
電気自動車(EV)市場を牽引してきたテスラ(Tesla)ですが、現在は市場成熟化や競争激化により、かつての急成長から「踊り場」の局面を迎えています。2025年(FY25)の通期決算では売上高が微減となり、利益面でも厳しい数字が並びました。そこで最新の四半期ベースの決算内容を紐解きながら、2026年(FY26)の第1四半期(1Q)に向けた同社の課題と反転の兆しについて、初めて財務諸表を見る方にも分かりやすく解説します。
(1)テスラ(Tesla)の最新業績と2026年(FY26)1Qの予想
テスラ(Tesla)の直近の業績は、一時期の爆発的な成長から、収益性の維持に苦心するフェーズへと変化しています。2025年(FY25)3Qには一時的に営業利益率が12.20%まで回復したものの、2025年(FY25)4Qには、営業利益がマイナス397百万ドルと赤字に転落しました。これは販売価格の調整や次世代モデルへの投資、AI・自動運転技術への研究開発費がかさんだ結果です。市場のコンセンサス予想では、2026年(FY26)1Qは季節要因も含め、緩やかな回復を見込む声が多いのですが、不透明な状況が続いています。


2026年(FY26)1Qの予想では、前年同期(FY25 1Q)が非常に低調だったことによる反動もあり、成長率で見ればプラスに転じると予測されています。
・「未来の技術革新」が株価を支える
もはや投資家は「自動車の販売台数」だけを見ているわけではありません。完全自動運転(FSD)の進捗、エネルギー貯蔵事業の拡大、そして人型ロボット「Optimus」への期待がテスラ(Tesla)の株価を支えています。PERが400倍を超えている現状は、現在の利益ではなく「未来の技術革新」に対する期待値の表れと言えます。
・製造コスト削減とソフトウェア収益増が課題
その一方で、足元のEV販売競争は非常に激しくなっています。中国メーカーの台頭による価格競争は、テスラ(Tesla)の代名詞だった高い利益率を侵食しています。2025年(FY25)4Qの営業赤字は、同社にとって大きな警鐘です。単なる値下げによる台数確保ではなく、製造コストの大幅な削減と、利益率の高いソフトウェア収入の増加を両立させられるかが、2026年(FY26)1Qの最大の焦点です。


(2)売上高の動向
テスラ(Tesla)通期の売上高推移を見ると、2021年(FY21)から2023年(FY23)までは驚異的な勢いで増加してきましたが、2024年(FY24)で成長が鈍化し、2025年(FY25)には、対前年比でマイナス2.9%となる94,827百万ドルと減少に転じました。

四半期ベースで見ると、2025年(FY25)の4四半期の合計売上高は94,827百万ドルとなり、前年(FY24)の97,690百万ドルに対する進捗率は97.1%に留まっています。これは、市場全体でのEV需要の減速が如実に表れた結果です。2026年(FY26)1Qの予想では、前年の落ち込みからの反発を狙っていますが、本格的な右肩上がりに戻るには新たな販売戦略が必要とされます。

(3)営業利益の動向
営業利益は2022年(FY22)の13,692百万ドルをピークに、3年連続で減少しています。特に営業利益率は2022年(FY22)の16.8%から2025年(FY25)には4.60%まで低下しました。2025年(FY25)の四半期合計の営業利益は4,355百万ドルで、前年(FY24)の7,076百万ドルに対する進捗率は61.5%と大幅に沈んでいます。販売促進のための値下げが利益を圧迫している状況です。

2025年(FY25)4Qは一時的にマイナス397百万ドルという赤字を記録しました。2026年(FY26)1Qで、再び黒字化させて、利益率を4%台以上まで回復させられるかが焦点となります。

(4)当期純利益の動向
当期純利益も営業利益と同様に2023年(FY23)の14,997百万ドルから2025年(FY25)は3,794百万ドルへと大きく減少しました。通期での純利益成長率はマイナス46.5%と厳しい結果になっています。2025年(FY25)の4四半期合計は3,794百万ドルで、前年(FY24)の7,091百万ドルに対する進捗率は53.5%となりました。

最終的な利益が削られている背景には、本業の収益性悪化に加えて、将来の成長のための研究開発投資を継続していることがあります。2026年(FY26)1Qでは効率的な経営で「底打ち」することが期待されています。

(5)株主価値指標の動き
株価が会社の価値に対して、「割安」なのか、それとも「割高」なのかをみていきます。
1)EPS(希薄化後一株当たり利益)
EPSは、会社が1株につきどれだけの利益を上げたかを示す指標です。テスラ(Tesla)のEPSは2023年(FY23)の4.30ドルから2025年(FY25)には1.08ドルへと低下しています。これは稼ぐ力が弱まっていることを意味します。
2)PER(株価収益率)

PERは、株価が1株当たり利益の何倍まで買われているかを示し、投資家の期待度を表します。2025年(FY25)には418.19倍と異常に高い数値になっていますが、これは純利益が減った一方で、株価が将来のAI事業などを期待して高く維持されているためです。

