
サマリー
●ユーロ圏のインフレは4月に+3.0%と約2年半ぶりの高水準となっている。主因は中東情勢悪化によるエネルギー価格の急騰。
●ECBは6月会合で2023年9月以来初の利上げに踏み切ると予想。その後も中東情勢・物価動向次第で追加利上げの可能性。
ユーロ圏2026年入り後に景気は減速、個人消費にも頭打ち感
2026年入り後のユーロ圏景気はやや減速している。

ユーロ圏の2026年1〜3月期の実質GDP成長率は前期比+0.1%とプラス成長を維持したものの、2025年10〜12月期の+0.2%から減速し、低めの伸びとなった。米国向けを中心とした輸出の減少が続くなか、これまで景気のけん引役であった個人消費の回復ペースが鈍化したことが押し下げ要因となったとみられる。

ユーロ圏の域外向け輸出は、関税措置を受けた米国向け輸出の減少によって低迷している。3月の米国向け名目輸出は前年同月比▲38.8%と、6か月連続で大幅なマイナスとなった。中国など他の主要な貿易相手国向けも振るわず、名目輸出全体でも▲5.5%と3か月連続で前年同月を下回った。
こうした輸出の停滞が生産活動の重石となっている。ユーロ圏の3月の鉱工業生産は前年同月比▲2.7%と前月(▲0.9%)からマイナス幅を拡大し、3か月連続で前年同月を下回った。資本財が+2.2%と好調を維持した一方、非耐久消費財が▲12.5%と大幅なマイナスとなった。

これまでユーロ圏景気を支えてきた個人消費にも、頭打ち感がみられる。3月の実質小売売上高は前年同月比+1.2%と21か月連続で前年同月を上回ったものの、前月(+1.3%)から伸びが鈍化した。
雇用環境はなお良好で、3月の失業率は6.2%と統計開始以来の最低水準で推移している。しかし、2月まで2%前後で推移していた消費者物価(HICP)上昇率は、3月に中東情勢の悪化の影響で+2.6%まで急騰。名目賃金上昇率はコロナ禍以前程度の水準まで鈍化してきており、実質所得環境は急速に悪化しつつある。
先行きは、米国の関税政策の影響が一巡することで輸出や生産が徐々に持ち直すと見込まれる一方、インフレ再燃が消費の重石となり、景気は弱含む見通しだ。
インフレ率は約2年半ぶりの高水準、エネルギー価格の高騰が主因

4月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)上昇率は前年同月比+3.0%と、3月(+2.6%)から一段と加速し、2023年9月以来、約2年半ぶりに3%台まで上昇した。
内訳を見ると、エネルギーや変動の大きい品目(食品・アルコール・たばこ)を除いたコアHICPは+2.2%と、前月(+2.3%)から小幅に伸びが鈍化した。一方、原油価格や天然ガス価格の高騰の影響から、エネルギー価格が+10.8%と大幅に上昇したことが全体を押し上げた。今後は原油価格の高騰の影響がエネルギー以外の財やサービスへと波及することで、インフレ率は当面の間高止まりする公算が大きい。

中東情勢の悪化を受け、消費者マインドも足元で急速に悪化している。4月のユーロ圏の消費者信頼感指数は▲20.6と、大きく低下した前月(▲16.4)に続き▲4.2ポイントの大幅な悪化となった。「経済状況」や「家計状況」の先行きに対する見方が大きく悪化したことが主因となっており、実際の物価上昇による実質所得の減少以上に消費が押し下げられる懸念がある。
ECB:6月利上げに踏み切る可能性

欧州中央銀行(ECB)は4月30日の理事会で、政策金利である預金ファシリティ金利を2.00%で据え置くことを決定した。2025年7月以降、7会合連続で金利を据え置いた。
声明文では「インフレ上振れと成長下振れのリスクが強まった」とし、3月の見通しで示した基本シナリオから現状が乖離しつつあることを認めた。ECBのラガルド総裁は会合後の記者会見で、次回の6月会合が状況を評価しなおす「適切な時期」になると述べ、6月にも利上げに踏み切る可能性を示唆した。
ECBは次回の6月会合で利上げに踏み切ると予想する。6月会合までにそろう物価動向のデータを踏まえた新たな経済見通しを確認したうえで、インフレ率の上振れが長期化することへの予防的な利上げを行うと見込んでいる。その後は、中東情勢や物価動向次第で1〜2回程度の追加利上げを実施した後に利上げを停止し、物価の上振れが収束する2027年後半には再び中立金利とみられる2%前後に向けて利下げを開始すると予想している。
●伊藤忠総研・高野蒼太氏のレポートはこちら👇
伊藤忠総研・副主任研究員
2018年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。2019年株式会社日本総合研究所に入社し、欧米マクロ経済調査・分析に従事。20年一般社団法人経済社会システム総合研究所客員研究員(兼任)。2023年英国London School of Economics and Political Science (LSE)経済学修士課程修了。同年三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社し、日中欧マクロ経済調査・分析に従事。2024年より現職。
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