マット今井『トレーディングのつぼ』バックナンバー

第184回 ”季節要因” (2008/05/20)

市場はかなり落ち着いてきた。こうした環境になってくると、市場の関心はファンダメンタルズに移っていく。特に、為替市場は金利環境に敏感になりやすい。高金利通貨である新興国通貨やオセアニア通貨の優位性が増し、低金利通貨である円や米ドルが売られやすい時期に入ってきた。年初に、金融市場の混乱は過去に起きたことから見ると、半年から長くても10ヶ月程度で終わっていることが多いので、2008年の第1四半期に一旦収まる可能性が高く、その後はファンダメンタルズ相場に移るという話をさせていただいたが、そのファンダメンタルズ相場に移行してきたということだろう。

ところで、今回は、今年に3月17日に1ドル=95円台までドル安円高が進んだときの状況についての話をしてみたい。
以前、このシリーズで季節要因という話をしたことがある。機関投資家や金融機関などは決算によって行動を縛れ、これが市場の動きに反映されることはしばしば起きる。
今回のドルの急落、株の急落が3月に起きてしまったのは、こうした運用機関の担当者にとっては悲劇だったに違いない。

日本の機関投資家はほとんどが3月決算である。決算においては、各運用責任者はその期の着地の数字(運用成績)をある程度固める必要がある。「3月は動いてほしくない」というのが彼らの本音であろう。ところが今年は、決算月である3月のど真ん中に市場が大きく崩れてしまった。あまりのタイミングの悪さに「どうしてこんな時期に動いてしまうんだ!」という運用担当者の嘆きの声が聞こえてくるようである。

実際にヒアリングをしてみたところによると、3月の株安・円高の展開のときに、それ以上の含み損失を出してはいけないという経営判断から、自分の意思に関係なく、オプションなどの手法を使って、やむなくヘッジをすることを余儀なくされた運用機関は少なからずあったようだ。運用責任者としてみれば、長期的に絶好の株式の買い場、ドルの買い場だと思いながら、逆の取引をしなければいけなかったのは断腸の思いであっただろう。
4月に入って、すぐにドル高円安が進んだのも、こうしたヘッジ売りの買戻しが原因であったようだ。本来売りたくもないところを売っていたわけであるから、買戻しをすぐに行ったのも納得できる。

一方、富裕層をメインターゲットとしている某大手外資系銀行では、ドル円が100円を割り込んだときに、富裕層からのドル買い円売りが殺到したそうである。富裕層の多くは古くから外貨預金での運用を続けてきてり、安いと思えば買い、高くなったところでは一旦利益を確定する。「金持ちほど余裕があるので投資もうまくいく」とよく言われているが、まんざら嘘でもないのかもしれない。
個人には決算という概念はないので、こうやって相場状況に合わせて取引ができるが、企業の場合は、決算という特殊要因に縛られて、自分が意図しないような取引を余儀なくされることがある。運用担当者が泣く泣くヘッジ売りをしているときに、お金持ちは悠然と買っていたという絵図は興味深い現象だ。

今回のような特殊な環境はいつも起きるわけではないが、頭の片隅に置いておけば、投資手法に幅が広がってくると思うので、是非覚えておいてほしい。

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