第2部 第3部

1部 「米国発金融危機と日本経済再生のシナリオ」

竹中平蔵氏

サブプライムローン問題と日本の不良債権問題は本質的に違う

今、サブプライムローン問題に端を発する混乱が起きているが、サブプライムローン自体が悪いわけではない。住宅ローンを証券化するプロセスで、格付け機関がいい加減な格付けをしていた問題もある。しかし、この問題は、第一義的には経営者の失敗。変な貸付をした人たちが悪い、それにつきる。

日本の不良債権問題も同じだった。だが、私は当初から、今回の問題は日本が経験した不良債権問題と本質的には違うと言い続けてきた。決済機能を持つ銀行のバランスシートが傷み、ダメージを受けることは、社会の決済機能が痛む。だから、取り付け騒ぎなどの大混乱が起きる。日本は、その銀行のクライシスを経験した。

アメリカで問題が起きたのは、銀行ではなく証券会社だ。銀行のクライシスはダメージが大きい反面、金融の監督官庁がチェックし、コントロールすることができる。ところが、証券会社や保険会社、ファンドに不良資産があっても金融当局はチェックできない。だからアメリカでは、マネーマーケットクライシスが起きた。そこで財務長官のポールソン氏が金融安定化法案の枠組みを作り、落ち着くかと思ったが、下院がそれを否決した。政治は金融という技術的な問題に対して十分な知識がない。しかも、選挙を控え、選挙民の顔色をうかがって公的資金を投入することに躊躇した。これは金融ではなく、コンフィデンスクライシス(信任の危機)だ。

世界中に「これでは事態をコントロールできない、何が起きるかわからない」との不安が広がり、つるべ落としのように株価が下がった。 コンフィデンスクライシスへの対応はひとつしかない。信用の最後のよりどころである政治と中央銀行がなりふり構わず自体をコントロールすることだ。

竹中平蔵氏

日本の経済が悪化した背景には日本固有の要因がある

日本では、昨年1年間で11%も株価が下落した。しかし、サブプライムローン問題の発信源であるアメリカでも昨年1年間で6%上昇している。とすると、日本固有のマイナス要因が働いていると考えるべきだろう。私は3つの日本固有の要因があると思う。最大の要因は、改革にストップがかかったことだ。改革は資源の移動を自由にして、開放政策を採り、自由な競争のなかで強い経済を作ることに尽きる。日本では90年代に大幅な公共事業を行ったが肝心の構造改革を行わなかったために1%成長しかしなかった。

ところが、小泉政権では、構造改革のため公共事業を大幅に減らしたが2%強の成長を遂げた。今後は2.5%、3%とアメリカ並の成長ができると思っていたが、改革の勢いが低下したことで期待成長率が低下し、消費と投資の下方修正が起きた。日本経済が悪くなった最大の要因はこれだ。日本の経済を本当に良くしようと思ったら、まず何よりもちゃんと改革をすべきだ。2005年に郵政民営化を決め、改革ムードがピークに達した時、株価は1年間に42%も上がった。日本には、強い技術も資本も人材もいるから、改革が進むと思えば、株価が30〜40%上がっても不思議ではない。今の社会には、「格差が拡大するから改革などほどほどにしろ」というムードが満ちている。

しかし、客観的に考えれば、改革と格差は関係ない。その格差をなくすためには、みんなに新しい教育機会を作るとか、新しい政策を実行することが必要だ。後戻りして公共事業でお金をばらまけば格差が無くなるかのような議論は間違っている。 第2のポイントは、コンプライアンス不況が一気に広がったことだ。コンプライアンスとは法令遵守だ。法令遵守は非常に大切だし、国民の安全安心も重要だ。しかし、ここ1〜2年、コンプライアンスという名の下に、がんじがらめの規制ができた。その結果、経済活動が萎縮した。その典型が、建築基準法の強化だ。これによって07年の住宅投資は06年より10%も減っている。

