マット今井『トレーディングのつぼ』バックナンバー

第134回 “ドル円が下がらない理由” (2007/05/22)

今年は、歴史的なドル安の展開となっているという話は以前ご紹介したと思う。しかし、米ドル円を見ていると、全くそういう印象を受けない。端的に言ってしまえば、米ドル安と同時に円安が進行しているために、米ドル円が均衡していると結論づけできるが、今回は少し違う観点から考えてみたい。それはクロス円の取引が米ドル円に与える影響である。個人投資家の方は、証拠金会社からいろいろな通貨と円の組み合わせの為替レートを呈示されているので、どんな通貨のペアも市場にあると考える方がいるかもしれないが、実はそうではない。銀行間が取引しているインターバンク市場において、対円で取引されているのは米ドル円とユーロ円がほとんどで、その他の通貨と円の市場はほぼないと考えてよい。

例えば、皆さんが外為どっとコムで豪ドル円を買ったとしよう。外為どっとコムは顧客が豪ドル円を買ってきた分をカバーするため銀行から豪ドル円を買う(こういうのをカバー取引と呼ぶ)。その銀行は市場で豪ドル円を買ってカバーをするのであるが、市場には豪ドル円の取引がない。そのため、銀行はまず豪ドル買い米ドル売りを行い、その後米ドル買い円売りをする。これを合成することによって、豪ドル買い円売りの合成取引が出来上がるというわけである。

さて、そうなると、市場で発生した取引は、「豪ドル買い米ドル売り」と「米ドル買い円売り」の2つである。つまり、投資家が豪ドル円を買うと市場には米ドル円の買いが発生することになる。その結果、米ドル円に上昇圧力がかかるという展開となる。国内の機関投資家などは、米国の景気減速からのドル安を警戒して米ドル円の買いを控えている傾向が見られる。従って、米ドル円の買いポジションは我々が考えているほどはない可能性がある。しかし、それでも米ドル以外の通貨に対しての円売り、所謂クロス円の買いが入ると米ドル円が下支えされてしまうという現象が起きているために、ドル円ではドル安が進行していかないということが考えられる。

これを違う観点から説明してみたい。例えばシカゴのCMEという取引所の中にあるIMM市場でのポジションが毎週発表されているが、その5月15日の数字を見ていただきたい。以下のようになっている。

▲12万7896
ユーロ  11万9538
英ポンド 4万1078
豪ドル 7万5138
ニュージーランドドル 1万9239
カナダドル 4万3097
スイスフラン ▲3万4745
メキシコペソ 6万3062

さて、このIMMのポジションというのはすべて対米ドルに対してのポジションである。例えば、豪ドルであれば7万5138枚の豪ドル買い米ドル売りのポジションがあるということである。逆に円でいえば12万7896枚のドル買い円売りがあるということである。それぞれの通貨を合計してみると、米ドル売りのポジションが36万1152枚でドル買いのポジションが16万2641枚ということになる。ネットすると19万8511枚の米ドルショートポジションになっているということである。ここで見てみると、円とスイスフランだけがドルロングとなっている。この2つの通貨はこの通貨グループの中で最も金利の低い通貨である。さて、ここからは推測であるが、このスイスフランと円のショート(米ドルロング)ポジションは、実は他の通貨でのドル売りその他通貨買いとセットになっているものである可能性が高い。話を単純にしてみよう。例えば、IMMで取引をしている或る人が豪ドル円の買いを持ちたいと考えたとする。この場合、IMM市場ではドル円の買いと豪ドル米ドルの買いを同時に立てるしかない。そうなると、IMMのポジションとしては、円ショートと豪ドルロングのところに計上される。

つまり、この円ショートの中には、クロス円での円売りが少なからず含まれているものと推測できる。こういう現象によって米ドル円が下がらないのだとすれば、「米国経済が減速するのでドル円が下落する」という理屈は説得力がなくなってしまうのかもしれない。

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