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頼まれモノ
ニューヨーカーの友達から「買って来て」と頼まれたものがある。リクエストは以下のようなものだった。
・人形の国のアリス
・ワールド・タンク・ミュージアム
・MY HAPPY AIBO
・王立科学博物館
・ナチュロQジオワールド海・川・山シリーズ
・福神根付
・日本の動物シリーズ
・ 深海生物フィギュアコレクション
・ 北斗の拳
・ タイガーマスク
・ ウルトラマン
・ 大魔神
etc……。
これってなんだかなんだか分かるだろうか。
友人に「欲しくて、欲しくて、ハートが破れそうなんだよ」などと言わせる物の正体は、全て食玩(しょくがん)と呼ばれるオマケ(オモチャ)付きオモチャだった。ご存知の通りお菓子とは名ばかりで、精巧に玩具やフィギュア人形が美しいパッケージ(箱)に入っている。
「TOYOTAやSONYは本当にすごいと思うよ。イチローだって松井秀喜だって、リトル・カズ松井だってグレイト。だけど、このミニチュア玩具を見たときには、言葉を失った。こんな小さくて美しい物を作れる民族は、きっと日本人だけだろう。もはや日本人の知性と技術力には説明なんて必要ない」
ここまで"日本"を褒め倒されて買わないわけにはいかなかった。
コンビニやスーパーやデパートを回り、果ては玩食ばかり売っている専門ショップまで訪ねて、ようやく彼のリクエスト品をいくつか揃えることができた。
そう言えばハンガリー人の夫も、こっそりとこの手のオモチャを集めていた。彼が片付け忘れて部屋に転がっていたオモチャを、私がいくつか捨ててしまった事があったのだが、そのときの怒りようは物凄かった。怒っている夫を見て私が笑ったので、さらに怒っていた。そして、家を飛び出して行った。
帰って来たとき、彼の手には巨大な箱が。東急ハンズで立派な陳列ケースを購入してきたのである。
「この棚にシリーズごとに並べて、作者の名前も付けたりすれば、あなただって二度と捨てたりすることはできないでしょう」
そう言った夫は、以後もオモチャの数と陳列ケースの数を増やし続けている。この玩食ブームは未だに衰えをしらないようだ。お菓子売り場に行けば、常に新しい表品が並んでいるし、絶品になったオモチャにはプレミアムが付き、ネットオークションで売買されている(時には相当な高値になるらしい)。
こんな小さなオマケが、どうして子供から大人まで、さらに外国人たちの心まで掴んでしまうのか。
これまでまったく興味のなかった私は、自分のために小さな玩具をいくつか買ってみた。
オモチャ作りのカリスマ!?
箱を開けると、飴やラムネ菓子が申し訳なさそうに入っている。箱のスペースの90%を占めるオモチャを摘み出し、プラスチックの袋から取り出して眺めていると、あまりの見事さに思わず息を呑んだ。私が買った食玩は"動物シリーズ"なのだが、今にも動き出しそうにリアルで、細かい毛並みまでも再現されている。
もちろん、自分で買ったオモチャは捨てることができない。こっそり夫の陳列ケースを開け、ミイラや古代神像が置かれている段の真ん中に、可愛らしいリスをちょこんと置いた。
「私のリスちゃんを作った人は誰かしら?」
俄然、精巧なオモチャの原型を作っている人たちへ興味が沸いた。オモチャの原型を作っている人たちは「原型師(スカルプター)」と呼ばれ、何人かのカリスマたちがこのブームを担っているらしい。
調べると、私のリスちゃんを作ったのは海洋堂の村松しのぶさんだと言うことがわかった。この世界で頂点に立っている人だ。彼に憧れて模型作りの勉強を始める人も少なくない。
以前からその名前だけは聞いたことがあった海洋堂には、こうした世界レベルの原型師たちが何人もいるのである。
すでに、模型業界での海洋堂は特別な存在に位置づけられている。原型師の技術力、デザイン力は"超一流"。スポーンで名を馳せたアメリカのダイヤモンドコミックやニューヨーク自然博物館からも、直接「原型を作って欲しい」と依頼されているそうだ。
そればかりか、ハリウッド映画に使用するSFXやSF映画ディレクターまでもが、海洋堂の模型に注目している。
小さな海洋堂が。。
リスちゃんを買った数日後、海洋堂の創業者、宮脇修さんの本を読んだ。『創るモノは夜空にきらめく星の数ほど無限にある 海洋堂物語』(講談社刊)には、小さな模型点が世界一の技術を獲得し、世界的なビジネスを成功させるまでのユニークなアイディアと燃えるような情熱の軌跡が記されていた。
今から40年前の1964年4月1日、守口市に貸し本屋を改装して模型屋をオープンさせた宮脇さん。彼が持っていた資金は七万円、店の広さは一畳半だった。しかし、宮脇さんが繰り出すアイディアは、業界の常識を覆し、仲間を増やす。そして模型ファンばかりか、私のような模型やプラモデル作りに無関心な者の心までも掴んでいくのである。
海洋堂のアイディアは消費者の度肝を抜いていく。
「作る事」を楽しみにするプラモデルを「完成品」にして売ったり、テレビのアクションキャラクターを模型にしたり、アニメーションのヒーローや宇宙船でフィギアを作ったり、ノンキャラクターと呼ばれる動物や古代遺跡などをお菓子のオマケにして大ヒットさせたり、とそのイマジネーションはとどまるところを知らなかった。
そして、それは今も継続中である。
現在、新宿高島屋で海洋堂大博覧会が行われている(4月12日までだが、それ以後は全国を巡回する)。海洋堂設立四十周年を記念して行われているこの博覧会には連日、ファンが大挙して訪れている。
(私の友人の言葉だが、)トヨタやソニー、イチローや松井と並ぶほど日本や日本人の記号にまでなりつつある海洋堂。その波乱万丈の40年を、私もぜひこの目で確かめたいと思っている。
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