ユーロの未来
ユーロの未来
欧州統一通貨であるユーロが産声を上げたのは、今から9年前の99年1月のことだった。以来、ユーロは「第二の基軸通貨」として、米ドルが下落した時の避難先という役回りを演じている。 今後、ユーロはどういう道筋をたどるのか。果たして、基軸通貨として米ドルに取って代われるだけの実力を持っているのだろうか。今、ユーロは拡大ユーロ政策のもと、導入国を増やす方向へと進んでいるが、それは正しい道のりなのだろうか。
ユーロはサンドバック通貨
結論から先に言えば、ユーロは基軸通貨になれない。少なくとも現状においてはそうだ。その答えは、基軸通貨とは何かということを考えてみれば、おのずと見えてくる。
基軸通貨とは、教科書的に言えば幅広く国際決済や対外支払準備に使われるお金のことだが、より実体に即して言えば、「その国にとって良いことが、他の国の良いことにもつながる」国が発行している通貨と定義付けることができる。
たとえば第二次世界大戦後に基軸通貨となった米ドル。少なくとも経済面だけで言えば、米国の幸せは世界経済の幸せにつながっていた。そして、その状況を維持していくために、米国経済は圧倒的な力を持っていた。双子の赤字など、問題点は抱えているものの、米国が世界で最も強い経済を持っているという事実は、多くの人が認めるところだと思う。
では、ユーロはどうなのだろうか。これは、サブ・プライムローン問題でユーロがどういう状況に追い込まれているのかを見れば、わかることだ。今、ユーロ圏の金融市場は、この問題の影響を受けて大きく揺らいでいる。
ECBは巨額の資金供給を行い、何とか動揺を抑えている状況が続いているが、この点だけでも、ユーロは基軸通貨として機能しないことを証明している。周りからの攻撃に翻弄され続ける姿を見る限り、ユーロはサンドバック通貨という認識を新たにする。
拡大ユーロ政策の問題点
2008年以降、ユーロを導入する国がさらに拡大する。現在の13カ国に加えて、2008年にはマルタとキプロスの加入が確実視されている。また、バルト3国やスロバキアも加入候補だ。 さて、現在のユーロ加盟国のうち、ニューカマーはスロベニアだ。このスロベニアに対し、ECBが「もっと節度ある経済運営を」という要望を提出したという。理由は、スロベニア経済がバブルの様相を呈しているからだ。ユーロ加入に際しては、財政赤字の対GDP比やインフレ率など、さまざまな条件を満たす必要がある。さらに加入後は、金融政策や通貨政策の権限をすべて欧州中央銀行に移譲する形になる。 現在、ユーロ圏の政策金利は4.0%だが、スロベニアのように、まさに伸び盛りの国にとって、4%の政策金利はあまりにも低すぎる。これはギリシャも同じで、同国がユーロに加入する前の長期金利は15%と高かったのが、加入してからは4%まで低下した。何の苦労もなく、資金調達コストが大幅に低下するのだから、これでバブルが生じない方がおかしいのである。
これらの事実は、経済情勢の異なるさまざまな国々に、単一の金融政策を強いることの難しさを示している。今後、ユーロが東欧諸国にまで拡大されていけば、この問題はさらにクローズアップされていくだろう。
果たして、このような通貨が、基軸通貨足りえるのだろうか。2008年の加入が確実視されているマルタやキプロスのような小国であれば、ユーロ全体に及ぼす影響も軽微かも知れないが、いずれポーランドという経済規模の大きな国をユーロに加入させるかどうかという問題が浮上してくる。このあたりで、ユーロの安定性が再び問われるはずだ。

浜 矩子(はま・のりこ)氏
東京生まれ。一橋大学経済学部卒業、三菱総合研究所に入社。1990年から同研究所の初代ロンドン駐在員事務所長を務める。2002年から同志社大学大学院ビジネス研究科教授。専門は国際経済学で、BBCテレビやCNN,NHKなどの時事ニュース番組にもコメンテーターとして出演。近年は経済審議会特別委員や国税審査会委員、金融審議会委員など政府関係の委員も数多く務め、積極的に政策提言を行う。 著書に「ユーロランドの経済学」(PHP研究所)「経済は地球をまわる」(筑摩書房)「超常識塾」(実業之日本社)など
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