
※登壇者の発言は収録時点の情報に基づいた見解となります。
外為どっとコムでは、経済・金融の第一線で活躍されている有識者をお招きし、今後のマーケット展望についてお話を伺っています。
今回は、エコノミスト・エミン・ユルマズ氏(2026年6月5日公開)と名古屋商科大学大学院教授・大槻奈那氏(2026年6月12日公開)、それぞれの最新見解を比較しながら、2026年後半のドル円相場・日本株の行方・AIバブル崩壊リスクについて整理します。
●この記事のサマリー
2人のプロに共通する見立ては「円安継続」。ただし、そのリスクシナリオと注目するポイントが異なります。
・エミン氏は長期金利上昇の背景にあるインフレ再燃リスクと国際収支の構造から円安継続と分析。162〜163円台では為替介入を警戒
・大槻氏は日米金利差・投機筋の円売り・円の信認低下の3点から円安継続と分析しつつ、AIバブル崩壊・プライベートクレジット市場の悪化を2026年後半の最大リスクとして警戒
・両者ともに円安・インフレが継続する可能性が高いと分析し、投資の重要性を訴えている
エミン・ユルマズ氏の見解|介入警戒と2026年後半のリスク
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長期金利上昇が示すもの
エミン氏が注目するのは、世界的な長期金利の上昇です。日本の30年債利回りは歴史的な高水準へ、米国の30年債利回りも5%を超える場面がありました。
市場が長期金利を通じて織り込んでいるのはインフレ再燃リスク。背景には中東情勢の悪化があり、原油・天然ガスだけでなくナフサや肥料原料など幅広い資源価格が上昇しています。こうした供給ショックによる物価上昇圧力を、市場は長期金利の上昇という形で先回りしています。
日銀のジレンマ:利上げすれば景気を冷やすリスクあり
エミン氏は現在のインフレをコストプッシュ型と分析します。日銀が利上げを進めれば景気を冷ますリスクがあり、物価上昇と景気悪化が同時進行するスタグフレーションに陥る可能性があります。金融政策の運営は極めて難しい局面です。
ドル円の見通しと介入ライン
エミン氏も円安基調の継続を見込みますが、160円台後半では政府・日銀による為替介入への警戒が必要だと指摘します。
162〜163円台へ上昇した場合、介入警戒感から相場が急変動するリスクがあります。円安トレンドを前提としながらも、一方向への過度なポジション形成には注意が必要な局面とみています。
円安の構造的背景
エミン氏が着目する円安の構造的要因が日本の貿易構造です。日本は経常収支黒字国である一方、エネルギー輸入依存度が高く貿易収支が赤字に転落しやすい。東日本大震災以降は原発停止に伴うエネルギー輸入増加が続いており、円安圧力の一因となっています。
構造的な円安の改善には、高付加価値産業の育成やエネルギー政策の見直しなど中長期的な取り組みが必要で、短期的には160円台の円安が続くと分析しています。
日本株:AI・半導体関連への集中には過熱感も
日本株については、AI向け半導体需要を背景にキオクシアや東京エレクトロンなどへの資金集中が続いているとエミン氏は見ています。ただし上昇スピードは速く、バブル的な要素も否定できないと警戒感も示しています。
一方で防衛関連・鉄鋼・精密機器など基盤産業にも資金流入が続いており、コーポレートガバナンス改革を背景に海外投資家からの評価は依然高い状況です。
2026年後半の最大リスク
エミン氏が挙げる2大リスクは次の2点です。
①イラン情勢:エネルギーの供給制約が長期化すれば、原油価格の高騰を通じて世界経済に大きな影響を与えます。
②米国の中間選挙:AIによる雇用不安が政治テーマとして浮上しており、AI規制強化・課税強化の議論が進む可能性があります。AI関連産業への逆風が強まれば、現在のAIストーリーによる株高が逆回転するリスクがあります。
また、AI関連スタートアップ等が利用するプライベートクレジットにも注意が必要です。金利上昇が続けば返済負担が増加し、AIの収益性への疑念が広がると大きな調整局面を迎える可能性があります。
大槻奈那氏の見解|円安の3要因とAIバブル・金利上昇リスク
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日銀が利上げしても円高にならない理由
大槻氏は、2026年前半に多くの市場関係者が予想していた「円高」が実現しなかった背景を、金利差だけでは説明できないと指摘します。
日銀が利上げを続ける一方で、米国でもインフレ再燃による追加利上げ観測が浮上しており、日米金利差は思ったほど縮小していません。さらに先物市場では投機筋の円売りポジションが高水準で積み上がっており、利上げだけでは円高トレンドへの転換は容易ではないというのが大槻氏の分析です。
