今回は高千穂大学商学部教授の内田稔氏をお迎えし、足元の為替相場と今後の展望について伺いました。
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足元のドル円相場の動き
●レートチェックの影響
1月23日から24日にかけて、ドル円相場が何度か急落する場面がありました。これは日米が協調してレートチェックを実施したのではないかという観測が出ています。
実際の為替介入は行われなかったようですが、「協調」というキーワードが市場で重く受け止められ、協調円買い介入への警戒感が台頭しました。その結果、ドル円相場は先週金曜日の一時159円台から152円前半まで約7円下落しました。
●円高からドル安へのシフト
注目すべきは、相場が「円高」から「ドル安」にバトンタッチしている点です。
クロス円(ユーロ円やスイスフラン円など)を見ると、1月27日には下げ止まって若干円安に戻しています。つまり、現在のドル円152円台は円高ではなく、ドル安によるものなのです。
トランプ大統領が1月28日に日本や中国を名指しして「通貨の切り下げをやっている」「ドルはまだ高すぎる」と発言したことで、ドル指数は4年ぶりの安値圏まで下落しています。
日米金利差と円安の関係
●実質金利がカギ
通常、日米の金利差が縮小すると円高になるのがセオリーですが、現在はそうなっていません。その理由は実質金利にあります。
実質金利 = 政策金利 - インフレ率
日本の場合:
・政策金利:0.75%
・インフレ率:約2%
・実質金利:マイナス1%以上
この実質金利のマイナス幅が先進国の中で最も大きく、これが円安が止まらない最大の要因となっています。
●円高に転じるための条件
本格的な円高への反転には以下が必要です:
1. 日銀の利上げ
2. 日本のインフレ率のさらなる低下
3. 実質金利のマイナス幅縮小(プラス方向への転換)
欧州通貨の動向
●リスク回避と円高の関係
グリーンランドをめぐる地政学リスクが高まっていますが、従来のような「リスク回避の円高」は起きにくい状況です。
その理由:
・1995年以来、円は金利が最も低い通貨として常に売られる側の通貨だった
・リスク回避時は、売っていた円を買い戻す動きが円高を生む
・現在は円の売りポジションが2024年夏ほど積み上がっていない
・リスク回避局面では日銀が利上げを見送る可能性が高まり、かえって円安要因に
●欧州通貨への影響
NATOが国防費を自国で負担する方向に舵を切ったことで、欧州では財政拡張の可能性があります。これは金利上昇、欧州通貨高につながる可能性があります。
日銀の金融政策
●1月の据え置き判断
1月23日の金融政策決定会合では政策金利の据え置きが決定されました。
据え置きの理由:
・昨年12月に0.75%まで利上げ(30年ぶりの水準)
・この政策金利が経済・物価に与える影響の見極めに時間が必要
・解散総選挙が迫っており、政治的にも動きにくい時期
●今後の利上げペース
大まかには年2回ペースで利上げが進むと予想されます。
・2024年3月:マイナス金利解除
・2024年7月:利上げ
・2024年12月:利上げ
このペースで進めば、次回の利上げは2025年6月から7月あたりが想定されます。
●利上げを左右する為替水準
160円が重要な節目となります。
・160円を超えると、円安のデメリットがメリットを上回ると政府が判断
・この水準を抜ければ日銀の利上げ前倒しの可能性
・逆に現在の152円台が続けば、利上げが9月頃まで先送りされる可能性
協調介入の可能性
協調介入の可能性は極めて低いと内田教授は分析しています。
●4つの理由
1. 国際的なコンセンサスの欠如
・2000年のユーロ買い支え介入時は、単一通貨の試みが失敗するとドル高・円高に飛び火する懸念があった
・現在の円安は国際的に危機意識を持たれていない
2. 日本の自助努力不足
・2000年のECBは年初から175ベーシス利上げを実施
・日本の政策金利は中立金利(1〜2.5%)の下限にすら達していない
3. アメリカの経常赤字国としての制約
・アメリカは外国の投資家に米国債を買ってもらう必要がある
・そのためにドルの安定が最優先
・ドル売り介入は米国債の信認を損なうリスク
4. ドル安による輸入インフレ懸念
・ドルは既に4年ぶりの安値水準
・さらなるドル安は輸入インフレを招き、FRBの利下げを困難に
・アメリカに人為的にドルを安くするメリットがない
国内政治と為替市場
●総選挙のメインシナリオ
2月4日投開票の総選挙では、自民党と維新の会等を合わせた与党で過半数獲得がメインシナリオです。
高市政権続投の場合:
・食料品の消費税を2年間ゼロにする政策が実現する可能性
・需要刺激によりインフレが続く
・株式市場は歓迎する一方、実質金利のマイナス圏継続で円安圧力が残る
・長期金利の上昇圧力も継続
・基本シナリオ:円安、株高、長期金利上昇
●長期金利上昇の要因
長期金利上昇は財政悪化だけが理由ではありません。
長期金利の構成要素:
1. 期待インフレ率
2. 期待潜在成長率
3. プレミアム(タームプレミアム含む)
現在の上昇要因:
・国債増発懸念と日銀の買い入れ減少による需給悪化
・インフレ期待の高まり
・クレジットデフォルトスワップ市場のスプレッドは比較的落ち着いている
●日中関係の影響
日中関係は悪化しており、収束のめどは見えていません。
株式市場への影響:
・インバウンド銘柄(百貨店、化粧品など)は下落
・ただし日本全体では徐々に影響が落ち着き、株式相場は下げ止まって上昇に転じる可能性
台湾有事のリスク:
・その時点での円のポジション(ショートかロングか)が重要
・円ショートが積み上がっていれば円高、円ロングなら円安に
・いずれにしても日銀が様子見姿勢を強め、利上げ後ずれによる円安シナリオが残る
●野党政権のシナリオ
立憲民主党と公明党が合流した中道改革連合が勢力を伸ばした場合、2つのシナリオが考えられます。
シナリオ1:高市トレードの巻き戻し
・円高、株安、長期金利低下
シナリオ2:より積極的な財政出動
・野党の方がより積極的な財政出動に舵を切る可能性
・「悪い金利上昇」と円安がさらに加速
・両極端なシナリオの両にらみが必要
まとめ
現在の為替市場は「円高」ではなく「ドル安」局面に入っています。円そのものは実質金利のマイナス幅が大きく、依然として弱い状況が続いています。
日銀の利上げペースは年2回程度が想定され、160円が重要な節目となります。協調介入の可能性は極めて低く、国内政治の動向と日銀の政策、そしてアメリカの金融政策が今後の相場を左右する鍵となりそうです。
後半では、アメリカ経済やその他の主要な金融市場の動向についてもお伺いする予定です。
国際公認投資アナリスト内田 稔(うちだ・みのり)氏
高千穂大学商学部教授。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。マーケット業務を歴任し、2012年から2022年まで外国為替のチーフアナリスト。22年4月から現職。J-money誌の東京外国為替市場調査では2013年より9年連続個人ランキング1位。国際公認投資アナリスト、証券アナリストジャーナル編集委員、公益財団法人国際通貨研究所客員研究員、(株)FDAlco為替アナリスト。
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