マット今井『トレーディングのつぼ』バックナンバー

第154回 ”ドル円には大きな動きを期待しないのが一番” (2007/10/09)

米国経済が減速基調に入ってきているという見通しが市場関係者の中に多く広がっている。そのため、年内のドル円相場を100-105円程度と予測する専門家のかなり見られてきた。極端な例では95円と予想をする専門家もいる。予想はあくまで予想であり、当たるときもあれば外れるときもあるので、こうした見方を全く否定するものではない。しかし、予想の根拠に関しては、それに納得性があるかどうかということについてよく考えてみる必要があるのではないかと思う。

例えば、或る専門家が今後ドル円で急速にドル安円高が進むという予想をしていたとしよう。そのとき、もし、予想の根拠が、米国経済が今後減速するためにドル安が進むであろうという単純なものであった場合、ややその根拠に疑問を感じざるを得ない。

いつ過去の例を見てみたい。2001年米国ではITバブルの崩壊などで経済は急激に減速し、GDP成長率はわずか1年間で4%台から1%を割り込む水準にまで急低下した。しかし、この間のドル円相場を見ると2001年年初は114円台で開始したのが、年末には130円を突破している。つまり、米国経済が急速に減速する中でドル高円安の展開となったわけである。ドル円相場の変動要因には、米国経済の状況だけではなく、円、つまり日本サイドの要因も影響する。また、その他の要因も変動の要因となってくることも多く、米国の経済が後退したからドル安円高になるという単純なものではないのである。

では、金利差を根拠とする考え方はどうであろうか?つまり、今後米国が金利の引き下げを実施していくため、日米金利差が縮小しドル安円高が進行するという考え方である。しかし、これも万能ではない。

例えば、2006年米国は1月、3月、5月、6月と4回の利上げを実施した。この間、円金利はゼロのままであったため、金利差は拡大している。しかし、ドル円相場を見ると117円台で始まったドル円は6月末には114円台となり、金利差は拡大しているにも関わらず、ドル円相場は、ドル安円高の展開となっているのである。これは4月のG7ショックでドル安円高相場になった影響であるという反論もあるかもしれないが、4月のG7前の1月、3月の利上げの際にもドル円は上昇していないことを見れば、金利の拡大が必ずしもドル円でのドル高円安をもたらしていないことは明白である。

ここ数年の相場状況を見ると、米ドル以外の通貨への投資が急増して円安が進行している影響がドル円を下支えしているという面が大きい。以前このコラムで書いたことがあるが、例えば国内の投資家がクロス円で円売りをした場合、インターバンク市場では、ドル円の買いが発生することが多い。そのため、例え、クロス円での円売りが結局はドル円を押し上げるという現象が起きる。

こうした最近の状況を考慮すると、今後もしドル円が急落(ドル安円高)するとすれば、その要因はドル安要因ではなくて、円高要因である必要があるのではないかと考えるのは最も自然ではないかと思う。

円の低金利を背景とした円売り圧力が強い中では、米国経済の減速によるドルへの売り圧力によるドル円の下落はどうしても限定的になってしまう。8月にドル円が111円台にまで下落したのは、サブプライムローン問題でリスクマネーが縮小し、急激な円高の展開となったことが原因で、ドル安要因ではなかったことは記憶に新しい。市場予想をする場合は、実態に沿った根拠をしっかり考えることが必要ではないかと考える。

ドル安・円安環境が続く中、結局ドル円はあまり動かないというのが今の状況ではないかと思っている。

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