マット今井『トレーディングのつぼ』バックナンバー

第164回 ”香港ドルの米ドルペッグ制は続くのか?” (2007/12/18)

最近米ドルペッグ制というものに対する議論が白熱しているので今回はこのテーマについて考えてみたいと思う。

ペッグ制というは、ある通貨と自国通貨の為替レートを一定の範囲に納めるという広義の意味での固定相場制度のことである。つまり、米ドルとのペッグ制ということは米ドルと自国通貨の交換レート(為替レート)を一定の範囲の中で管理するという制度ということになる。ところが、このペッグ制の維持が今困難な状況に陥っているのである。

米ドルへのペッグ制を採用している代表的な国は中東の産油国である。こうした中東諸国の通貨は、ここのところの米ドル安の影響で他の国の通貨に対して価値が低下している。自国通貨が弱くなるということはその国の購買力が低下するということであり、その点においては国にとってはマイナスである。また、原油価格は米ドル建てであるため、原油の代金を米ドルで受け取ると、そのドルの価値が下がっていることで原油収入が実質的に目減りしてしまうという面もある。

こうした事態を憂慮して、クウェートは今年5月に自国通貨ディナールと米ドルのペッグ制を廃止した。その他、アラブ首長国連邦(UAE)やカタールなどの諸国も近い将来に米ドルのペッグ制を廃止するのではないかという観測がでている。最近、中東諸国の当局関係者は他の市場への影響を懸念してか、ペッグ制の廃止は現状では考えていないという発言を繰り返している。しかし、おそらく水面下ではシンガポールが採用しているようなバスケット通貨制を検討しているのではないかと推測する。いずれ中東の国も米ドルへのペッグ制に終止符を打つときがやってくるであろう。

もう1つ私達が比較的馴染みの深い通貨で米ドルペッグ制を採用しているのは香港ドルである。香港ドルは米ドルに対して、現在は1米ドル=7.85-7.75香港ドルの範囲内で推移するように通貨当局が管理するという制度となっている。香港ドルは年初1ドル=7.7755香港ドルで始まり、現在は1ドル=8.00程度で推移している。一方、本土中国の通貨である人民元は対米ドルでの上昇が続いており、12月19日現在で1ドル=7.38人民元で取引されている。年初は1ドル=7.8050であったので、約1年で人民元は米ドルに対して約5.4%上昇したことになる。この1年の間に人民元と香港ドルの対米ドルでのレートは逆転をしてきたわけである。

最近では中国で商売をする人が香港ドルで代金の受け取りをすることを拒否して、人民元で支払いを求めたというケースもあると聞いた。人民元は今後も上昇していくと予想される中で、これから強くなっていくであろう通貨のほうが欲しいと人が考えるのは極めて当たり前の感情である。

中国政府は今後香港での人民元の取り扱いを徐々に認めていく方針である。実際に香港国内に人民元が流通するというわけではないのかもしれないが、いずれこの2つの通貨は混在するようになるかもしれない。そうなると、片方は米ドルに対して徐々に上昇し、片方が弱い米ドルに対してペッグをしているとなれば、香港ドルが人民元に駆逐されているということも有り得なくはない。

直近でも米ドルへのペッグ制が香港当局の悩みの種になっている。香港は現在インフレ率が上昇してきており、本来であれば金融を引き締めてインフレを抑制したいところである。ところが、ペッグ制の採用によって米国と金融政策の歩調を合わせる必要があるため、米国の利下げに合わせて金利を引下げなればならない。それに加えて他の通貨に対しての米ドル安は香港ドル安でもあるので、通貨下落によってインフレを加速する。国内のインフレ傾向抑制に打つ手がない状態にあるわけである。

少し長い目で見ると、いずれ香港ドルそのものがなくなってしまうか、或いは米ドルとのペッグ制が廃止され、場合によっては人民元とのペッグ制を採用するとかの選択もでてくるかもしれない。個人的には香港ドルはいずれ人民元に吸収されるときがくると思うが、それはかなり先のことになるであろう。それまでの間、米ドルへのペッグ制を維持しておく必要があるのか、今後議論されるときが近い将来やってくるのではないかと考えている。

バックナンバー一覧


●当社提供のレポート類について
本サービスは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的として提供するものではありません。投資方針や時期選択等の最終決定はご自身で判断されますようお願いいたします。なお、本サービスにより利用者の皆様に生じたいかなる損害についても、外為どっとコムは一切の責任を負いかねますことをご了承願います。
外国為替保証金取引は元本や利益を保証するものではなく、相場の変動や金利差により損失が生じる場合がございます。お取引の前に充分内容を理解し、ご自身の判断でお取り組みください。【注】お客様がお預けになった保証金額以上のお取引額で取引を行うため、保証金以上の損失が出る可能性がございます。また取引レートには売値と買値に差が生じます。<取引形態:店頭外国為替保証金取引 委託保証金:各通貨のレート水準により決定(10,000通貨あたり1万円〜100万円、保証金額の150倍以内に設定)売買手数料:『外貨ネクスト』10,000通貨あたり片道300円(10,000通貨未満の場合は1,000通貨あたり片道50円/電話取引10,000通貨あたり片道1,000円)『FXステージ』手数料0円>
株式会社外為どっとコム 〒105-0021 東京都港区東新橋2-8-1 パラッツォアステック4階 TEL:03-5733-3065
金融商品取引業者 登録番号:関東財務局長(金商)第262号/金融先物取引業協会(会員番号1509)