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先日、ワシントンの国際経済研究所を訪ねた際、所長のフレッド・バーグステンからこんな質問を受けたんです。
「平蔵、円は安すぎないか?」
常々、人民元や円の為替レートは間違っている――ミスアライメントだと主張する彼にとり、それは当然の発言です。しかしそこには、彼とは正反対の考えを持つ経済学者、リチャード・クーパーも同席していました。まずは、そこで行なわれた二人のやり取りからお話しを始めましょう。
要約するとこうなります。現在、米国はプラザ合意がなされた1985年以上の経常収支赤字を抱えている。だから当時より今の方がミスアライメントが強いのだとバーグステンは主張します。
一方のクーパーは、それは違うという。当時の経常赤字は政府の財政赤字に起因していたが、今日、それは大幅に改善されている。それでも経常赤字が広がるのは、外国からの民間分野への投資に要因がある。では、なぜ投資するのか? それは米国経済の期待成長率が高いせいだ。つまり今の状況は、サスティナブル(持続可能)なのだ。そう彼はいうのです。
さて、皆さんはどうお考えでしょう? 意見を求められた私はこう答えました。
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「私は、クーパーの見解が比較的正しいと考えている。ただし円は今後、高い方向に行くだろう。その理由は二つ。まず、日本経済のある程度の復活を受け、いくつかの政府が外貨準備で円建て資産の比率を高める方向に動き出した。もう一つ、これは期待を込めていうが、安倍政権による改革が進めば、日本経済の期待成長率も上がるはずだ。そうなれば、円も買われることになるだろう」
内閣府の試算では、日本の本来の成長力である潜在成長率は2%弱。一方、米国のそれは3.2〜3.3%。日本の潜在成長力を3%水準まで高められるかどうかが、そのカギになるでしょう。
たかが1%。しかしそれは国民にとり大きな意味を持つのです。成長率が1%違えば、10年でGDPは10%違う。日本のGDPは約500兆円ですから、その10%は50兆円。それにともなう自然税増収は、およそ16兆円。少々強引に消費税率に換算すると、これは8%アップに相当する金額です。そう聞くと、皆さんもその重要性をご理解いただけるのではないでしょうか。
安倍政権は成長率を高めることを掲げていますが、方向性はまったく正しい。問題は、その中身です。
先日、安倍政権として初の「骨太方針」が出されました。その特徴を一口に言うと――長い、ともかく長い(笑)。実は、問題もそこにあります。政治のリーダーシップのもと、一人の人間が書き下ろしたなら、そう長くなるはずがない。各省の役人が持ち寄ったものを束ねた「積み上げ型」だから長くなるのです。
それゆえ、と申すべきでしょう。中身がない。教育再生、成長戦略、イノベーション。方向はどれも正しい。だがなにをするかが見えてこない。言い換えるなら「戦略的アジェンダ」がないのです。
戦略的アジェンダとはなにか。私はそれをボーリングのセンターピンのようなものと申し上げたい。まずは国民から見えやすいこと。そしてそれが倒れれば、次々と変化が起こることを期待させること。それが条件というわけです。「不良債権処理」「郵政民営化」は、まさにそれです。
そして今、戦略的アジェンダの不在ゆえに、総理自身、成長が必要と認めているにも関わらず、人々は成長の具体的イメージを描けずにいる――それが日本の現状ではないでしょうか。
日本は世界と競い、成長率を高めるチャンスに直面しています。しかし残念なことに、与党からも野党からもその具体的方策は示されていません。この夏の参院選は、社会保険庁の役人たちの“チョンボ”という低次元の問題などではなく、それこそが真に問われるべき課題であると私は考えています。
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