
ドル/円の6月見通し 「予想変動率低下、イランも介入も決め手にならないとの見方」
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト 神田卓也
ドル/円 の基調と予想レンジ
基調
もみ合い
予想レンジ
157.000~161.500円
ドル/円5月の推移
5月のドル/円相場は155.033~159.648円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約1.7%上昇した(ドル高・円安)。日本政府・日銀が4月30日から5月6日にかけて行ったと見られる11.7兆円規模の円買い介入によって155.03円前後まで下落したものの、その後はじりじりと値を戻す展開となった。米国とイランは4月に期限を設けず停戦で合意したはずだったが、停戦中にもかかわらず双方が攻撃を行うなど戦争終結に向けた機運が高まらなかったことから原油価格が高止まりした。そうした中、米連邦準備制度理事会(FRB)が年内に利上げに転じるとの観測が浮上。これを受けてドルが強含んだ。他方、戦争終結に向けた両国の協議自体は継続されており、戦闘激化への懸念は後退。これを好感して世界的に株式市場が活況となったことから、円は「リスクオン」の売りに押された。ドル/円は14日に158円台、18日に159円台を回復。その後もほとんど押し目を形成しないまま緩やかに上値を伸ばし、28日には159.65円前後まで上昇した。結果的に、円買い介入の効果は1カ月で9割方が失われたことになる。ただ、1ドル160円の水準については、「政府・日銀の防衛ライン」とする見方や「ベッセント・シーリング」であるとの見方も根強かった。このため、160円の手前でドル買い・円売りは一服。159.26円前後で5月の取引を終えた。
ドル/円 日足チャート

ドル/円5月の四本値
始値 156.535 高値 159.648 安値 155.033 終値 159.259
5月振り返り
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 1日 |
米4月ISM製造業景況指数は52.7と市場予想(53.2)を下回ったが、業容の拡大と縮小の分岐点である50.0を4カ月連続で上回った。構成指数では「仕入価格指数」が4年ぶりの水準に上昇。ホルムズ海峡の封鎖に伴う輸送の混乱で仕入れコストが上昇したことが浮き彫りとなった。 |
| 5日 | 米3月貿易収支は603億ドルの赤字となり、赤字額は市場予想(610億ドル)を下回った。中東紛争を背景に原油の出荷が増加したこともあって輸出総額は過去最高を記録。一方、AI関連の支出拡大に伴い資本財の輸入も増加したため貿易赤字は前月比4.4%拡大した。そのほか、米4月ISM非製造業景況指数は53.6(予想53.7、前月54.0)、米3月JOLTS求人件数は686.6万件(予想685.0万件、前月692.2万件)だった。 |
| 8日 | 米4月雇用統計は非農業部門雇用者数が11.5万人増と市場予想(6.5万人増)を上回る伸びとなり、失業率は4.3%で予想通りに前月から横ばいとなった。一方、平均時給は前年比+3.6%で、市場予想(+3.8%)を下回る伸びにとどまった。 |
| 11日 | イランが戦争終結に向けた米国の和平提案に対する回答を10日に送付したことが伝わった。イラン国営テレビによると、 戦争被害に対する賠償の要求や、ホルムズ海峡に対するイランの主権の強調が含まれているとのこと。トランプ米大統領はSNSに「全く受け入れ難い」と投稿した。 |
| 12日 | ベッセント米財務長官との会談を終えた片山財務相は、為替について今後も昨年9月の日米財務相共同声明に沿って「しっかりと連携していくことを確認し、全面的にご理解を得た」と語った。その後、ベッセント長官は「米国と日本の強固な経済パートナーシップを再確認できたことを嬉しく思う」とした上で、「為替市場における望ましくない過度な変動への対応について、両国チーム間の意思疎通と連携は引き続き緊密かつ強固だ」とSNSで表明した。その後、米4月消費者物価指数(CPI)は前年比+3.8%と市場予想(+3.7%)を上回った。食品とエネルギーを除いたコアCPIも+2.8%と市場予想(+2.7%)を上回り、半年ぶりの高い伸びを記録。中東紛争による物価への影響が広範囲に及びつつあることが示された。 |
| 14日 | 日銀の増審議委員は鹿児島で講演を行い「景気下振れの兆しがはっきりとした数字で表れないのであれば、できる限り早い段階での利上げが望ましい」などと述べた。「物価変動を考慮した実質金利がマイナスという状況は早く解消すべきだ」との見解も示した。 |
| 19日 | ベッセント米財務長官はパリで開催中のG7会合において日銀の植田総裁と会談したことを明らかにした上で「総裁が日本の金融政策を成功裏に導くと確信しており、日本経済の基礎は強固で過度な為替変動は望ましくないと信じている」とSNSに投稿。その後、片山財務相は「日本の為替政策の姿勢、理解されたと考えている」とした上で「為替に対して断固たる行動を取る準備ができている」と語った。 |
| 20日 | 米連邦準備制度理事会(FRB)は4月28-29日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を公表。「インフレ率の高止まりと、中東紛争の期間および経済的影響に関する不確実性から、現在の政策スタンスを当初の予想よりも長く維持する必要が生じる可能性がある」と強調した。その上で、「大多数の参加者はインフレ率が2%を継続的に上回る場合は、政策の引き締めが必要になる可能性があると指摘した」と書き示した。また、多くの参加者がこの可能性に対処するため、「今後の金利決定の方向性に関して、緩和的な傾向を示唆する声明文の文言を削除する方が望ましいと述べた」ことも明らかにした。 |
| 21日 | 日銀の小枝審議委員は福岡で講演を行い、基調的なインフレ率は既に(目標の)2%ぐらいになってきているとした上で「経済・物価・金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが必要だ」と述べて、追加利上げに前向きな姿勢を示した。また、午後の会見では、中東情勢の緊迫化が長引く蓋然性が高まっているとした上で、足元では「物価の上昇リスクの方が、景気後退リスクよりも大きくなっている」との認識を示した。 |
| 22日 | ウォーシュFRB新議長はホワイトハウスで就任宣誓式に臨み、自らの指揮の下で「改革志向」の政策運営を進めると表明。「使命を果たすため、過去の成功と失敗から学び、硬直化した枠組みやモデルから脱却し、誠実性と業績に関する明確な基準を堅持する」と宣誓した。「FRBの使命は物価安定と最大雇用の達成にある」とした上で「これらの目標を賢明かつ明確に、独立性と決意をもって追求すれば、インフレは抑制され、成長は強まり、実質的な手取り所得は増加し、米国は一段と繁栄する。さらに重要なことに、国際社会での米国の地位が一段と強固になる」と述べた。 |
