マット今井『トレーディングのつぼ』バックナンバー

第132回 “フランス大統領選挙が示すユーロの将来” (2007/05/08)

先週末、フランスで新しい大統領選挙が実施され、右派政党・国民運動連合(UMP)ニコラ・サルコジ候補が社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル氏を破り、新しい大統領に選出された。 今回の選挙事態の結果は短期的に金融市場に何かの影響を及ぼすということはないが、長期的には大きな影響がでるかもしれない。そこで、今回の仏大統領選挙で今後どういった影響がでてくるのかを少し考えてみたい。

今回の大統領選挙はフランスにとって、全く違う2つの政治体制のどちらかを選ぶかという大変大きな選択を迫られた選挙であった。端的に言えば、「小さな政府」か「大きな政府」かという選択である。

現在、世界経済はグローバル化が進み、各国の企業の多くは多国籍化し、それぞれの国同士も資本主義の中で激しい国際競争の波に飲み込まれている。そんな中、今後、フランスはどういう方向に向かっていくべきなのかを国民が選択を迫られたのである。

当選したサルコジ氏は、公務員削減などによる「小さな政府」の実現を呼びかけ、市場・競争原理に基づく英米型の自由主義経済を志向し、一方のロワイヤル氏は社会・福祉政策の充実による「弱者への思いやり」といういわゆる旧来の欧州大陸型の「大きな政府」政策を訴えた。最終的にフランス国民が選んだのは「小さな政府」と英米型の自由主義経済であった。

イギリスはご存知の通り、サッチャー首相のときに、「小さな政府」への大転換を行ったが、欧州大陸では、従来型の大きな政府政策が長く踏襲されてきた。各国が自由主義経済の中で、大きく経済拡大していく中で、こうした旧来の体制が欧州各国の足かせになっていた面もあった。また、失業率も他国に比べて高く、フランスも失業率は8%台で推移、更に25歳以下でみると21%という驚くべき失業率となっている。これに関連して、フランスでは移民問題で暴動が起きるなど不満が渦巻いている。これをどう解決していくかということであるが、フランスは英米に伍するために、企業を優遇し、国際競争力をつけて、経済を拡大させ、雇用を確保していくという選択をしたといえなくもない。

日本では最近、格差社会が問題となっており、その原因の一端は小泉内閣が行った英米型の経済体制への転換だとも言われている。しかし、それ以降、(ある程度の時期的な偶然性はあったとはいえ)日本経済が拡大を続けていることも事実である。フランスも今回の選択により、社会的な問題は別にしても、少なくとも新しい経済発展のステージを向かえる可能性は否定できない。

今回のこうした欧州大国の選択は米国にとっては経済的には脅威となってくるであろう。多国籍化している米国企業にとってはフランス経済は自由化はプラス要因であるが、国としての経済の競争力という点で考えれば、どうしても相対的に米国の国力は低下せざるを得ない。米国は、世界各国を資本主義に導くことに成功し、ここまで、こうしたメリットを享受してきたが、現在では状況が変わってきている。他国が自由経済の中で発展してくることで、逆に米国の相対的地位の低下という事態を招いているのである。これは、現在の中国、インド、ロシアを見れば自明の理である。

また、サルコジ氏はパリ生まれのハンガリー系移民2世で、フランス国立行政学院出身の官僚的な政治家が多い中で、パリ大学出身の弁護士という庶民派のイメージも持っている。もちろん、彼の政治手腕がどの程度あるかという根本的な問題はあるものの、ひょっとするとアメリカンドリームならぬ、フランスドリームの先駆者となるかもしれない。欧州各国がこうした昔ながらの官僚主義から抜け出し、米国型の経済を標榜すれば、現在の経済体制の中では、有利に働くであろう。短期的には、移民系若者の暴動が再び起きたりするなどの不安定な状況が発生して、ユーロにとってマイナスの影響がでる局面もあるかもしれないが、長期的にはユーロを更に強固にする可能性を示した今回の選挙ではなかったかと思う。

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