中岡望『世界深層レポート』
第13回 『緊急経済安定化法案』の行方―その後の変遷について(2008/10/28)
前回、「緊急経済安定化法」の内容に関して説明しました。7000億ドルを使って銀行の不良資産を買い取るというのが、救済策の柱でした。しかし、その後、ワシントンで開催されたG7後、アメリカの対応が急速に変わってきます。ポールソン財務長官は「公的資金を使っての資本注入」に対して反対の立場でしたが、10月13日、一転して金融救済策の柱を従来の不良資産購入に加え資本注入とすると発表しました。今回は、「緊急経済安定化法」の整理と、その後の政策の変遷について説明します。
金融危機に至る過程
いつか米国の金融システムに大きな破綻が来るのではという予感はありましたが、これほどまでの激震が世界の金融市場を襲うとは、専門家でも予想できませんでした。最初の余震は9月14日にバンク・オブ・アメリカ(BOA)が証券最大手のひとつメリルリンチ証券の買収を発表したことです。実はBOAがメリルリンチ証券の買収に踏み切ったのは、リーマン・ブラザーズの買収がうまく進まなかったからです。BOAとの交渉が失敗に終わり、倒産以外の道がなくなったリーマン・ブラザーズは15日に連邦破産裁判所に破産申請をし、金融市場はパニックに陥ります。ロンドンの銀行間取引を行うインターバンク市場の金利(LIBOR)は、3%台から一気に6%台に上昇、短期金融市場では実質的に貸し手がいなくなったのです。それに追い討ちを掛けるように16日、大手保険会社のAIGが資金繰りに窮し、FRB(連邦準備制度理事会)が850億ドルの緊急融資を実施することを明らかにしました。さらにAIGの破綻を契機に大手ミューチャル・ファンドのリザーブ・プライマリー・ファンドが巨額の損失を出したことが明らかになったことで、マネー・マーケット・ミューチャル・ファンド(MMMF)市場が大混乱に陥ります。投資家は資金を引き揚げ始めたため、一般企業が資金繰りのために発行するCP(コマーシャル・ペーパー:商業手形)の買い手がいなくなったのです。この事態を放置すれば企業の倒産という最悪の状況に発展しかねません。金融市場の混乱が経済に影響を及ぼし始めたのです。財務省はMMMFを保証する旨を発表し、事態の鎮静化に動きました。
なぜリーマン・ブラザーズは倒産したのか
サブプライムローン問題で経営危機に陥ったベアスターンズやファニーメイ、フレディーマックでは救済に動いた財務省とFRBは、リーマン・ブラザーズに関してはまったくと言っていいほど救済の動きを示しませんでした。こうした当局の姿勢が市場に不安感を与えたことは間違いありません。フランスのクリスチーヌ・ラガルド蔵相は10月8日、ラジオ番組に出演して「リーマン・ブラザーズのような大手金融機関の倒産を許すことで金融危機の連鎖反応が起こった。ポールソン長官は明らかに間違いを犯した」という趣旨の発言を行っています。同社の倒産で崖っ淵に立たされていた世界の金融市場は同社の倒産というひと突きで一気に奈落の底に落ちていったのです。信用市場はいったん信用が崩れ始めると、一気に崩壊していきます。ポールソン長官やバーナンキFRB議長はある程度市場が混乱すると予想していましたが、ここまで深刻な信用不安が起こるとは思っていなかったようです。【当レポート詳細について】
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