| 27日 | イラン国営テレビは「米国とイランの暫定和平合意に関する非公式の草案」を入手したと報道。草案には「米軍はイラン周辺から撤退して海上封鎖を解除」「その見返りとしてイランはホルムズ海峡を通過する商船の数を1カ月以内に戦闘前の水準に戻すことを約束している」「イランとオマーンがホルムズ海峡を巡る仕組みを設ける」との内容が盛り込まれていると報じた。 その後、米ホワイトハウスは、この報道について「全くのでっちあげ」と否定した。 |
| 28日 | 米ニュースサイトのアクシオスは「米国とイランは停戦を60日間延長し、イランの核開発をめぐり協議する覚書で合意した」と報道。ただ、トランプ大統領の最終承認が必要で、トランプ氏は「最終合意について数日間の検討期間を求めた」とした。しかし、イラン側は準国営メディアのタスニム通信が「覚書が最終化されたとの西側の報道は事実ではない」と合意を否定した。 |
| 29日 | 日本財務省は4月28日から5月27日の為替介入の総額が11兆7349億円だったと発表。4月30日を皮切りに、5月前半にかけて断続的に円買い介入を実施したと見られる。1カ月間の介入規模としては2024年4-5月の9兆7885億円の円買い介入を上回り、過去最大となった。その後、トランプ米大統領はイランとの暫定合意について「最終判断を下すために作戦指令室で会合を開く」と表明したが、結論に至らなかった模様。 |
6月の注目イベント(日・米)
| 1日 |
米5月ISM製造業景況指数
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16日 |
日銀金融政策委員会(15日~)
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| 2日 |
米4月JOLTS求人件数
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17日 |
日本5月貿易収支
米5月小売売上高
FOMC(16日~)
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| 3日 |
植田日銀総裁、講演
米5月ADP全国雇用者数
米5月ISM非製造業景況指数
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18日 | |
| 4日 | 19日 |
米国休場
日本5月消費者物価指数
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| 5日 |
米5月雇用統計
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20日 | |
| 6日 | 21日 | ||
| 7日 | 22日 | ||
| 8日 |
日本1-3月期GDP・二次速報
日本4月経常収支/貿易収支
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23日 |
米6月製造業/サービス業PMI
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| 9日 |
米4月貿易収支
米5月中古住宅販売件数
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24日 | |
| 10日 |
米5月消費者物価指数
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25日 |
米5月PCEデフレーター
米5月耐久財受注
米1-3月期GDP・確定値
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| 11日 |
米5月生産者物価指数
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26日 |
日本6月東京都区部消費者物価指数
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| 12日 |
米6月ミシガン大消費者信頼感指数
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27日 | |
| 13日 | 28日 | ||
| 14日 | 29日 | ||
| 15日 |
米5月鉱工業生産
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30日 |
米6月消費者信頼感指数
米5月JOLTS求人件数
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各市場 5月の推移

ドル/円の6月見通し
ベッセント米財務長官は、円安が日本国債の下落(金利上昇)を引き起こし、米国債売りに波及することを懸念しており、1ドル160円を超える円安を許容しないとの見方から、この水準を「ベッセント・シーリング(天井)」と呼ぶ声もある。また、2024年以降の一連の円買い介入がこの水準近くで複数回実施されたことから、160円は日本政府の「防衛ライン」であるとの見方も根強い。5月の上昇が159.65円前後までにとどまったことからも、市場が160円の水準を強く意識していることがわかる。また、為替オプション市場ではドル/円の1カ月物予想変動率(インプライドボラティリティ)が少なくとも過去1年で最低の6%前後まで低下している(5月29日時点)。これは市場が、ドル/円は6月も158~159円台を中心にもみ合う展開が続くと見ていることを示唆していよう。あるいは、仮に160円を突破しても、それだけでは上昇の勢いが増す展開にはならないと予想しているのだろう。いずれにせよ市場は、イラン情勢はもとより、6月中旬に予定されている日米金融政策イベントも、ドル/円相場の決め手になりにくいと見ている可能性が高そうだ。もし、そうした見方に反してドル/円が6月に大きく変動するとしたら、市場にとって予想外の「サプライズ」が必要なのではないだろうか。「サプライズ」の要素を孕む可能性が小さくないのはやはり15-16日の日銀金融政策決定会合だろう。例えば、日銀が金利市場の織り込み(8割弱)を無視する形で利上げを見送るケースや、利上げを決めても長期金利の上昇を踏まえて国債買い入れの減額(量的引き締め)を停止もしくは停止を示唆するケースが考えられる。6月のドル/円相場はもみ合い継続が基本的な予想だが、リスクは引き続き上方向(円安方向)に傾いていると見ている。
外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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