第3のポイントは、日本では金融がおかしな動きを示すようになっていることだ。今年に入って一部上場企業が22社倒産している。しかも不動産会社のアーバンコーポレーションなどは黒字なのに倒産した。銀行が融資しなかったからだ。そのなかで『金融機能強化法』という廃案になった法律を復活させようという動きが出てきている。この法律は、私が大反対されながら作ったものだが、過去の金融担当大臣は誰も使わず、今年3月に廃止されている。これは、地方銀行に予防的に自己資本を注入するという法律だが、こういう事態になった以上、公的資金の投入という“飴"とともに、不良債権を処理し、きちんと貸付を行うよう監視する“鞭"も用意すべきだろう。

日本を再生する3つのプラン

竹中平蔵氏

改革は難しくない。諸外国でやっている政策で日本がやっていない政策がいくつもある。そのいくつかを強い政治的リーダーシップのもとにやっていけば、日本経済の景色はたちまち変わる。私は、3つのことをやれば日本経済の景色は変わると思っている。

1つは羽田空港を2倍に拡張し、24時間稼働する国際空港にするナショナルプロジェクトを行うことだ。日本は定住人口が減ってくる。だから観光客や出張客、留学生などの交流人口を増やすしかない。その拠点となる空港を整備する。これは法律を変えなくても、国土交通省の航空局長が「やる」と言えばできる。あとは羽田を拡張する予算をつければいい。これによって、東京は本当の意味で24時間都市になり、金融センターになる基盤も一気にできてくる。

2つめは、法人税を下げることだ。日本の法人税は実効税率40%、ヨーロッパは30%、アジアは20%ないしはそれ以下だ。こういうと「庶民が困っているのに、企業の税金を減らすのか」という議論が出てくる。本当に強い企業は法人税率が40%でも60%でも困らない。外国に出て行けばいいからだ。しかし、本当に強い企業が日本からいなくなったら、働く場所がなくなり、結局庶民が困る。税制の制約があってすぐにはできないのなら、法人税の引き下げができる『スーパー特区』を作ればいい。成田空港の周辺や北海道、九州に作れば、地域再生も進むだろう。

3つめは、東大を民営化することだ。東京大学は世界大学ランキングで07年が17位、今年は19位だった。東大が本気で世界のトップ5を目指せば、日本の経済は強くなると思う。技術開発も人材供給もしかり。そのためには文部科学省の制約から解き放つのが一番いい。ハーバードやスタンフォードなど世界のトップ5、トップ10にに入っている大学は、ほとんどが私立大学だ。

今こそ資産運用を始めるチャンス

この3つをやるだけで日本経済の姿は相当変わる。問題は、それをやる能力が日本の政治にあるか。今は、与党にも野党にもこの発想はない。いかに選挙に生き残るか、もっと言えば自分の政党が勝つかよりも、自分が再び当選できるかという矮小化された目的に汲々としていて、世界の経済がどうなっているか、日本をどうするかという議論はほとんど見られない。この大混乱の先には必ず政界再編がある。その政界再編を機に、強い力を持つ日本経済を作ろうという議論が出てくると思う。

それまでは世界の経済の混乱も、日本の経済の混乱も続くだろう。しかし、ピンチはチャンスだ。混乱している時にこそ、将来を洞察し、思い切った意志決定をすることによって、安く買って高く運用するチャンスが出てくるのではないか。日本では、今だに資産の多くを円建ての銀行預金で運用している。それをたとえば、外貨建ても含めたミディアムリスク、ミディアムリターンの資産で運用してみる。為替レートは長期的には物価で決まる。

つまり購買力平価に収れんしていく。円が120円とか140円というのが、購買力ではかった適正レートという試算もある。とすれば、円高の今は外貨投資を始めるチャンスと言える。ちなみに為替レートは、中期的には経常収支、短期的には金利格差で決まる。日本には1500兆円もの個人金融資産がある。それを運用し1%のリターンを得たなら、全体で15兆円の利益が出ることになる。消費税の少額は11兆円であることを考えると、1%の利回りで得る利益がいかに大きいかがわかるだろう。

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