| Vol5.『アレックス・ロドリゲス』 | 2004年3月3日更新 |
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大きな少年アレックス
今、最も人気のあるメジャー選手と言えば、間違いなくその一人はアレックス・ロドリゲス選手だ。私も、2001年のオールスターゲームの時、アレックスを間近で見たのが、確かにスーパースターには不可欠な“オーラ”があった。彼が現われるだけで、辺りは華やいだ空気に包まれるのだ。
オールスター戦の前日、ホームラン競争の前の打撃練習時のことだ。私は、勇気を出し、バッターボックスからベンチへ戻ろうとする彼に(まるで普通を装って)声を掛けた。彼はレンジャーズのユニフォームではなく、アメリカンリーグの選手用のユニフォームを身に付けている。
「HI! ALEX」
もちろん初めて話すのだけれど、アメリカ人のジャーナリストたちが彼をファーストネームで呼んでいたので、私も真似たのだ。
「今日の調子はどうですか?」
なんと言うつまらない質問だろう。しかし、英語の発音にまったく自信のない私には、そう聞くのがやっとだった。
彼はくるりと振り返り、東洋人の私を見ると、小さく「ハハン、ICHIRO!」と言って微笑んだ。私がイチロー選手の取材に来ている日本人だとすぐに理解したのだ。立ち止まった彼は、緊張で体を硬くしている私を前に、バットのグリップを両手で握る
と、それを天に付き上げ大きく伸びをした。
さらに大男に見えるアレックスに、そのまま無視されるのだと、その姿を眺めていたのだが、突然、私の目に、少年のような明るい笑顔が飛び込んできた。
「調子は悪くないよ。すっごくこのゲームを楽しみにしていたからね。回りは尊敬する選手ばかりだからね、力を尽くしてプレーするよ」
そう言ってまた笑顔を見せると、彼はベンチへと走り去った。
ああ、なんという爽やかさ。まるで風が吹き抜けたようで、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。
あの日から、アメリカ国民同様、アレックスの熱烈なファンになってしまったのだった。
そんな彼に付いてのビックニュースが飛び込んできた。2月17日、交換トレードにより、テキサス・レンジャーズからニューヨーク・ヤンキースへの移籍したアレックスの入団発表記者会見が行われたのである。
私は会見をテレビで見たのだが、その盛況さと言ったら物凄かった。アレックスの入団発表に同席したのは、監督のジョー・トーリ、ヤンキースのキャプテンでありアレックスとは大親友でもあるデレク・ジーター、そしてメジャーリーガーたちのヒーローであり野球殿堂入りも果たしているレジー・ジャクソン。まさにスーパースターの入団に相応しい。
300人を超える報道陣に囲まれながら、マイクに向かったアレックスは、輝くような笑顔を見せ、喜びを素直に表現していた。
「こんなに幸せなことはありませんよ。(ニューヨークには)特別な思いもありますし、こうしてヤンキースに入団することになったことを、心から光栄に思っています」
アレックス・ロドリゲスはニューヨーク出身である。
「僕自身のメジャーリーガーとしてのキャリアにおいて、今、勝利を重ねることが一番大切な時期だと思っています」つまり、彼は、ワールドシリーズでチャンピオンになるためにヤンキースへの移籍を切望したのだった。
王者ヤンキース
テキサス・レンジャーズからニューヨーク・ヤンキースへの今回の移籍、実はメジャーリーグの“史上初”尽くしだった。まずは、その契約年俸だ。アレックスは、アメリカのプロスポーツ界でも、類を見ない史上最高額。その額なんと、10年間で約200億円以上ともいわれている。気の遠くなる金額だが、実力・人気ともに抜きん出ているアレックスになら、その額を支払っても十分な価値が見込めるのだろう。さらには、前年リーグのMVPに輝いた選手が翌シーズンの開幕前に移籍してしまうのも初めてなのだという。アレックスの移籍を報じる記事をあれこれ読んでいくと、ヤンキース入りの経緯は、単純明快ではなく、かなり複雑な道のりを辿っていたことがわかる。アレックスを有しながら4年間連続で最下位になってしまい、経営状態がどん底にま
でなったレンジャーズは、昨シーズン終了後、アレックスを金銭トレードで他球団に“売り渡す”ことを考えていた。高額年俸の彼を移籍させ経費を節減することは、レンジャーズにとって現実的な手立てだった。実際、2003年の12月には、ボストン・レッドソックスのパワーヒッター、マニー・ラミレス外野手とのビッグトレードが“ほぼ合意”にまで達してもいた。しかし、この契約は最終段階で暗礁に乗り上げ、白紙に。
