています。

 

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安達誠司氏の見解|財政不信が円安の主因、ターミナルレートは1.25%

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日銀政策決定会合の内側

安達氏は、委員間で事前に意見をすり合わせる場こそないものの、勉強会や研究会を通じて自然と考え方が共有されていくと説明します。植田総裁はコンセンサス重視型で、黒田前総裁時代の「反対意見が言いにくい雰囲気」とは明確に異なると語っています。

デフレ脱却は「8割完了」、残る課題は成長率

安達氏はデフレ脱却について「おおむね8割完了」という見立てを示します。春闘の賃上げは続いているが、サービス価格への波及がまだ不十分だといいます。より深刻な問題は潜在成長率の低下で、「デフレが終われば成長率も上がると期待したが、むしろ下がっている」と語ります。人口減少と労働力不足が構造的制約となっており、省力化投資やAI・ロボット活用とともに働き方改革の制度整備が必要と指摘しています。

ターミナルレートは1.25%

利上げ判断の最優先事項について安達氏は「景気を冷やさず、再びデフレにしないこと」と語ります。急いで利上げすれば急激な引き締めになり、景気後退に陥るリスクが高まります。「2%到達前から、景気を冷やさない程度にゆっくり上げていく」というアプローチが基本方針であり、ターミナルレートは現在の0.75〜1%からもう一段の1.25%が目安だといいます。

国債買い入れ縮小と付利の論点

日銀は現在、国債発行残高の5割弱を保有しており、安達氏は「随分買いすぎた」と率直に語ります。ただし急激な縮小は長期金利の急騰を招くため、「淡々とゆっくり減らす」方針が正しいと評価します。日銀当座預金への付利(利払い)への批判には「付利なしで国債残高を維持したまま利上げすることは構造上できない。急激に国債を売れば長期金利が急騰し景気が壊れる」と反論しています。現在は財政悪化への懸念から長期金利がすでに上昇しており、「国債購入を減らしても増やしても金利が上がる」難局に置かれていると指摘します。

フィスカル・ドミナンスは「現時点では起きていない」

財政が金融政策の自由度を奪う「フィスカル・ドミナンス」については「現時点では起きていない」と分析する一方、「利上げしてほしくないというニュアンスは感じられる」とも述べ、本格的な財政拡張が始まった際の影響は「極めて不透明」と警戒感を示しています。

高市政権の経済政策:「デフレでない時期にデフレ対策をしている」

安達氏は高市政権の経済政策を厳しく評価します。物価高対策への財政支出が財政不安を先取りして長期金利を押し上げており、雇用不足が深刻な今の日本に資金を大量投入しても労働力の制約から効果は限定的だと分析しています。成長投資の在り方としては「分野を特定せず、研究開発へ広く薄く資金を配分」し、優先順位をつける必要があると提言しています。

なぜ円安は止まらないのか――主因は財政不信

安達氏は現在の円安の主因を「日本の財政悪化への懸念」と明確に指摘します。政府・日銀による為替介入の効果は「投機的な動きへの一時的な牽制に過ぎない」と評価し、米国債売却を伴う介入はアメリカが難色を示す可能性があるとも示唆しています。円安を止める根本的な策は財政政策の明確化であり、「物価高対策と成長投資を切り分け、財政規律を言葉でなく行動で示すことが必要」と提言しています。

今後のドル円見通し――方向感を決めつけないことが重要

安達氏はドル円の具体的な水準予測には慎重な姿勢を示しつつ、「円高になりにくい環境が続いている」と語ります。もし円高に転じるとすれば、米国株が崩れるタイミングだといいます。「160〜163円台から一気に150円前半に戻る可能性も十分あり得る。方向感を決めつけない方が冷静に状況を分析できる」と述べ、急変リスクにも言及しています。財政不安が解消されない限り、ドル円の上値圧力は続くという見立てです。

投資家が日銀を読むための実践的な視点

安達氏は個人投資家に向け、総裁会見の「切り取り報道」に注意するよう促します。1時間半の記者会見はできれば自分で確認すること、そして政策委員の意見のばらつきが分かる「主な意見」の公表資料を読むことで、審議の温度感をある程度把握できるとアドバイスしています。

 

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2人の見解を比較する

ドル円見通し
大槻奈那氏:円安基調継続。急変リスクへの機動的対応が必要
安達誠司氏:円高になりにくい環境が継続。方向感を決めつけず

円安の主因
大槻奈那氏:日米金利差・投機筋の円売り・円の信認低下
安達誠司氏:日本の財政への不安

日銀の政策
大槻奈那氏:ターミナルレートへの言及がカギ。ハト派発言なら円安再加速
安達誠司氏:ターミナルレートは1.25%。「景気を冷やさずゆっくり上げる」が基本

主要リスク
大槻奈那氏:プライベートクレジット市場の緩やかな悪化、AIバブル崩壊リスク
安達誠司氏:フィスカル・ドミナンス、高市政権の財政拡張

投資家へのメッセージ
大槻奈那氏:予想より「機動性」が重要
安達誠司氏:切り取り報道に惑わされず、一次情報に当たる

まとめ

2人の見解に共通するのは、「一方向への断定は危険」という認識です。大槻氏は円に対する信認の回復を、安達氏は財政不安の解消なくして円安の解決は難しいと説きます。

2026年後半は、金融政策・財政政策・地政学リスクが複合的に絡み合う局面です。短期的な値動きを追うだけでなく、金利・為替・政策動向を総合的に読み解く視点がこれまで以上に重要となります。外為どっとコム マネ育チャンネルでは、引き続き経済の第一線で活躍する有識者の最新見解をお届けします。ぜひ動画・記事もあわせてご確認ください。

 

otuki.jpg 大槻 奈那(おおつき・なな)
名古屋商科大学大学院教授、ピクテ・ジャパン株式会社シニア・フェロー
東京大学卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学ICS博士(経営学)。日系金融機関、スタンダード&プアーズ、UBS、メリルリンチ、マネックス証券などでリサーチ業務に従事、各種メディアのアナリスト・ランキングで高い評価を得てきた。国内外の金融市場や個人投資家の行動等を分析研究。2016年9月より名古屋商科大学、2022年よりピクテ・ジャパン。一橋大学学外理事、国債投資家懇談会座長、財政制度審議会委員、東京大学応用資本市場研究センターフェロー等にも従事。
安達誠司(あだち・せいじ)
東京大学経済学部卒業。一橋大学大学院修士課程修了。 大和総研、富士投信投資顧問、クレディ・スイスファーストボストン証券会社、ドイツ証券等を経て、2020年日銀政策委員会審議委員に就任。2025年3月任期満了により退任。 著書に『昭和恐慌の研究』(共著、東洋経済新報社、2004年日経・経済図書文化賞受賞)、『脱デフレの歴史分析―「政策レジーム」転換でたどる近代日本』(藤原書店、2006年河上肇賞受賞)、『恐慌脱出―危機克服は歴史に学べ』(東洋経済新報社、09年政策分析ネットワーク賞受賞)ほか多数。
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