
政局不安は和らいだが…トルコリラの今後は?
2025年10月23日、トルコ中央銀行は政策金利を40.5%から39.5%へ1.0%引き下げることを決定しました。 しかし、同時に発表された声明では「物価上昇の勢いが再び強まっている」ことへの強い警戒感を示し、今後の金融政策は会合ごとに慎重に判断する姿勢を強調。「必要であれば、再び金融引き締めに転じる」という条件付きのスタンスを明確にしました。
この金融政策決定の翌24日、トルコの主要野党である共和人民党(CHP)の党大会の結果を無効とする訴えを裁判所が退けたことで、政治的な緊張が一時的に和らぎました。野党の分断と弱体化を狙っていたと見られるエルドアン政権にとって、今回の裁判結果は、期待に反する不都合な結果であったと言えますが、裁判所の決定を受け、トルコの株式市場は3〜5%上昇し、トルコリラも買い戻されるなど、市場は好意的に反応しました。
一方で、2025年9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で33.29%の上昇となり、インフレの鈍化傾向が一旦止まったことが示されています。 このように、トルコ経済は金融政策、国内政局、そして根強いインフレという複数の要因が複雑に絡み合う状況にあります。
トルコリラの価値はどう決まる?カギを握る「米ドル」と「国内政治の信頼」
トルコリラ円(TRY/JPY)のレートは、主に「米ドル/トルコリラ(USD/TRY)」と「米ドル/円(USD/JPY)」の2つの通貨ペアの掛け算で決まります。そのため、トルコリラの動向を理解するには、米ドルに対する価値(USD/TRY)を見ることが不可欠です。
足元の米ドル/トルコリラは、緩やかにリラ安が進む展開が続いていましたが、10月24日の政治ニュースを受けて一時的にリラが買い戻され、1米ドル=41.95リラ近辺で取引を終えました。

米ドル/トルコリラ(USD/TRY)日足チャート
今回の出来事で政治リスクが和らぐことの効果は確認できましたが、年初からの緩やかなリラ安傾向は変わっていません。短期的なニュースよりも、「トルコ政府の経済政策が信頼され、継続されるか」、そして「実際にインフレを抑制できるか」という2点が、中長期的なトルコリラの方向性を決めると考えられます。
一時の安堵から再び緊張へ。トルコ政局、次なる火種は?
10月24日の裁判所の判断は、約1年間続いた野党への政治的圧力に一服感をもたらし、「政治の先行き不透明感が和らいだ」として市場に歓迎されました。 しかし、そのわずか数日後の27日には、野党の有力者であるイマモール・イスタンブール市長に新たなスパイ活動の容疑がかけられたと報じられるなど、安心感は長続きしない可能性も出てきています。トルコの政治リスクは、ニュース一つで市場の雰囲気を一変させる可能性をはらんでいます。
インフレ再加速の懸念!トルコ経済の「CPI」と「外貨準備」
- 消費者物価指数(CPI): 2025年9月のCPIは、市場予想を上回る前年同月比33.29%の上昇となりました。 これを受け、トルコ中央銀行も物価上昇の勢いが鈍化するペースが落ちていることを認めており、今後の利下げ幅はデータを見ながら慎重に決定していく方針です。
- 外貨準備高: 10月17日時点の外貨準備高は1,984億ドルと、総額は積み上がっています。しかし、その増加要因には金価格の上昇などが含まれており、トルコが自由に使える外貨が純粋に増えているわけではない点には注意が必要です。
- 国内の外貨預金: 同じく10月17日までの週次データでは、トルコ国内の個人や法人が保有する外貨預金が再び増加しました。これは、国民が自国通貨リラよりも米ドルなどの外貨を保有したいという「ドル化志向」が依然として根強いことを示しており、リラの上値を重くする構造的な要因となっています。
利下げペースダウンは本気?トルコ中銀の声明に隠された「タカ派」のメッセージ
10月23日の金融政策会合では、政策金利の引き下げ幅が前回の2.5%から1.0%へと縮小されました。これは、9月のインフレ再加速を受けて、トルコ中央銀行が慎重な姿勢に転じたことを示しています。
声明文には「インフレ見通しが大きく悪化すれば、金融引き締めを行う」という、いわゆる「タカ派(強気)」な一文が残されました。市場では、次回以降の利下げはさらに小幅になるか、あるいは一時停止される可能性もあるとの見方が浮上しています。
市場の反応は正直?政治リスク後退とムーディーズの警告
- 政治リスク後退へのポジティブな反応
10月24日の裁判所の判断を受け、市場は若干ながらリスクオン(積極的な投資)ムードとなりました。トルコの株価は上昇、通貨リラは反発し、債券利回りも低下しました。これは、政治的な不確実性というリスク要因が一時的に剥がれ落ちた結果と言えます。 - 格付け会社ムーディーズの警告