その後、レンジャーズはアレックスの放出を諦め、彼をチームのキャプテンに据えてキャンプイン、再スタートを切っていた。が、ここで登場したのが、メジャー一裕福な球団、ヤンキースだった。ヤンキースのサードを守っていたアーロン・ブーンがじん帯を断裂し、今シーズン戦線離脱することが決定していた。そこで、遊撃手であるアレックスを三塁手にコンバートすることを前提に移籍を目論み、極秘裏にレンジャーズに接触していたのである。移籍成立までの難関は、膨大な彼のサラリーだ。10年契約したレンジャーズから支払われるはずの残りの年俸をいったいどうするのか。しかしそれもすんなりと解決した。6700万ドル(約70億600万円)をレンジャーズが負担し、ヤンキースが残りの1億1200万ドル(約118億円)を、分割し、一年間に1600万ドル(約16億9000万円)を支払うという契約で合意に達した。ヤンキースはその財力に物を言わせ、アレックスを入れて4人の超大物選手を手に入れた。ケビン・ブラウン、ハビア・バスケスという2人のピッチャー、ゲーリー・シェフィールド外野手、そして三塁手のアレックス・ロドリゲスだ。年間のサラリーが1000万ドルを超える選手が9人になり、選手のサラリーの総額が一年間で1億5000万ドルほどになるという。
金満家と呼ばれようが、お構いなし。チャンピオン奪回を目指し我が道を行くヤンキースは“どこ吹く風”だ。
3月30、31日に日本で行われるメジャー公式戦、ヤンキース対デビルレイズ戦は、とんでもないゲームになるだろう。ジアンビ、シェフィールド、アレックス・ロドリゲスに加え、我らが松井秀喜というバッター陣を一同に観られるなんて。もし、このプラチナチケットを持っている人がいたら、球場にはかならずグローブを持参すること。ホームランはもちろん、ファールボールだって「家宝」になるのだから。
世界が注目する背番号「13」
さて、話をアレックス・ロドリゲスに戻そう。アレックスとはいったいどんな選手なのか。その活躍に心躍らされていた私も、詳しいプロフィールは知らなかった。アメリカのベースボール雑誌やインターネットで調べて見ると、彼こそ真のドリームメーカーだった。1975年7月27日、ニューヨークに生まれたアレックスは今年28歳。93年、シアトル・マリナーズにドラフトの1位で入団する。94年にメジャーリーグに出場し、96年にはリーグで首位打者を獲得。FA権を獲得した2001年にレンジャーズへ移籍すると、以後3年連続ホームラン王に輝いた。2003年は、念願のMVPにも選出されている。昨年史上最年少の27歳249日で通算300号を達成。190センチ、95キロ。右投右打。妻の名前はシンシア。プロフィールだけを読んでもアレックスが「ベースボールの子」と呼ぶに相応しいことがわかる。そんな彼はいわゆる移民の子だ。両親はドミニカ共和国の出身。キューバと並び、優秀なメジャーリーガーを数多く輩出しているドミニカの血こそが、彼の才能の出発点でもある。
しかし、アレックスを育んだ環境は決して恵まれたものではなかったという。幼い頃に父親が失踪し、母子家庭で育つことになった。
貧困に苦しんだ彼が夢を抱き続けられたのは、ベースボールとの出会いがあったからだ。小学生に入る前に野球をはじめた彼は、他のスポーツでも抜群な運動神経を見せ、周囲の誰もが「プロのスポーツ選手になるだろう」と噂した。ショートで華麗な守備を見せ、バッティングでもホームランを連発する彼が目標にしたのは、すでに名遊撃手としてスターになっていたカル・リプケン・ジュニアだった。
「いつかリプケンのような選手になりたい」という夢が、アレックスを支え続けた。ニューヨークからフロリダに移り住んだ彼は、中学生の時、キャンプに来ていたリプケンからサインをもらったことがあるそうだ。そのサインはずっと彼の部屋の壁に掲げていたという。
ハイスクールに入ると間もなく高校全米選抜チームに。体格も技術も抜きん出ていた彼は、すでにメジャー級の力を持っていた。
17歳のときにドラフトで指名され、高校生選手としてシアトル・マリナーズに入団したのだ。彼には尊敬するカル・リプケンと同じ背番号「3」が与えられた。その後、94年にメジャー昇格して以降、幾度か怪我には見舞われたが、目覚しい活躍は言うまでもない。今やベーブ・ルースやレジー・ジャクソンといった過去のスーパースター選手と肩を並べる存在になっている。
「ヤンキースのピンストライプのユニフォームを着ること、世界一を目指してプレーできることは本当に光栄なことです。三塁手への転向は、僕にとって新しい挑戦だし、エキサイティングなことだよ。19歳のころからいつか親友のジーターと、『いつかは2人で一緒にやりたい』と話していたんだ」
アレックスは、ヤンキースでは背番号3番を付けることができない。ベーブ・ルースが付けていた3番は、永久欠番になっているからだ。
新しい背番号は13。子供の頃フットボールでクォーターバックをやっていたことがあり、そのときには13番を付けていたそうだ。
「僕にとっては、幸運の数字さ」
キリスト教では不幸の数字とされる13番が、アレックスによってラッキーな数字とされるかもしれない。
松井に加えアレックスのプレーも心待ちにしている私は、今シーズンも、メジャーリーグの衛星放送のスケジュールに合わせ、生活をすることになりそうだ。 |
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