3)PBR(株価純資産倍率)
PBRは企業の純資産に対して株価が何倍かを示します。2025年(FY25)は20.54倍となっており、一般的な製造業に比べて極めて高く、ブランド力や将来性が高く評価されていることがわかります。
(6)貸借対照表から見る「財務の安定性」
貸借対照表で企業の「健康診断」をしてみましょう。


1)資産の動向
テスラ(Tesla)の総資産は2020年(FY20)の52,148百万ドルから、2025年(FY25)には137,806百万ドルへと2.6倍以上に増加しました。特に固定資産が着実に増えており、ギガファクトリーなどの生産拠点やスーパーチャージャー網への継続的な投資が資産の積み増しにつながっています。2025年(FY25)も前年(FY24)から約15,000百万ドルの資産増となっており、攻めの姿勢を崩していないことが見て取れます。
2)負債の動向
負債合計は2020年(FY20)の28,469百万ドルから、2025年(FY25)には54,941百万ドルへと増加しています。しかし、資産の伸びに比べると、負債の増加は緩やかです。注目すべきは、かつて流動負債と固定負債が同程度でしたが、近年は将来の設備投資のための固定負債がじわりと増えている点です。それでも、事業規模に対して負債が過大という印象はなく、コントロールされた範囲内と言えます。
3)純資産の動向
純資産は企業の「本当の体力」を示します。2020年(FY20)の23,679百万ドルから、利益の蓄積により2025年(FY25)には82,137百万ドルへと大きく成長しました。利益が減少局面にあるとはいえ、これまでの蓄えにより、自己資本は非常に強固なものとなっています。この厚い純資産があるからこそ、短期間の赤字や巨額の設備投資にも耐えられる構造になっています。
4)流動比率の動向
流動比率は「1年以内に返すべき借金」に対して「1年以内に現金化できる資産」がどれだけあるかを示し、100%を超えていれば短期的には安心とされます。テスラ(Tesla)は2020年(FY20)の187.51%から2025年(FY25)には216.44%まで上昇しました。手元資金が非常に豊富で、資金繰りにおける安全性は極めて高い状態にあります。
5)自己資本比率の動向
自己資本比率は、総資産のうち返済不要の自分のお金がどのくらいあるかを示す指標です。テスラ(Tesla)は2020年(FY20)の45.41%から着実に上昇し、2025年(FY25)には59.92%となりました。一般的に製造業では40%以上あれば優良とされるため、現在のテスラ(Tesla)は非常に倒産しにくい、健全な財務体質を持っていると言えます。
(7)キャッシュフロー計算書から見る「事業の健全性」
最後はテスラ(Tesla)のお金の「流れ」を示すキャッシュフローを確認します。


「営業CF」は本業で稼いだ現金、「投資CF」は将来のために使った現金(主に△表記)、「財務CF」は借金や返済、増資による現金の出入りを指します。
1)営業キャッシュフロー(営業CF)
営業キャッシュフロー(営業CF)は、本業でしっかりと現金を稼げているかを示します。2025年(FY25)は14,747百万ドルを創出しました。損益計算書上の利益は減っていますが、現金を生み出す力は依然として強力です。
2)投資キャッシュフロー(投資CF)
投資キャッシュフロー(投資CF)は、将来の成長のための設備投資額です。テスラ(Tesla)は毎年15,000百万ドルから18,000百万ドル規模という巨額投資を続けています。2025年(FY25)は投資をやや抑制したように見えますが、依然として営業CFで稼いだ現金のほとんどを、再投資に回す積極的な姿勢です。
3)財務キャッシュフロー(財務CF)
財務キャッシュフローは、資金調達や返済状況を示します。2020年(FY20)は増資などから9,973百万ドルのプラスでしたが、近年は小幅なプラスやマイナスで推移しています。2025年(FY25)の4四半期の合計は1,139百万ドルでした。前年(FY24)の3,853百万ドルと比較すると29.6%に留まっています。これは、新規の借入金に頼らなくても、本業の稼ぎから投資のための資金がほぼ賄えているという健全性の証です。
(8)安定した財務基盤を武器に次世代技術に賭ける
テスラ(Tesla)の直近業績は、売上成長の鈍化と利益率の低下という、従来の「EV成長株」としての壁に突き当たっています。特に2025年(FY25)4Qの営業赤字は、同社が置かれている厳しい競争環境を象徴しています。
しかし、財務諸表を深く読み解くと、異なる側面が見えてきます。自己資本比率は約60%、流動比率が216%と、極めて安定した財務体質は、現在の逆風下でも自動運転やロボティクスといった「次なる一手」への巨額投資を可能にしています。
2026年(FY26)1Qについて、私は売上高21,500百万ドル、営業利益860百万ドルと予想しました。これは最悪期からの脱却を示唆していますが、単に数字(業績)が回復したというよりも、むしろ「収益の質」の変化に注目すべきです。
自動車販売の利益率が底を打ち、ソフトウェアなどの高付加価値部門が、どれだけ収益に寄与し始めるか。私たちは、売上高という表面的な数字だけでなく、収益性、成長性、そして何より強固な財務の安定性を踏まえて、テスラ(Tesla)の真価を評価する必要があります。
岩田仙吉(いわたせんきち)氏株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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