マット今井『トレーディングのつぼ』バックナンバー

第117回 “欧州大陸とイギリスの違い” (2007/01/23)

先週、日銀が金利の利上げを見送りました。これに関しては、いたるところで解説がされていると思うので、ここではあまり触れないようにします。ただ1つだけ言えるのは、今回海外投資家の大半は、日銀は1月に利上げをするとかなり確信をしていたようなので、円安に対する準備ができていない投資家が多いということは言えると思います。

さて、こうした材料を背景に円全面安の展開となっていますが、通貨によって円安の進み方にばらつきがあります。例えば、昨年同じようなペースで上昇してきたユーロとポンドの間での今回の円安進行具合を比べてみると、その違いが鮮明になっています。
昨年、欧州大陸は低金利を背景に景気の拡大が続いていました。景気がしっかりしている中で、インフレ率もECBの目標の上限である2%を上回る展開が続いていたために、ECBは年間を通じて継続的に利上げを実施していきました。
一方の英国も年前半こそ金利を据置いていましたが、底堅い景気とインフレ率の高止まりを背景に夏場から金利引き上げを再開しました。BOE(イギリス中銀)もインフレ率の目標の上限をECBと同様2% においていますが、昨年夏場にはユーロ圏のインフレ率も英国のインフレ率も2.5%前後でほぼ同水準にありました。
底堅い景気と高止まりするインフレ率を背景とした金利の継続的な引き上げ、そして、継続的な利上げに伴う通貨の上昇、という共通の環境にあったのが昨年のユーロとポンドだったわけです。

しかし、ここに来てこの2つの通貨を取り巻く環境に違いが見え始めました。
まず、昨年は堅調であった欧州大陸の景気ですが、ここに来て、金利上昇とユーロ高の影響を受けて、部分的にではありますが、陰りが見られてきているようです。特にフランスやイタリアでの景況感がやや低下しきたという声を市場関係者の中からよく聞くようになっています。
また、インフレの動向を見ても、昨年前半は目標の上限である2%をずっと上回っていましたが、9月から2%を下回る状態が続き始めました。9月 +1.7% 10月 +1.6% 11月 +1.9% 12月 +1.9% と5ヶ月連続して目標の上限である2%を下回っています。マネーサプライ(市場に出回っている通貨の量)が急増しているので、これが今後の物価の上昇につながるのではないかという心配があるために、ECBはインフレに対して楽観的な見方をしてはいません。しかし、先日のトリシェ総裁の会見で、「(インフレに対して)強い警戒を持っているという表現は今回は使わない」とわざわざ言ったことは、以前に比べるとインフレ沈静化の可能性が高くなってきているという認識をECBが持っていることの表れではないかと思います。
一方の英国ですが、こちらは金融部門の好調を背景に景気は非常に強いようです。不動産市場も非常に活況のようで、利上げにも関わらず、景気はまだまだ好調のようです。景気の好調に伴って、昨年秋頃からインフレ率も上昇していき、消費者物価上昇率は 9月 +2.4%、10月 +2.4% 11月 +2.7% 12月 +3.0% とユーロ圏のインフレ率とは全く好対照な推移になってきています。3%という水準は目標を1%の上回っており、しかも上昇傾向になるとなってはBOEも利上げを継続していかざるを得なくなってくるというのは誰の目から見ても明らかでしょう。

欧州は景気に少し翳りが見えて、しかもインフレもかなり落ち着いてきている。一方の英国は景気の過熱感はまだまだ続き、しかもインフレ率が上昇している。今のこの環境から考えると、昨年のようにポンドとユーロが一緒になって強くなっていくという展開にはならないかもしれないという結論になります。

もちろん、今後出てくる経済指標によっては、両国の状況も変わってくるかもしれません。そのときはまた、認識を変える必要がでてくるかもしれませんが、少なくとも今発表される数字を見ている限り、ポンドとユーロを取り巻く環境には大きな温度差があるということがいえるのではないでしょうか。

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