
※登壇者の発言は収録時点の情報に基づいた見解となります。
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「株高なのに国民生活は豊かにならないのはなぜか」「円安はどこまで続くのか」「AI革命は市場をどう変えるのか」——2026年の相場を読み解くうえで欠かせないこれらの問いに、経済アナリストの朝倉慶氏(2026年3月2日撮影)と、武者リサーチ代表の武者陵司氏(2026年4月8日撮影)にそれぞれ独自の視点でお答えいただきました。
今回注目したいのは、アプローチの異なるお二人が正反対ともいえる結論にたどり着いている点です。朝倉氏は「円安・株高は通貨価値下落の裏返しにすぎない」と警鐘を鳴らす一方、武者氏は「日本株上昇の要因は企業収益の拡大」だと主張。本記事では、この対比を軸に、お二人の見解を比較しながら2026年のドル円相場と投資戦略を整理します。
【必見!】朝倉慶氏、武者陵司氏の解説動画
●朝倉慶氏の解説動画
●武者陵司氏の解説動画
論点①|株高は通貨価値低下の裏返しか?
●朝倉慶氏の視点——「株が上がった=豊かになった」は幻想
朝倉氏は、株高・金高の本質を理解するカギとして金の歴史的な価格推移を挙げます。1972年に1トロイオンス35ドルだった金が現在では5,000ドルを超えています。これは金の価値が上がったのではなく、通貨の価値が低下したことを意味すると朝倉氏は分析します。

日本株についても同様の見方を示しています。2007年のGDPは約500兆円、現在は約600兆円と増加率は約20%に過ぎません。一方で株価は7,000円台から5万円台へと7倍以上に膨張しています。この間、為替レートは1ドル70円台から150円台へと円の価値はおよそ半分になりました。名目上の数字は膨らんだものの、実質的な豊かさはほとんど変わっていないというのが朝倉氏の主張です。
株、金、不動産、ビットコイン——あらゆる資産が上がっているように見えるのは、現金の価値が下がっているに過ぎない、と朝倉氏は要約しています。
●武者陵司氏の視点——日本株の上昇の背景に企業収益の増加がある

武者氏の見方は異なります。株価上昇を単なる通貨価値低下の反映とは捉えず、企業の稼ぐ力が高まっていることが主因だと分析しています。現在の固定資産純利益率は16%に達しており、政策金利がわずか1〜2%という空前の利潤・利子ギャップが存在する。この状況を踏まえれば、「株価上昇は合理的」という立場です。
PERが20倍を超える場面もありましたが、割高感はないと武者氏は見ています。配当利回りとの比較でも株の方がまだ有利であり、1989年のバブル前夜にはPERが60倍付近にあったことを引き合いに出しながら、現在はまだバブルとは程遠いと述べています。
論点②|円安の構造——止まらない理由と「天井」論
●朝倉氏の分析——実質金利マイナスが円安を加速させる
なぜ日銀が利上げ方向にあっても円安が続くのか。朝倉氏は名目金利と実質金利の違いに注目すべきだと説明します。日本の政策金利は0.75%ですが、賃金ベースのインフレ率は3.7%。つまり実質金利はマイナス約3%です。円を持っているだけで年間3%ずつ価値が目減りする計算であり、体感インフレ率は10%以上とも見られます。インフレ率を下回る金利の主要国は日本だけであり、円が売られるのは合理的な帰結だと分析しています。

朝倉氏は2026年のドル円について、170円近くまで進むと見込んでいます。160〜165円付近で為替介入が入り一時的に円高に戻す場面がありつつも、構造的な円安圧力が上回り再びドル高・円安が進む展開を想定しています。
朝倉氏の予想前提:
・実質金利マイナスが継続し、円保有自体がマイナスリターン
・中央銀行によるマネー供給の構造化
・積極財政によるインフレ圧力の上乗せ
●武者氏の分析——ドル円は天井圏、155円台が落ち着きどころ
武者氏の見方は対照的です。ドル円は天井圏にあり、円安はこれ以上進まないと分析しています。最大の理由は、日米間で155円台半ばを「落ち着きどころ」として事実上の合意が形成されていると見られるからです。今回のイラン問題があっても160円を超えなかったことは、その水準に岩盤的なコンセンサスが形成されつつある証左だと武者氏は述べています。

