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縁日

「へい、兄貴」と普段よりは少しトーンを下げ、けれどもはっきりとした口調で呼びかける。声をかけられた“兄貴”はまんざらでもない顔をしながら、うなずいて歩く。僕は兄貴の斜め後ろを微妙な間隔を保ちながらついていくのだが、兄貴の肩越しから見える景色が面白い。向こうから楽しそうに喋りながら歩いてくるカップルも兄貴に気がつくと、口をつぐみ道の脇の方に寄っていく。友達とふざけながら歩いてくる学生も僕らを見つけると急に口を閉ざし足早に通り過ぎていく。兄貴が見事に剃り上がっている頭に手をかけようものなら効果抜群だ。

 帯には団扇を差し込み、わざと胸が少し見えるようにだらしなく浴衣を着ている。運動部に所属し、多少は鍛えていた僕の腹筋は6つに割れている。時おり腕まくりをするのだが、そこにはまっ黒に日に焼けた筋肉質の太い腕。浴衣はスポーツをしている男にこそ似合うものだ、と妙な納得をしている。普段、履きなれない下駄にも慣れてきた。

 盆栽を売っている店の前に来るとその店主と話し込む兄貴ではあるが、盆栽に興味のない僕は次に面白そうな露店を探す。「今度はやっぱり金魚すくいかな」と云いながら腕まくりをするのだった。

 さて、今週のテーマは縁日です。僕の実家は、東京は台東区谷中のお寺です。夏になると上野の不忍池の周りに出る露店巡りをするのが好きだった。お寺の跡を継いだ叔父はもちろん、頭を丸めている。そのせいか、一緒に浴衣を着て不忍池を歩くと何故か皆避けてくれる。僕が高校生の頃には、叔父と叔母と三人で歩き、わざと「兄貴」「姉ご」と云いながら歩いたこともあった。
その叔父も還暦を迎えると同時に亡くなってしまった。夏祭りの季節になると二人で歩いた不忍池を思い出します。
2009年7月29日(水)10:33
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