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マット今井『トレーディングのつぼ』バックナンバー
第116回 “目が慣れるという現象” (2007/01/16)
今年に入ってドル円が120円を超えてきました。しかし、120円を抜けた後の動きは非常にゆっくりとしたものになっています。損切り注文の執行がひとしきり終わってしまったという現象もあると思いますが、ここからドル円を積極的に買っていく人がいないというのも原因の1つになっているのではないでしょうか。そこで、今回は人の「目が慣れる」という現象について考えてみたいと思います。
人間というのは、時間が経てば経つほどいろいろなことを忘れていきます。逆に言えば、直近に起きたことほどよく覚えているものであるともいえます。大きな失敗をして、もう立ち直れないかもしれないと落胆しても、時間が経つにつれて、徐々にショックが和らいで立ち直るという経験は誰でもあることでしょう。
トレードに関しても同様で、一度何かの通貨で大きな損を出すとしばらくその通貨に手が出なくなってしまったりすることもしばしばあります。
また、こうした直近の記憶に大きな影響を受ける傾向は、物の値段に対する感覚という意味でも影響を及ぼすことがあります。
例えば、外為市場で何かのレートが上昇していったとき、私たちは、「こんなに高いところなんて買えないなあ」とよく考えてしまうことがあります。所謂高値警戒感というものです。では、この「こんなに高いところ」と判断した基準は一体何でしょうか?言い換えれば何故そのレートが高いと感じるのでしょうか?それは最近の自分の記憶の中で非常に高い水準にあるということが原因となっているケースが非常に多いように思います。
例えば相場がある時点から継続的に上昇し、最近の高値を更新しているケースなどはその典型です。こうした場合、最近ではこんな高いレートを見たことがないという感覚だけで、そのレートが高いと感じてしまいます。そうすると、その後に自分の感覚を正当化しようとして、この水準として高すぎる理由(理屈)をいろいろこじつけようとするということもよくやってしまう行為です。
最近のいい例ではユーロ円の動向が挙げられます。昨年ユーロ円はほぼ年間を通じて上昇し、昨年の8月には1ユーロ=150円を突破しました。しかし、150円というレベルは今まで経験したことのない高さなので、高値警戒感がでました。十進法の中で生活している私たちには150という数字は非常に区切りのよい数字であったことも影響していたのだと思います。こうなるとヨーロッパに旅行にいった人がユーロは高すぎると言っているという話を持ち出したり、いろんな理由を持ち出していましたが、そもそも為替レートの決定理論自体、未だに有効なものが見つかっていない現状の中で、いくらが適正なレートかなどというものがわかるとはとても思えません。
それはともかく、ユーロ円はその後147円台から150円台のレンジに約2ヶ月ほど入り込みます。2ヶ月ほどたって、何度も150という数字を目にしているうちに、私たちみんなの目が段々慣れてきます。目が慣れてくると今度は150円という水準がそれほど高いような気がしなくなってきます。ここまで来ると、以前より150円という水準でユーロ円を買うことに抵抗感がなくなり、何かのきっかけでまたユーロ円を買い始める。まあ、こういう現象でしょうか。
今回のドル円のケースも同じようなことが想定できます。一昨年ドル円は121円40銭まで上昇しましたが、その後直ぐに失速しました。昨年は120円には一度も到達しませんでした。今の私たちの感覚では、1ドル=120円という水準は相対的に高いレベルと認識されているはずです。実際機関投資家のファンドマネージャーも120円を超えるドルは買いたくないといっています。
こういう状態では、ドルを買戻さないといけない人のドル買いはでますが、積極的なドル買いがでるには少し時間がかかります。大半の人はしばらく様子をみたほうがいいなと考えるのが一般的だからです。
しかし、例えば、ここからしばらくの間119-122円程度のレンジで動いた場合、(もっと狭く考えるから120-121円でもいいですが)、120という数字に徐々に目が慣れてきて、120円近辺という水準が割安に見えてきても全く不思議はないのです。そうなると、何かのきっかけでドル円が上がり始めるという展開が見られることになるかもしれません。
勿論、相場に絶対はありませんので、今回もそういう動きになるとは限りません。ただ、人の心理状態として、「慣れる」という心理的な安心感が投資行動に影響することがよくあるということも少し頭の片隅においておくと面白いのではないでしょうか?
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