円安は日本の競争力強化というメリットがある一方、行き過ぎればインフレが進行し国民生活を苦しめます。それを止めるための利上げはアメリカにとっても金融引き締めにつながります。双方の利益が一致する水準が155円台半ばであり、しばらくは150〜155円のレンジ相場が続くと武者氏は予想しています。
論点③|積極財政への評価——批判と期待で意見が割れる
●朝倉氏——需要不足ではなく供給不足が問題
高市政権が掲げる「高圧経済」路線について、朝倉氏は現在の日本には適さないと述べています。現在の日本では建設コストが高騰し、米は供給不足から価格が急騰し、大工や介護といったエッセンシャルワーカーが不足しています。問題の本質は需要不足ではなく供給不足にあり、そこに財政でお金を投入しても物価が上がるだけだというのが朝倉氏の主張です。
●武者氏——本当の積極財政はまだ始まっていない
武者氏の見方は異なります。2026年度予算(122兆3,000億円)についても「これは積極財政とは言えない」と評価しています。概算要求の枠組みは前の石破政権時代に定められたものが大半であり、しかもプライマリーバランスが黒字という財政引き締め気味の予算だからです。高市政権の本領は6月の骨太の方針以降、来年度概算要求(8月〜)から始まると武者氏は見ており、本格的な積極財政への期待を表しています。
共通しているのは、「現状の財政政策では国民生活が改善していない」という問題意識です。武者氏は、アベノミクス以降、株価が約5倍、企業利益が約2.5倍に拡大した一方で、インフレや国民負担率の上昇により家計の可処分所得が低下し、個人消費は2014年をピークに減少へ転じたと指摘しています。
論点④|AI革命と「SaaSの死」——武者氏が語る時代の大転換
武者氏インタビューで特に注目されたのが、AI革命に関する見解です。2026年1月に「SaaSの死」と呼ばれるSaaS関連株の急落が起きましたが、武者氏はこれを「これから起こることの氷山の一角」と位置付けます。AIと技術革新により、ほぼすべての仕事が機械やロボットに代替されていく時代の入り口にすぎないということです。
技術の進化は時として既存の産業や技術を丸ごと無用の長物にしてしまう「リープフロッグ現象」を引き起こします。電話網のない新興国が固定電話を飛ばして携帯電話の時代に入ったように、SaaSも今後さらに陳腐化していく可能性があると武者氏は見ています。

一方でAI革命は雇用を奪う側面を持ちます。情報産業が雇用を生まない以上、信用創造と財政赤字拡大による需要創造が決定的に重要だという武者氏は分析します。
論点⑤|地政学と相場——イラン情勢と米中関係の大転換
●朝倉氏——中東情勢は長期化しないとの見方
朝倉氏はイランへの攻撃という展開を「予想通り」と語り、戦争の長期化には否定的な見方を示しています。最高指導者ハメネイ師らが早期に失脚したことで指揮系統がほぼ壊滅し、市場が戦争の長期化を見込んでいないことは原油価格が70ドル台にとどまっていることからも明らかだと述べています。
●武者氏——米中関係の「大転換」が最大のポジティブサプライズに
武者氏が最も重視するのは米中関係の変化です。第2次トランプ政権は「中国のレジームチェンジは求めない、共存できるものは共存する、ただし現状変更は絶対に許さない」という第1次とは全く異なるスタンスだと武者氏は分析しています。

特に注目すべきは貿易統計です。まもなくアメリカの最大の貿易赤字相手国が台湾になる可能性があります。TSMCの最先端半導体なしにはAI革命が進まないという現実から、台湾有事が当面起きえないと武者氏はみています。5月の米中首脳会談が実現すれば、軍事対立ではなく経済協調の時代への移行を示す兆しとなり、マーケットにとって計り知れないポジティブサプライズになると武者氏は分析します。
2026年ドル円予想の比較
●朝倉慶氏:170円方向
実質金利マイナスが継続し、積極財政によるインフレ加速が重なることで円安が進む展開を想定。160〜165円で為替介入が入る場面があっても、構造的な円安圧力が上回るとの見方。
●武者陵司氏:150〜155円レンジ
日米間で155円台半ばを「落ち着きどころ」とする事実上のコンセンサスが形成されつつあるとの分析。イラン問題があっても160円を超えなかったことがその証左。
まとめ——個人投資家へのメッセージ
朝倉慶氏と武者陵司氏、それぞれ異なる分析手法を持つお二人のメッセージを整理します。
朝倉氏からのメッセージは一貫して「時代が変わった」という認識を持つことの重要性です。デフレ時代は何もしなくても1万円は1万円のままでしたが、インフレ時代に動かなければ資産は目減りする一方です。動くことにはリスクが伴いますが、動かないリスクの方がはるかに大きいのが今の時代だと朝倉氏は訴えます。
武者氏からのメッセージは「ハイリスク・ハイリターンは行き過ぎ、ゼロリスク・ゼロリターンはもってのほか」という言葉に集約されます。インフレ時代に現金だけを持ち続けることは「キャッシュイズベガー」の状態であり、企業固定資産純利益率と政策金利の空前のギャップが存在する今、ミドルリスク・ミドルリターンを目指す運用姿勢が重要だと述べています。
お二人に共通するのは「現金の価値が下がる環境では、何らかの資産に振り分ける行動が必要」という認識です。円安・株高の本質をどう解釈するかでアプローチは異なっても、「現金のまま放置すれば資産は実質的に目減りする」という点では一致しています。
外為どっとコム マネ育チャンネルでは、引き続き経済の第一線で活躍されている有識者をお招きし、今後も最新のドル円相場見通しをお届けしていきます。ぜひ動画・記事もあわせてご覧ください。
朝倉慶(あさくら・けい)
1954年、埼玉県生まれ。1977年、明治大学政治経済学部卒業後、証券会社に勤務するも3年で独立。顧客向けに発行するレポートが、この数年の経済予測をことごとく的中させる。船井幸雄氏が著書のなかで「経済予測の超プロ・K氏」として紹介し、一躍注目される。 2008年に初めて著書を出版し、以降、ベストセラーとなる本を次々と出版。
武者陵司氏
1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券(株)に入社。
1988年~1993年ニューヨーク駐在、(株)大和総研アメリカでチーフアナリスト、米国のマクロ・ミクロ市場を調査。1997年ドイツ証券(株)調査部長兼チーフストラテジスト、2005年ドイツ証券(株)副会長を経て、2009年(株)武者リサーチを設立。
著書に『株価7万円の最強日本経済』等がある。
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