一方で、大手格付け会社ムーディーズは10月23日、トルコの政治的緊張が、これまでの経済政策の信頼回復に向けた努力を損なう可能性があると指摘しました。具体的には、以下の4つのリスクを挙げています。- 政治の混乱が投資家心理を冷やし、リラの安定やインフレ抑制を妨げる。
- 経済政策への信頼回復の流れが頭打ちになる。
- インフレが高止まりする中で利下げを続ければ、通貨の安定を損なう。
- 国の制度や財政の継続的な強化が必要である。
トルコリラ円(TRY/JPY)の見通し
- 基本シナリオ
年末にかけて利下げはさらに小幅になるか、一時停止される可能性があります。インフレ率が明確に低下しない限り、トルコ中央銀行は慎重な金融政策を続けるでしょう。政治リスクが再燃する場面では、海外からの資金流入が鈍り、リラへの下落圧力が強まりやすいため注意が必要です。 - リスクシナリオ(リラ高の方向)
トルコ国内の政治的な緊張が和らぎ、インフレ率の鈍化がデータで確認され、質の良い外貨準備が積み上がるという好条件が揃えば、市場の信頼が回復し、一時的にリラ高が進む可能性があります。 - リスクシナリオ(リラ安の方向)
再び司法や政治に関するネガティブなニュースが報じられ、市場のリスク回避姿勢が強まるシナリオです。国内のドル化志向と相まって、リラ安が加速する可能性があります。その場合、トルコ中央銀行は市場の過度な変動を抑えるための措置を講じると考えられますが、ニュース次第では価格変動が激しくなる展開も想定されます。
【カレンダー】今後のトルコリラの行方を左右する!最重要経済イベント
- 11月3日(月)16:00: 10月消費者物価指数(CPI)発表
- 12月11日(木)20:00: トルコ中央銀行 金融政策会合
チャートが語るトルコリラの未来は?テクニカル分析で売買タイミングを探る(TRY/JPY日足)
テクニカル分析
テクニカル分析(TRY/JPY・日足|MA10/RSI9)
足元は3.51の安値からの戻り基調が続き、直近は3.64〜3.65台で推移しています。10日移動平均線(MA10)は上向きへ転じ、ローソクは概ねMA10の上で推移し始めました。短期の下押し圧力はやや和らいだと判断します。
RSI(9)は50台後半で、“買われ過ぎ”の70には達していません。価格とRSIがともに切り上がり、モメンタムの底打ちを示しています。地合いは「上値は試しやすいが急伸は期待しにくい」状況です。
重要水準(短期)
レジスタンス:3.66(直近スイング高)/3.70前後(心理節目)/3.83(夏場の戻り高値)
→ 3.66を終値で上抜けると3.70台トライの余地が広がります。3.83は中期の重いフシで、利食いが出やすいゾーン。
サポート:3.60(直近押し目・MA10付近)/3.56(小さな押し安値帯)/3.51(直近安値)
→ 3.60割れで短期の強気がやや後退、3.56割れで持ち合い回帰、3.51割れで「戻り一巡」の可能性が高まります。
売買スタンスの考え方(短期〜1〜2週間)
押し目買い優先:MA10が上向きのうちは、3.60〜3.62の押しは拾われやすい。エントリー後は3.56割れで撤退を検討。上値は3.66→3.70で分割利食いが無難。
ブレイク狙い:終値で3.66超えなら追随買いが機能しやすい。次の利食い目処は3.70±数銭、強ければ3.83。リスク管理はMA10割れで撤退を基本。
逆張りは慎重:RSIは中立圏で、明確な“買われ過ぎ”サインなし。3.70台でRSIが70接近なら短期の戻り売りも検討可だが、薄利前提。
ウォッチポイント
- MA10との位置関係:ローソクが2日連続でMA10を明確に下回ると、戻りは失速しやすい。
- RSIのレンジ:50〜70の“強気レンジ”維持が続くか。60台キープは上値試し継続、50割れは持ち合い圧力再燃。
- 出来高やヒゲ:上値トライ時に上ヒゲ増+出来高細りは失速の兆し。長い下ヒゲで3.60が守られるなら押し目有効性が高い。
まとめ
今回のトルコ裁判の判断は、一時的に市場へ安心感をもたらしました。しかし、格付け会社のムーディーズが指摘するように、トルコリラの安定は政策金利の数字だけで決まるものではなく、政治の安定が不可欠です。また、トルコ国内で自国通貨リラへの信頼が揺らいでいる限り、リラの上値は重くなりがちです。
市場は、トルコ政府の慎重な金融政策運営と、今後の政治情勢を注意深く見極める局面に入っています。
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