円安が続く3つの要因
大槻氏は円安継続の背景として3点を挙げます。
①日米金利差:日銀の利上げペースが緩やかである限り、米国との金利差は依然大きいままです。
②投機筋の円売り:先物市場では投機筋による円売りポジションが積み上がっており、相場の円安方向への偏りが続いています。
③円の信認低下:日本の財政状況や低い潜在成長率への不安が、中長期的な円安圧力として作用し始めている可能性があります。
日本株のAI相場と過熱への警戒
大槻氏によると、情報通信セクターの比率が高い市場ほど株価上昇率が高い傾向があり、日本株・韓国株の上昇もAI・半導体関連への期待が主因です。ただし市場が一部テーマに集中し過ぎていると警戒感も示しており、複数の市場モデルが過熱シグナルを発しているとしています。
場合によっては今後2〜3カ月以内に5〜10%程度の急落が起こり得るとも指摘します。
日本の長期金利は3%時代へ
大槻氏は、日本の長期金利が3%近辺まで上昇する可能性を指摘します。背景にはインフレ率の上昇と財政悪化への懸念があり、超低金利時代の終焉が近づいているとみています。
また6月日銀会合の焦点は利上げそのものではなく、植田総裁が示すターミナルレートへの言及だと分析します。発言がハト派的であれば円安圧力が再び強まるリスクがあります。
2026年後半の最大リスク
大槻氏が最も警戒するのがプライベートクレジット市場の緩やかな悪化です。AI関連企業やスタートアップが依存するプライベートクレジットは、金利上昇が続けば返済負担が増加し、信用リスクが高まります。リーマンショックのような急激な危機ではなく、「じわじわ悪化する」形でマーケットに影響を与える可能性があると指摘します。
また、AIの収益性に対する疑念が広がれば大きな調整局面を迎えるリスクもあります。
2人の見解を比較する
ドル円見通し
エミン・ユルマズ氏:円安トレンド継続も160円台後半は介入警戒
大槻奈那氏:円安基調継続も、急変リスクには機動的な対応が必要
日銀の利上げ
エミン・ユルマズ氏:ジレンマに陥っている
大槻奈那氏:ターミナルレートへの言及が焦点。ハト派発言なら円安再加速
日本株
エミン・ユルマズ氏:強いが、AI関連への集中に過熱感も
大槻奈那氏:強いが、AI関連への集中に過熱感。2〜3カ月以内に5〜10%急落の可能性
主要リスク
エミン・ユルマズ氏:中東情勢、米中間選挙、AIバブル崩壊
大槻奈那氏:プライベートクレジットの緩やかな悪化、AIバブル崩壊
まとめ|個人投資家へのメッセージ
2人の見解には相違点もありますが、共通するメッセージは明確です。
円安は一時的な現象ではなく、構造的な動きとして捉えるべきだということ。そしてデフレ時代の感覚で現金を持ち続けることは、インフレ時代にはリスクになり得るということです。
2026年後半は、円安・インフレ・AI相場・地政学リスクという複数のテーマが交錯します。短期的な値動きを追うだけでなく、金利や為替、政治動向など総合的に捉える視点がこれまで以上に重要となるでしょう。
外為どっとコム マネ育チャンネルでは、引き続き経済の第一線で活躍されている有識者をお招きし、最新のドル円相場見通しをお届けしていきます。ぜひ動画・記事もあわせてご覧ください。
エミン・ユルマズ氏エコノミスト、グローバルストラテジスト
トルコ・イスタンブール出身。1996年に国際生物学オリンピック優勝。
97年に日本に留学し東京大学理科一類合格、工学部卒業。同大学大学院にて生命工学修士取得。
2006年野村證券に入社し、M&Aアドバイザリー業務に関わる。
2024年にレディーバードキャピタルを設立し、代表を務める。
現在各種メディアに出演しているほか、全国のセミナーに登壇。文筆活動、SNSでの情報発信も積極的に行っている。
名古屋商科大学大学院教授、ピクテ・ジャパン株式会社シニア・フェロー
東京大学卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学ICS博士(経営学)。日系金融機関、スタンダード&プアーズ、UBS、メリルリンチ、マネックス証券などでリサーチ業務に従事、各種メディアのアナリスト・ランキングで高い評価を得てきた。国内外の金融市場や個人投資家の行動等を分析研究。2016年9月より名古屋商科大学、2022年よりピクテ・ジャパン。一橋大学学外理事、国債投資家懇談会座長、財政制度審議会委員、東京大学応用資本市場研究センターフェロー等にも従事。
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